因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『天保十二年のシェイクスピア』

2005-10-10 | 舞台

*井上ひさし作 蜷川幸雄演出
 NINAGAWA VS COCOONシリーズの最後を飾るこの秋の超目玉作品。五年前の『グリークス』に負けないくらいの豪華キャストとスタッフが結集、上演時間が四時間近い大作である。
 ロンドンのグローブ座を模した舞台が作られており、開演十分前くらいから、いかにもシェイクスピア劇らしい扮装の俳優が数人、舞台上に現れる。これがまず興をそぐことになった。舞台装置をチェックする舞台監督のような人物も出入りしつつ、開演直前の舞台裏の様子らしいのだが、この部分がその後に対して効果をあげていない。彼らが引っ込むと乗りのいい音楽にのせて隊長(木場勝己)と百姓たちが登場し、柱を切り、バルコニーの手すりをはずして、あっという間に天保の世界になだれ込む。この勢いに前述の趣向は不要ではなかったか?
 俳優で印象に残ったのは、これまでみたことがないくらい明るく弾けた藤原竜也。ハムレットが先王の亡霊に出会う場面や、「生きるべきか死ぬべきか」の場面が見事に茶化されていて、藤原は実に楽しそうに演じていた。シリアスな彼しか見たことがないので、とても新鮮であった。もうひとりは前述の隊長役木場勝己。物語の語り部のように舞台上に自在に現れ、客席との橋渡し的な役割も果たしていた。緩急自在、実に堂々たる演技で「今夜の舞台はこの人についていこう」という気にさせる。
 チケット代の高さと芝居の長さは、豪華俳優の顔見世代。『グリークス』のようにからだが震えるような感覚はなかったし、正直なところ「またみたい」とまでは思えなかったが、シェイクスピア祭り、蜷川の仕事の集大成と古希のお祝いと思えばよいであろう(10月9日最前列で観劇)。


 

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