忍之閻魔帳

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【デイヴィッド・リンチの訃報に寄せて】「エレファントマン」と私の25年

2025年01月18日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼【デイヴィッド・リンチの訃報に寄せて】「エレファントマン」と私の25年

*本記事はリンチの代表作のひとつである「エレファントマン」が
生誕25周年を記念して2004年11月20日に劇場公開された際に紹介した
2005年3月8日公開の記事に加筆・改稿したものです。


「エレファントマン」が上映された1981年当時、私はまだ坊主頭のガキんちょであった。
100席にも満たない田舎の映画館で見たことを今でも良く覚えている。
「エレファントマン」を「象人間」と直訳し、ホラー映画ブームに便乗した作品だとしか思っていたので
布切れを被っている間のやり取りがひどく退屈で、布を剥ぎ取る瞬間だけを待ち詫びていた。
ジョン・メリックという人間の素顔を知ろうともせず、ただただ、肥大した頭部と瘤だらけの背中を嫌悪し、
辿々しい口調をキャラ付けだと誤解して、ゲラゲラ笑いながら観ていた。
看護婦に怯え、花束に涙するジョン・メリックを「ホラー映画にしちゃ随分弱い化け物だ」と見下し、
「これなら怖くないよ!」と自信満々だった。あの頃の私は、まさに見世物小屋の客そのものだった。

25年という時間を経て改めて観た「エレファントマン」には、
「完全な善意」も「完全な悪意」も存在していないことに気付かされた。
いや、気付いたというより、2005年現在の私にはそう見えたというのが正確だろうか。
極悪人に見えた見世物小屋の親父から愛情を、フレデリック医師からは外科医としての悪意を感じた。
もちろん、リンチがそういう意図で描いたかどうかは分からない。
リンチはと自らの作品を長々と解説するような無粋な真似をあまりしない監督なので
「ブルーベルベット」や「マルホランドドライブ」のような不可解な作品に出会うと
少しでもリンクの脳内を覗き見たくなって何度もリピートしてしまうのだ。

ケンドール夫人の招待した舞台には、夫人の言葉通り「夢」が詰まっていた。
物語の最後にジョンが枕を使って眠ったのは、まだ叶っていない夢を叶えたかったからなのだろうか。
「人間らしく生きること」が無理なのだと悟ったのだろうか。
自分の死期を悟り、もう充分と考えたのだろうか。
愛しい母親に会いに行ったのだろうか。
いつの日か、「あぁ、こうだったんだろうな」と分かる日が来るのだろうか。
私にはまだまだ分かりそうもない。


2005年3月に書いた紹介記事からさらに20年が経過して、リンチの訃報に触れることになってしまった。
M・ナイト・シャマラン、ラース・フォン・トリアー、アリ・アスターなど、
独自の世界観を持った作品を撮る監督は他にもいるが、リンチほど振り切った監督はいない。
唯一無二と言って良いと思う。

辻褄や謎解きに囚われてしまうと映像と音楽の洪水に飲み込まれてしまうし、
完全に身を預けてしまうと戻って来られなくなるのではと不安に駆られる。
「何年か経って見たらもう少しわかるだろうか」と思いを遺して年を重ね、
数年後にまた観返してみるのが私のリンチ作品との付き合い方だった。
観るものに決して優しくないが、匙を投げるにはあまりにも惜しい魅力的な世界から離れられない。
「マルホランド・ドライブ」も「インランド・エンパイア」もそうだった。
そんなリンチが1999年に発表した「ストレイト・ストーリー」は予想外の心温まるロードムービーで
あの作品を劇場で観終えた瞬間に、「私の好きな映画監督ベスト10人」入りしたのだった。

78歳は映画監督としてはまだまだ若い。
昨年8月には「長年の喫煙により肺気腫を患っています」とXで公表。
煙草への愛は変わらないながら、健康を考えて2年の禁煙生活を送っていることを明かし
「この楽しみ(喫煙)には代償があり、私にとってその代償は肺気腫です」と綴った。
訃報と肺気腫が関係しているのかは不明だが、こんな形で名匠を失うのは辛い。

謹んでご冥福をお祈りいたします。




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