因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団劇作家「劇読み!Vol.5 13人いる!」よりEプロ『母のブラウス』&『若者たちと商人はヴェニスで』

2014-01-24 | 舞台

 続けてEプロを観劇した。演出はいずれも村上秀樹(回転OZORA)。28日14時からも上演あり。(1,2,3,4,5,6)
①福山啓子作 『母のブラウス』
②篠原久美子作 『若者たちは商人とヴェニスで』
 装置変換のための短い暗転をはさんで、2本つづけておよそ70分の上演となった。
 『母のブラウス』
 タイトルのとおり、舞台おくには刺繍のはいった白いブラウスがかけられている。その手前には介護用ベッドや椅子。老いた母照子(藤あゆみ)は車椅子生活で、アルツハイマーの症状もある。パート仕事をかけもちしながら母の世話をする娘の邦子(清水ひろみ)はシングルマザーだ。邦子の兄明彦(大鷹明良)夫婦は母と同居ではあるが、介護はほとんど邦子が担っているらしい。明彦の娘あかり(沼口莉嵯)はもうじきはじめての子どもが生まれようとしている。
 『若者たちは商人とヴェニスで』
 シェイクスピアの『ヴェニスの商人』がベースになった会話劇だ。「期限までに金を返せない場合、からだの好きなところの肉を1ポンド切り取る」という証文を交わしたユダヤ人シャイロック(剣持直明)とキリスト教徒のアントーニオ(阪上善樹)が、その裁判の前夜に議論を戦わせる。

『母のブラウス』
 パンフレット掲載の本作のストーリーと自分の記憶を確認しているうちに、細かいところがあいまいであることに気づく。兄一家が母といっしょに2階に、邦子とその息子は1階に住む。つまり二世帯住宅での暮らしだと書いてあるのだが、自分はその情報を聞きもらしていた。
 というより邦子と兄明彦のやりとりを聞いて、母の世話に対する気持ちや労苦の温度差を強く感じたのである。兄嫁は「腕がだるいとか言って」(記憶はあいまい)介護に関わらず、よそに所帯をもっている邦子がわざわざ通いでやってくるのだと思いこんでいたのだ。作品ぜんたいを大きく読み違えるほどではないにしても、登場人物の会話がすべてといってよい作品なので、もっと集中すべきだったと悔やんでいる。
 劇団フライングステージの『ワンダフル・ワールド』での優しいおばあちゃん役が記憶に残る藤あゆみに、この舞台で再会できたことが嬉しい。少しきついくらいにてきぱきしたもの言いの娘邦子に対して、ぼんやりおっとりとことばを返す。藤あゆみが舞台にちょんと(そんな感じです)座っているだけで、介護ベッドの置かれた部屋に差し込む朝の光、寝たきりの人が暮らす部屋にこもる匂いまでが感じられるのだ。

 はじまってしばらくは人物や設定などの初期情報が提供され、やがて問題が提起されて核心にはいったとこそで転換して・・・ということを舞台の流れに沿って予測しながらエネルギー配分や緊張の度合いを決めていくのだが、どこに力を入れて聞きとるか決めかねているうちに、「あっというまに終わってしまった」というのが実感である。
 前述のように細かいところまでしっかり聞きとっていれば、もっと手ごたえを得られたのではないだろうか。動きの少ない作品だけに、一度集中が途切れてしまうと台詞を聞きとりながら劇を把握することがむずかしくなるのだ。

『若者たちは商人とヴェニスで』
 言わずと知れたシェイクスピアの『ヴェニスの商人』をベースに、「もし裁判前夜にあの二人が会っていたら」という過程のもと、原作に書かれていない両人の心の奥底からほとばしり出る思いが1篇の戯曲になったものだ。裏版『ヴェニスの商人』、一種の外伝といってよいだろう。劇団だるま座の剣持直明がゆるぎのない圧倒的な台詞術でシャイロックを演じ、アントーニオ役の阪上善樹もそれに応える。息苦しくなるような対話劇だ。

 作者の篠原久美子にはこれまでも『マクベス』を基にした『マクベスの妻と呼ばれた女』(2/22~3/2シアター代官山で公演あり)、同じく『ハムレット』から『何様!』を執筆している。
 古典や名作と言われる作品のもつ魅力を最大限に活かし細心の注意をはらいながら、みずからの創作を大胆かつ巧妙に展開するのが、篠原作品の特質であろう。
 よって本作には全身を耳にして台詞を聞きとり理解した上で、原作との距離感や飛躍を味わうところに楽しみがある。ユダヤ教とキリスト教という、祖を同じくしながらぜったいに相いれない価値観をもつ者どうしが火花を散らすように議論を戦わせる。こちらは耳と頭を駆使しなければならない。とくに終盤に交わしたやりとりから、シャイロックの妄想がくりかえされる場面で舞台の空気が激しく変化する様相は、これが劇読み公演であることをしばし忘れさせるほどの迫力があった。

 終演後に上演台本の物販があったのだが、出遅れてあっというまに完売していた。『若者たちは商人とヴェニスで』の本格的な上演をぜひみたい。この日観劇した人の多くが感じたであろう。舞台装置は小さなテーブルに置かれた燭台と椅子、照明も音響も、息を潜めるかのように控えめだ。リーディング公演にありがちな仕掛けや試みよりも、戯曲のすがたをきっちりとみせることを第一の目的にした舞台であった。

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