因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

アリスフェスティバル2011 Les Bonnes~女中たち~

2011-08-24 | 舞台

*タイニイアリス&演戯団コリペ(釜山)共同制作 ジャン・ジュネ原作 李潤澤(演戯団コリペ)演出 公式サイトはこちら タイニイアリス 28日まで
 アリス・フェスティバル2011の一環として行われる「競演東西南北」は、韓国と在日が韓国籍、朝鮮籍の別なく5つの劇団が舞台の腕を競い合う企画。本作はその第1弾である。韓国から4名の俳優が来日し、韓国、日本、韓日MIXの3つのバージョンが上演される。
 自分はMIX版を観劇した。通路も丸椅子が置かれて、あっという間に超満席となる。
 おや、何だか先日の『小鷹狩掬子の七つの大罪』によく似た雰囲気だ。

 奥さま(ペ・ミヒャン)の外出中、双子の女中クレール(坂本容志枝)とソランジュ(久保庭尚子)は、片方があるじの衣装や装飾品を身につけて美しく装い、片方はそれにかしずく「奥さまごっこ」に興じている。お遊びのクライマックスは奥さまを殺すことだ。もうすぐほんものの奥さまがお帰りになる。今度こそは。

 本作は何年も前に一度みたことがある。下北沢のスズナリであった。ふたりの女中が結託して奥さまを殺そうとしている。睡眠薬入りのお茶をひとくち飲んでくれればいいのに、それだけのことが果たせない。描きたいのはブルジョアに虐げられた労働者階級の悲しみなのか、ひとりの人間の心に巣くう権力への渇望とそうなれない現実への絶望なのか。写実ではなく、かといって様式化されたものでもないが、女優たちはたいそう熱のこもった演技をしており、圧倒された。というより疲れた記憶がある。

 女優たちの衣装は着物で、家具調度はヨーロッパ風。奥さま役の韓国の女優さんは艶やかな振袖姿に、多少たどたどしくはあるがしっかりした日本語の台詞まわしで、韓日MIXというより、怪しげな和洋折衷の雰囲気である。歌舞伎風の所作がところどころにあるが、それによってことさら日本的なものを強調する印象はなかった。奥さまを殺せなかった女中たちは絶望して逃亡、あるいは片方を殺害する終盤から現実と妄想がますます入り混じって物語は迷走しはじめる。

 ふたりの女中は汗だくの大熱演だ。1時間45分とはいえ、ぎっしりとほとんど身動きのできない客席で見続けるのは正直なところ辛いものがあった。どこがクライマックスなのか、終わりそうでなかなか終わらない印象があって、エネルギーの配分や意識をキープするのがむずかしい芝居である。観劇後に手ごたえや充実感というより、鈍い疲労が残る。女中たちの鬱屈が場内に重苦しく淀むためだろうか。
 本作はほかに日本バージョンと韓国バージョン(字幕つき)があり、残念ながらぜんぶみることはできないのだが、どのように変化するのか興味深い。また本作をもっとシンプルに写実的な演技で作ることはできないのだろうか、いや衣裳や小道具なしのリーディングならば・・・と妄想が沸きおこっている。
 

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