▼映画「幻滅」2時間半で駆け抜ける青年の半生
公開中■洋画:幻滅
フランスの文豪バルザックの「幻滅 メディア戦記」を
「偉大なるマルグリット」のグザヴィエ・ジャノリ監督が映画化した「幻滅」が公開中。
本国フランスでは映画界の最高栄誉とされるセザール賞で作品賞を含む7冠を獲得した。
主演は「Summer of 85」のバンジャマン・ヴォワザン。
共演にセシル・ドゥ・フランス、ヴァンサン・ラコスト、グザヴィエ・ドラン。
舞台は19世紀前半のフランス。
田舎町で詩人をしていた純朴な青年リュシアンは
詩人としての力量を試すべく大都会のパリへとやってきた。
勤務先に決まったのは新聞社。
恐怖政治が終わって宮廷貴族が復活し、皆が享楽的な生活を愉しんでいるパリでは
文学や芸術も盛んではあったが、新聞はそういった作品に対して
商業的なアプローチで持ち上げたり叩いたりする半ばお抱えメディアでもあった。
詩人としての夢は、渦巻く嫉妬や裏切り、工作の飛び交う喧騒の中で
少しずつ忘れられ、目的を失って堕落していくリュシアン。
そんな中、ひとりの女性との出会いが彼の人生を大きく左右しようとしていた。
バルザックが本書「幻滅 メディア戦記」を発表したのが19世紀。
200年前に執筆された物語なので、往来を歩く男性に手招きする女性を見て
「女は売り物だからな」と話すなど、一部に年代を思わせる台詞も出てくるが、
主題として描かれる芸術とメディアの関係については驚くほど現代と一致する。
都会での成功を夢見て純朴な青年が上京する物語は
シアーシャ・ローナン主演の名作「ブルックリン」を彷彿するし
人妻からの秘密の関係を通じてサポートを受けるリュシアンの姿は
若き才人にパトロンが付く、芸術世界ではよく見かける関係。
原作が発表された年には100年ほどの開きがあるものの、
詩人の愛憎を描いたという点ではディカプリオ主演の「太陽と月に背いて」に通じる部分も。
愛ですら金で手に入ると錯覚するほど享楽に染まった世の中で
詩人を夢を見ていた青年は、喝采や名声は工作の先にしか存在しないのではと疑い始める。
才能があれば誰かの目に留まる、誠実であればいつか報われるなどというのは
世間知らずの戯言だと切り捨てた時、都会での暮らしに馴染み、同時に人としての堕落が始まる。
高みを目指すなら、まずは泥の川に身を落とすのは本当に正しい道なのか。
田舎から出てきたばかりの青年には誰も教えてくれない。
雑踏の中で穢ればかりが重ねられていくリュシアンの前に現れた女性は
束の間彼を正しい道へと導くかに見えたが、下り坂を転がり始めた人生は
そう簡単に軌道修正をさせてはくれない。
「翌日には魚の包み紙になる批評記事よりも形に残る仕事を」と望み始めた時には
リュシアンはすでに何物も生み出さない男になっていた。
愛も金も尽きた彼が華のパリで得たものとは、一体何だったのだろうか。
はっきりとそこにある悪ですら、持ちつ持たれつの関係を重視して
触れずにおくことが正しいメディアの在り方なのだとすれば
200年後の日本の芸能とメディアはまさにその図式で成り立っている。
ひとりの青年を呑み込んだ煌びやかな濁流の中で
グザヴィエ・ドラン演じる文豪の期待の新人ナタンだけが
リュシアンの苦悩の理解者として登場する。
このキャラクターは映画版オリジナルなのだそうで
原作にはナタンがいないとすれば、何と絶望的な物語だろう。
タイトルの「幻滅」とは、何を指していたのだろうか。
憧れていたパリという街への幻滅なのか
心を弄ぶことを娯楽とする社交界への幻滅なのか
詩人の夢を見失い、愛欲と金に溺れてしまった我が身への幻滅なのか
鑑賞後になって改めて考えさせられる作品だった。
美術・衣装の充実度が半端なく、スピード感たっぷりの演出と
火花散る演技合戦で鑑賞前は少し構えていた2時間半の尺があっという間に過ぎてしまう。
映画の醍醐味が詰まった1本。
お近くの劇場で上映しているなら、観ておいて損はない。
映画「幻滅」は現在上映中。
発売中■書籍:幻滅 ― メディア戦記 上 / バルザック
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