*別役実作 柄本明演出 公式サイトはこちら アトリエ乾電池 8月4日で終了
「ベンガルさんがいいですよ」
知人のすすめで急遽チケットを予約、昨年春オープンしたアトリエ乾電池にようやく足を運ぶことになった。下北沢は駅前劇場、OFFOFFシアター、本多劇場、歩いてもスズナリと、近場しか行ったことがない。本多劇場の通りを直進し、踏切を渡る。踏切を渡って向こうへいくのは、終演後にマルディ・グラへお茶を飲みにいくときだけかな。ちょうど劇団のスタッフさんが公演の看板をもって道案内に立つところに出会い、「まっすぐいってクリーニング屋の角を曲がってください」と教えていただいて安心する。
この猛暑のなか、ご苦労さまです。
駅前の喧騒とはうってかわった静かな住宅街にアトリエ乾電池がひっそりと建つ。受付スタッフさんも帽子やタオルで暑さ対策、開場までロビーを開放してくださったので、ここでひといきつく。
靴を脱ぐのですね。覚えておこう。
さて場内は新宿ゴールデン街劇場より大きく、スズナリよりも小さめといった感じで、客席の居心地もよく、いい雰囲気である。舞台には中央に大きな楕円形のテーブル、上手には丸い小テーブルがあり、町のミニチュアや可愛らしい小物が置かれている。
ここに住む魔女(角替和枝)は頭痛に悩み、開幕から「エミリー、アスピリンを持ってきて」としきりに訴えるが、誰も出てこない。そのうち招待状をもらったからと神父(ベンガル)がやってきて・・・。
この作品をみるのははじめてで、戯曲も読んだことがない。劇の冒頭、魔女の台詞に出てくる「エミリー」とは、ソーントン・ワイルダーの『わが町』に登場するエミリーらしいことは、その後の魔女と神父のやりとりからわりあいすぐわかる。また「セイラムの魔女狩り」云々の台詞からは、アーサー・ミラーの『るつぼ』が、上手に置かれた町のミニチュアをめぐるやりとりからは、別役実の『メリーさんの羊』がそれぞれ想起される。しかしそれらを知らなくても本作を楽しむ妨げにはならない、と思う。
と筆が鈍るのは、劇中いくどとなく睡魔に襲われ、集中できなかったためである。これはなぜだろう。暑さによる睡眠不足はいつものことであるし、空調も適性室温が保たれていた。知人のおすすめ通り、ベンガルが演じる神父は、これまでいろいろな舞台でみてきた別役作品の誰とも違う雰囲気を持っており、角替の魔女とのやりとりもおもしろいかったのに。
前述と少し矛盾するが、本作は登場人物のやりとりから『わが町』にそうとうの思い入れをもった劇作の意図があると思われる。
そして『わが町』は、それこそさまざまなカンパニーで何度もみたことがあるのに、いまひとつ明確に自分のイメージが持てないという相性のよくない作品なのだ。『わが町』が本作に深い影を落としている(という表現が適切かどうかはわからない)ことを意識したとき、おそらく自分のアンテナが鈍ってしまったのだろう。
そして次の理由は、戯曲の持つリズムや呼吸と、自分のそれが微妙に合わなかったためではなかろうか。もともと別役実は大好きな劇作家であり、その劇世界にも親しみを持ってきた。
しかし何作もみている劇作家であっても、適度な緊張をもって観劇に臨むことが大切だ。まして乾電池の作る別役である。疑いや警戒を抱いていもいいくらいではないか。
カーテンコールではベンガル氏が、「まだ日も高い。熱中症にならないよう気をつけてお帰りください。途中で倒れたりしたら、何の芝居の帰りだと変なうわさがたちます。這ってでも帰って」と挨拶して、満席の場内は笑いに包まれた。観客が倒れるほどの芝居といううわさも、不気味な緊張感があって悪くないと思いますが。
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