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▼映画「八犬伝」虚と実の重量感の差が惜しい
小説・映画・ドラマ・コミックなど、今なお多くの作家や製作陣に影響を与え続けている
滝沢馬琴の長編小説「南総里見八犬伝」がどのような変遷を経て完成に至ったのかを描く伝記ドラマ。
馬琴の執筆をすぐ側で見続けてきた葛飾北斎や妻、息子らと紡ぐ家族の物語を縦糸に、
馬琴の描く八剣士の物語を、VFX技術を駆使して映像化したファンタジー活劇を横糸にして織り上げた149分の大作。
原作は山田風太郎の小説「八犬傳」。
幼い頃に八犬伝に触れ興奮したという「ピンポン」の曽利文彦が監督と同時に脚本も兼任している。
出演者は滝沢馬琴に役所広司、葛飾北斎に内野聖陽、馬琴の妻に寺島しのぶ、息子に磯村隼斗、息子の妻に黒木華。
伏姫の託した玉を持つ八犬士には、渡邊圭祐、鈴木仁、板垣李光人、水上恒司、松岡広大、佳久創、藤岡真威人、上杉柊平。
宿敵・玉梓に栗山千明、伏姫に土屋太鳳、浜路に河合優実と、旬の若手を贅沢にキャスティングしている。
途中登場する劇中劇のパートでは七代目・市川團十郎を中村獅童が、三代目・尾上菊五郎を尾上右近が演じる
アツい配役がされており、劇場支配人の鶴屋南北として立川談春も登場する。
ふたつの物語をザッピングしながら描く手法は煩雑になりがちなのだが
本作の場合は「実の世界」と「虚の世界」が切り替わるため、2時間半の長尺ながら物語が非常にわかり易い。
ひとたび切り替わればそこでは若き八犬士達が特撮ヒーローの如き雄叫びをあげながら剣を振り回し、
また切り替われば役所広司と内野聖陽の軽妙なくすぐり合いにクスリとさせられる。
挿絵を描いて欲しいと頼む馬琴を弄ぶように、下絵だけ描いては持ち帰る北斎とのやり取りは何とも微笑ましく
役所馬琴と内野北斎だけで1本の映画にして欲しかった。
本来なら虚実の両パートが均衡を保ちながら進まなければならないはずなのだが
あまりに芸達者なふたりの存在感が、「虚の世界」で活躍する八犬士を完全に呑み込んでしまっていて
馬琴の物語だからそれで正解なのか、本来の意図とは違っているのかを監督に聞いてみたい。
私は「里見八犬伝」(1983年公開。以降は角川版と表記)世代なので
「虚の世界」のパートでの比較は避けられず、JACスター勢揃いの角川版からのパワーダウンが半端ないのだ。
ちなみに、2作はどちらも馬琴の書いた八剣士の物語ではあるものの、ストーリーが大きく異なっている。
それについては本記事の後半で紹介するが、ひとまず本題に戻そう。
角川版の八犬士がヘビー級なら、本作の八犬士はミドル級にも程遠く、せいぜいライト級かフェザー級といったところ。
敵役も玉梓が夏木マリから栗山千明では勝負にならない。
浜路の河合優実も、全く彼女の良さが出ていなかった。
角川版では八剣士の中心人物であった親兵衛は本作ではほぼ空気。
ちなみに演じている藤岡真威人は藤岡弘の息子で、2020年にセガ創立60周年を記念して
せがた三四郎の息子・せが四郎としてメディアデビュー。
先日から始まった実写ドラマ版「ウイングマン」では主演を務めている。
原作が違うのだからストーリー展開が異なるのは仕方ないとはいえ
演者も演出も外連味の塊とも言える角川版に比べると芝居が圧倒的に軽く、演出もVFX頼みで迫力に欠ける。
旬の俳優を集めた超豪華な2.5次元舞台、と書くとその筋のファンの方に怒られるだろうか。
唯一頑張ったのは、犬坂毛野を演じた板垣李光人。
角川版でも登場した暗殺シーンは、志穂美悦子の見惚れる剣術とはまた違ったアプローチでなかなか良かった。
皆がああいった形で角川版とは違う魅力を見せてくれていれば印象は随分と変わっていたはず。
ここまで「実の世界」のキャストを実力派で固めるのであれば
「虚の世界」は「キル・ビル」のように、いっそアニメで作っても良かったのではないだろうか。
「平家物語」「犬王」のサイエンスSARUあたりに頼めていれば...。
「実の世界」は、物語進行と同時に馬琴の作家としてのプライドの高さやへんくつさ、
良き父・良き夫ではなかった部分を浮かび上がらせていて見応えは抜群。
特に北斎と連れ立って芝居を観に行く場面での立川談春とのヒリヒリするやり取りこそが
本作の最大の見所とも言える。
辛い現実が多い世の中で、せめて物語の中ぐらいは最後に正義が勝つ物語を作りたいと主張する馬琴と
空蟬に漂う毒を露悪的に舞台に取り入れる南北は、まさに水と油。
しかしどちらかが言い負かすまでは続けず、わだかまりを残したまま剣を収め、互いの信じる日常に戻っていく。
この場面を見れただけでも、149分付き合って良かったと思える。
反面、馬琴の妻の寺島しのぶは最初から最後までヒステリックに悪態をついているだけで、
息子の磯村隼斗もいつの間にか病に倒れてしまい、チラリと登場した息子以外の子もほとんど出て来ない。
『ここを描きたい』という監督の思いにムラがあり過ぎる。
光を失った馬琴の代わりに無学だったお路(黒木華)が筆を取り、
叱責されながらも教えを乞い続けてついに作品を完成させた偉業すら
