あっというまの1年、しかもこれまでに味わったことのない恐怖や不安、困惑や怒り、無力感に襲われた特別な年でした。そして安心して劇場の客席に身を置けることの幸せを噛みしめる年でもありました。感謝と喜びをもって、2011年の因幡屋演劇賞は以下の皆さまに贈ります。
1,ミナモザ公演 瀬戸山美咲作・演出『エモーショナルレイバー』
シアタートラムでのネクスト・ジェネレーションvol.3における再演。
今年になって、ますます巧妙な手口の振り込め詐欺が増えている由。彼らのすがたはみえないけれども、どこかに必ず存在する彼らにこの舞台をみてほしい。
2,劇団Mayの活動
金哲義作・演出『晴天長短』、『夜にだって月はあるから』、『ビリー・ウェスト』
春先にその存在を知ってからというもの、怒涛の勢いで芝居をうちつづけるMayは自分にとってなくてはならない存在になった。来年は今年ほど東京公演はないそうで、ならば自分から大阪に行くしか。
3,明治大学演劇集団声を出すと気持ちいいの会の活動
山本タカ脚本・演出『被告人ハムレット』、『黒猫』(再演)
舞台の完成度なら断然『黒猫』であるが、どちらか1本と言われれば『被告人ハムレット』を推す。シェイクスピアの『ハムレット』を、臆せず大胆な切り口で力強く読み解いた舞台から新鮮な刺激を受けた。来春は同じシェイクスピアの『真夏の夜の夢』に挑む。大阪・一心寺シアター倶楽での公演もあり、来年の活動をもっとも期待する劇団のひとつだ。
4,劇団フライングステージ公演『ハッピー・ジャーニー』
以前も書いたことがあるが、高校時代の恩師から聞いた「何をいかに言うかは、何をいかに言わないかである」ということばは、演劇をみるとき、自分が文章を書くとき、常に心の奥にある。この舞台をみて改めて心に刻みつけた。来年の夏がきたとき、1年前の夏をどんな気持ちで思い出すのだろうか。
5,学生版『日本の問題』(A,B)
「日本の問題」という大きな課題が与えられること、上演時間が短いこと、劇場が狭いこと、3劇団ずつ連続上演すること。どれも低くはないハードルだ。それに全身で立ち向かうもの、逆手にとって自分たちが思いきり楽しむものと、カラーもさまざま。いくつかの舞台は、もっと長いバージョンでみたい、その先の物語を知りたくなった。これは描写が不十分であるということではなく、もっと深く遠いところへ到達する可能性があるということだ。逆にもっと削ぎ落としたほうが、客席にメッセージが明確に伝わるのではという舞台もある。
すでに手にしているものをさらに活かすか、足らないところを得ようとするか、そのままで走るかはそれぞれの自由だ。こちらも負けずに。
上記劇団に最初に出会ったのは、もっとも早いミナモザとフライングステージで6年前、コエキモは1年前、Mayにいたっては9カ月前、『日本の問題』に参加した学生劇団のなかには今回がはじめてのところもあります。
いずれもすでに何本も上演をみている知り合いから「よかったらぜひ」と勧められたり、自分の通信やブログを読んでくださった関係者からご案内をいただいたりしたものばかり。
つまり完全に自力でたどりついたものは皆無ということで、自分ひとりで得られる情報がいかに少なく、偏りがあるかに気づかされ、それまで何をみていたのかと愕然としました。
まさに「昔はものを思わざりけり」で、劇団に出会って以来まるで新しい恋に落ちたかのように、豊かで幸せな時間が続いているのです。
さまざまな舞台との新鮮で豊かな出会いを与えてくださった方々に感謝します。
3.11の震災をさかいに、変えなければならないものと変えてはならないものを、これまで以上に考え、実行しなければならないでしょう。
来年も因幡屋通信、因幡屋ぶろぐを、どうかよろしくお願いいたします。
みなさま、よいお年を!
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