因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

演劇ぼっくす たばたばた第3回公演『捨吉』

2011-12-17 | 舞台

*三好十郎 作 藤吉悦子 演出 村松晴雄 演出総括 東京水族館ビル4F 18日まで
 11月に行ったグリフラの『かっぽれ!』公演のとき、折り込みのなかに公演案内の葉書をみつけた。手づくりの温かみに惹かれて観劇を決める。
 知っていたのは劇作家と『かっぽれ!』にも出演されていた高井康行さんのお名前だけであった。葉書には「師 脇野義澄に奉げる・・・」とあり、開演前に挨拶をされた演出の藤吉悦子さんは奥さまで、演劇の師であり同士であった夫君の追悼公演であるとのこと。客席にも関係者が多いようだ。関わった方々の思いがいっぱいに込められた公演で、その事情を知らずに軽い気持ちで来た自分は少し申しわけない気持ちに。
 東京水族館ビルは非常に古く、急な階段を4階まで登らねばならないのだが、包み込むような雰囲気があって落ち着いて開演を迎えた。

 登場人物はタイトルロールの捨吉、主人公の俺、中村の細君の3人である。約50分。昭和33年にNHKラジオから放送された作品で、青空文庫で読むことができる。詩、散文のようで、みるというより、「聴く」芝居だ。今年4月にみた同じ三好十郎の『廃墟』は長尺でいっさい緩みなし、野球の100本ノックを受けているような「動」の芝居であるのに対し、今回『捨吉』は「静」である。しかし内容は深遠でたやすく理解できるものではない。田端は駅前こそ賑やかだが、少し奥に入ると途端に静まって淋しげな風情が漂い、『捨吉』を見おわった冬の夕暮れどき、寂寥感が惻惻と迫ってきて何ともやりきれない気持ちに。

 動きが少ない芝居なので、全編を集中して観劇することはむずかしいけれども、リーディング公演などの試みがあったらぜひゆきたい。
 三好十郎の『捨吉』。偶然の出会いであった。作り手の方々の熱い思いには到底及ばないが、自分にとっても大切な作品になった。師走の風はいっそう冷たく、しかし貴重で、豊かな時間であった。

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