因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団印象『青鬼』

2009-03-19 | 舞台
*鈴木厚人作・演出 公式サイトはこちら 相鉄本多劇場 22日まで 横浜SAAC「再演支援プロジェクト」リバイバル・チャレンジ#2 (1,2,3,4 5)初演の記事を読み直すと、今回の再演は、大幅な書き替え、改訂版と括ってしまうのはもったいなく、ほとんど新作と言ってもよいのではないか。いつものタイニイ・アリスに比べると、相鉄本多劇場は広さや高さ、奥行きもあり、多くの面でハードルを越えるための努力があったことだろう。
 主人公が夫から妻に変ったことや、より抽象度を深めた舞台美術(坂口祐)に、本作を再演するにあたって劇作家の中にさまざまな葛藤があったことがうかがえる。初演では自分がタイトルの『青鬼』に野田秀樹の『赤鬼』を連想してこだわり過ぎ、充分に味わうことができなかった。今回いつのまにかタイトルが『青鬼』であることを忘れてしまっていた。終幕、イルカのプーチンが亡くなったとき、「あ」と思い至った。「青鬼」の登場しない『青鬼』。初演では飽食がひとつのモチーフになっていたが、今回は「食べる者」の存在の対極には、常に「食べられる者」が存在しており、それが人格をもって同じ場所に立ったとき、両者の交わりがどんな感情を生むかが描かれていたように感じる。夫婦が向き合って食事をする終幕は苦く悲しい。舞台に描かれているのは、劇作家鈴木厚人の心のほんの一部であると思う。書きたいこと、伝えたいことはまだまだ多く、強く深いものが内在していて、それがこれからどのように紡ぎ出され、構築されていくのか。それは劇作家本人にもわからないかもしれない。早急な成果を求めるのではなく、じっくりと待ちたい。2年足らずのあいだに劇団印象の舞台を続けてみる機会を与えられたことは、自分にとって幸運だった。劇作家、劇団から少し距離をおいて共に歩む楽しみを知ったのだから。
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