因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

新宿梁山泊 李麗仙追悼特別公演『少女仮面』

2021-12-25 | 舞台
*唐十郎作 金守珍演出 公式サイトはこちら 芝居砦満天星 27日終了 
  
 今年6月に逝去した李麗仙とゆかりの深い同劇団による「李麗仙追悼特別公演」である。ロビーでは「李麗仙写真展」として井出情児、西村多美子、大須賀博撮影の舞台写真が一面に飾られ、そのなかには貴重なプライベートのものまであり、すべて撮影自由とのこと。訪れた人は熱心に見入り、画像に収めたり、上演前から劇場ぜんたいが「不世出のアングラ女優・李麗仙」に対する熱い思いに溢れている。

 思い起こしてみると、『少女仮面』にはじめて出会ったのは80年代のはじめ、主演は渡辺えり(当時渡辺えり子 小林勝也演出)であった。そこから軽く数十年後、2019年文学座附属研究所研修科の発表会(小林勝也演出)、2020年は若村麻由美主演のトライストーン・エンタテイメント公演(杉原邦生演出)に続いて、月船さららが主宰・主演を務めるmétro公演(天願大介演出)、そして今回の追悼公演と、ひとつの作品を多種多彩な座組によって体験する幸運を与えられていることに気づく。

 このたび春日野八千代を演じるのは、水嶋カンナである。この名は唐十郎の『ベンガルの虎』のヒロインの名であり、状況劇場時代の初演では李麗仙が演じた役だ。その名を俳優として名乗り、同じ役を演じることの誇りと重みはもちろん、この舞台への意気込みや畏敬の念など、さまざまなものを背負っての公演であると想像する。水嶋は2013年に春日野を演じたことがあるとのこと(→こちら)だが、今回は追悼のひとしおの思いが強く伝わる舞台となった。

 穴倉のような芝居砦満天星はまさにアンダーグラウンド劇場であり、ぎっしり満席の観客が息をつめて見守る『少女仮面』は特別な空気が支配するものであった。自分は李麗仙の舞台を観たのは、おそらく86年の『ねじの回転』一度きりで、それよりもNHK大河ドラマ『黄金の日々』のお仙役が鮮明である。ちょうど再放送中でもあり、異質な雰囲気を纏いながら、梨園の御曹司である主演の市川染五郎(現・松本白鸚)はじめ栗原小巻や川谷拓三とのやりとりに不自然なところは全くなく、自在なすがたに引き込まれる。それは石川五右衛門役で一躍スターとなった根津甚八も同様である。

 「李麗仙」という核をしかと持ちながら、作品や媒体によって自由自在に変容し、結果唯一無二の俳優として息づく。それがまことに少ない出会いのなかでかろうじて得た、自分の李麗仙観である。

 願わくばこれからも『少女仮面』がさまざまな俳優、演出によって上演が続くことを切に。唐十郎の戯曲は挑戦する人に「おかえり」あるいは「いらっしゃい」と温かく迎えつつ、おそらく新しい難問を与えるのではないだろうか。その苦闘の末にどこへたどり着けるか。客席のわたしたちもまた課題を与えられ続けていくのである。
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