因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

板橋ビューネ2015 Bプロ『ペンテレジレーア/パラタクシス』&『ゆで卵の作り方』

2015-10-11 | 舞台

*公式サイトはこちら サブテレニアン 10,11日 Aプロの記事 札幌バージョンは10月17-18日 札幌市のアトリエ阿呆船にて楽園王、テアトロ・マアルイin風蝕異人街、雲の劇団雨蛙、FAP’S企画の公演あり

DEAD THEATER TOKYO 『ペンテジレーア=パラタクシス』
 ハインリヒ・フォン・クライスト原作 速水淑子翻訳・ドラマトゥルク 山田咲演出・構成
 今回が初見の劇団・・・といっていいのだろうか、公演パンフレットには、「2014年8月より山田咲と速水淑子を中心に演劇研究ユニオンとして始動」とあり、この紹介文からして、気の合う仲間どうしで劇団を旗揚げした!というノリとは異なる、冷静で学究的な方向性が感じられる。
 実際の舞台も、これまで見たことのない様相であった。舞台には女優がふたり・・・といっても一人はステージ端の椅子にかけ、テーブルに置いた台本をマイクを使って読み、もうひとり(佐藤小実季)は演技エリアで台詞を発し、動く。物語を最初から順に追うのではなく、第15幕から9幕にもどるなど、何らかの意図で選ばれたいくつかの幕の場が行き来する。よって観客は物語の流れや構成を理解・把握することが非常に困難であり、また女優はふたりとも感情を排したかのような表情と発語をするため、正直なところ、この舞台から何をどう感じとればいいのか困惑した。
 しかしその困惑は、これまで味わったことのないものだ。「感情を排したかのような表情」といっても、決して無表情ではなく、独自の構成と演出、演技が、いかにも斬新を狙っているようであったり、いたずらに手法に走ったり、頭でっかちの独りよがりにはまったく見えず、好ましくさえ思われたのである。
 公式サイトや、公演の折込にあったチラシ、8つ折りのリーフレットは紙質もよく、デザインも上品で、センスのよさが窺われるものだ。奇をてらった演出で客席をびっくりさせよう、誰にも真似できないものを作ろうといった他者との比較、評価を意識したものではなく、自分たちの内面深く思考し、戯曲に向き合い、表現を模索していると思われる。
 タイトルロールのペンテジレーアが、「一方で理解を拒むようにみえ、他方で理解を求めるようにも見える、両義的な存在であった」(リーフレット掲載の速水淑子の文章より)というのは、山田咲の創作の姿勢に通底するものがありそうだ。

ヘアピン倶楽部 『ゆで卵の作り方』 
 ウジェーヌ・イヨネスコ原作 有川義孝演出・出演
 昨年もこの板橋ビューネで『マクベス』を観劇したヘアピン倶楽部。今回は、もじゃもじゃの髪にくたびれたスーツを着たあまり若くない男性が、聴衆に向かって「ゆで卵の作り方」を解説し、実演する。まさに題名の通りである。「卵とはどういうものを指すのか」から始まる解説は、必要以上に詳細で丁寧、卵を「おたまご」といったり、動作にもいちいち「お」をつけたり、だいたいここまで大まじめに解説するのが「ゆで卵の作り方」なのだから、人を食った話である。有川義孝は肩の力を抜いた自然な演技で、この作品を楽しんでいるかのような余裕が感じられる。
 こちらもリラックスして楽しみながら、浮かんできたのは同じイヨネスコの『授業』であり、チェホフの『煙草の害について』であった。演じているのは、亡くなった中村伸郎である。実を言うと、筆者は中村が演じるこの2作品をみたことがない。最晩年に出演した別役実や太田省吾の舞台での中村の立ち姿や台詞、中村自身が執筆したエッセイなどを読んで想像する見たことのない舞台。それが今回の『ゆで卵の作り方』から感じられるのである。
 観劇体験があるのは、柄本明版である。柄本にしかできない舞台であり、それを否定するものではないが、柄本はそれが持ち味のひとつとはいえ、しばしば演技に悪乗りが過ぎるところがある。もし柄本が『ゆで卵の作り方』を演じるなら、そうとうな味つけをしたのではなかろうか。
 有川の舞台は淡白である。イヨネスコ作品らしいブラックな結末がと期待したが何もなく、15分くらいで終わってしまった。この肩すかしも実に好ましく、愉快な気分で劇場をあとにした。

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