エンドロール直前に文章でつらつらと表示して終わりではあまりにも軽い。
本作が馬琴の物語ならばそこは端折るべきではなかったし
八犬士の物語をしっかり描くなら、和風ハムナプトラのような安いCGでお茶を濁すべきではなかった。
思い入れのある作品なので何もかも自分でやりかたったのかも知れないが、脚本は別の人に任せた方が良かったように思う。
散々あれこれ書いてきて何だが、「里見八犬伝」世代だから気になる箇所がたくさんあっただけで
149分間一度も退屈だと感じることはなかったので、予備知識のない方のほうが素直に楽しめそう。
本作を見て楽しかったなら、鑑賞後に補完のつもりで角川版も見て欲しい。
(そもそも今作には出てこない)静姫と親兵衛の恋愛を軸にした大胆なアレンジは
一流の役者陣による本気のごっこ遊びとして、また違った楽しさを得られるはず。
映画「八犬伝」は2024年10月25日より公開。
▼「南総里見八犬伝」「里見八犬伝」「八犬伝」の違いを解説
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映画「八犬伝」の主人公である曲亭馬琴(滝沢馬琴)が、
文化11年(1814年)の執筆開始から28年もの歳月をかけて完結させたのが「南総里見八犬伝」。
全98巻106冊から成る日本屈指の長編伝奇小説として知られ、多くの映像作品や舞台に影響を与え続けている。
馬琴の生涯についても少し触れておくと、
映画版では妻と息子の鎮五郎(後の宗伯)のみクローズアップされているが、実際には1男3女の父親である。
執筆途中の天保4年(1833年)、67歳の時に右目に異常を来たし、ほどなく左目にも同様の症状が現れた馬琴は
天保10年(1839年)、73歳で完全に失明し、執筆続行が不可能となってしまう。
天保6年(1835年)には病弱だった宗伯が若くして亡くなるという不幸にも見舞われており
「南総里見八犬伝」は未完のまま終わるかと思われたが、宗伯の妻・お路が口述筆記を申し出る。
無学なお路は漢字を書くことすらままならなかったが、宗伯の遺言を守って「八犬伝」を完成に導くため
馬琴の厳しい叱責に耐えながらも粘り強く教えを乞い筆記を続けた。
天保12年8月、完成した際には馬琴の筆跡と見分けがつかないほど上達していたという。
配信中■Amazonプライムビデオ:里見八犬伝
*2024年10月24日現在、「里見八犬伝」はAmazonプライムでは有料レンタル。
U-NEXT、Huluでは見放題。
私と同世代の映画好きにとって「八犬伝」と言えば薬師丸ひろ子と真田広之による
和風ファンタジー活劇「里見八犬伝」であろう。
本作は馬琴の「南総里見八犬伝」の映画化ではなく、同作を翻案した鎌田敏夫の「新・里見八犬伝」を映画化したもの。
鎌田は本作を手掛けてから「金曜日の妻たちへ」から「男女7人夏物語」「ニューヨーク恋物語」と
ヒット作を次々と放つ人気脚本家としてその名を轟かせることになる。
製作の角川春樹は鎌田に「レイダース」や「スター・ウォーズ」の要素を入れたアイドル映画にしたいと希望を出したが
監督の深作欣二は自身の撮った「魔界転生」に通じるおどろおどろしい作風にしたいと意見が衝突。
最終的には鎌田の本に深作の意向を取り入れてGOサインが出たために、クレジットは鎌田と深作の共作になっている。
出演者は以下の通り。
静姫 薬師丸ひろ子
伏姫 松坂慶子(声のみ)
犬江親兵衛(仁)真田広之
犬山道節(忠)千葉真一
犬村大角(礼)寺田農
犬坂毛野(智)志穂美悦子
犬塚信乃(孝)京本政樹
犬川荘助(義)福原拓也
犬田小文吾(悌)苅谷俊介
犬飼現八(信)大葉健二
玉梓 夏木マリ
蟇田素藤 目黒祐樹
妖之介 萩原流行
浜路 岡田奈々
幻人 汐路章
船虫 ヨネヤマ・ママコ
まさに角川全盛期といった顔ぶれ。
真田を始め千葉真一、志穂美悦子らJACの人気俳優が勢揃いしていることもあり
後半の合戦シーンなど活劇としての見応えも十分。
1984年の配収ランキングでは邦画1位の23億2000万円のヒットとなった。
私もこれまで何度見たかわからないほど見た。
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映画「八犬伝」の原作になっているのが、山田風太郎の「八犬傳」。
馬琴が作品を書き上げるまでの半生を、生涯を費やした「南総里見八犬伝」の物語と
ザッピングしながら描く大作で、「八犬伝」の関連書籍では一番面白いとの声も多い。
映画「八犬伝」の出演者は以下の通り。
滝沢馬琴 役所広司
葛飾北斎 内野聖陽
馬琴の息子・宗伯 磯村勇斗
馬琴の妻・お百 寺島しのぶ
宗伯の妻・お路 黒木華
伏姫 土屋太鳳
犬塚信乃(孝)渡邊圭祐
犬川荘助(義)鈴木仁
犬坂毛野(智)板垣李光人
犬飼現八(信)水上恒司
犬村大角(礼)松岡広大
犬田小文吾(悌)佳久創
犬江親兵衛(仁)藤岡真威人
犬山道節(忠)上杉柊平
玉梓 栗山千明
浜路 河合優実
鶴屋南北 立川談春
七代目 市川團十郎 中村獅童
三代目 尾上菊五郎 尾上右近
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