忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)。
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映画「パラサイト 半地下の家族」紹介&ポン・ジュノの歴代監督作品を振り返る

2020年02月10日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼映画「パラサイト 半地下の家族」”雨”と”匂い”が浮かび上がらせる隔たり



*オスカーの作品賞、監督賞のW受賞を記念して日付を変更して再掲。

以前から当BLOGでなんども紹介してきた3人の天才監督
ポン・ジュノ、パク・チャヌク、キム・ジウン。
その中でも、韓国映画のクオリティを世界レベルにまで引き上げた
立役者と言えるポン・ジュノ監督の最新作が本日より本公開。

この映画を語るなら作品の中盤以降に触れないわけにはいかず
しかし触れてしまうと即座にネタバレになってしまうので
公開から最低でも1週間ぐらいしてからでないと詳しいことは書けない。
出来るだけ真っ白な状態で、あまり身構えずに観ると
より吸収力の上がる作品だと思う。

以下はネタバレを極力回避した感想。
一部ネタバレに抵触するワードもあるので、それすら読みたくない方はスルー推奨。


BLOG開設当初からポン・ジュノをプッシュしてきた私の率直な感想は
「これは本当にオスカーを獲るかもしれない」だった。
現代の韓国の社会事情を盛り込みつつ、示唆に富んだ緻密な脚本と演出は
本作が韓国映画であることを強烈に主張しながら、
韓国で無ければ作れない作品であることを示している。

巷では是枝監督の「万引き家族」を引き合いに出す方が多いようだが
似ているのはガワ(ビジュアルや舞台)の部分だけで、
訴えたいメッセージは微妙に異なっているし、訴えかける方法は全く異なっている。
「万引き家族」は日本でなければ撮れないし、
「パラサイト」は韓国でなければ撮れないが、
「パラサイト」は自国で起こっている政治的な背景や格差社会に対して
切っ先鋭く斬り込んで、さらにその過程をエンターテイメントへと昇華させている。
時にコミカルに、時にサスペンスフルに、
寓話的な話かと思いきや現実へと引きずり戻す先の読めない展開は
ポン・ジュノの最高傑作だと思ってきた「母なる証明」の衝撃と同等か、
それ以上のラストへと着地する。

金持ちは豪雨が降ることで空気が清浄化されたと喜び、
貧困層は壊滅的な被害を受けて体育館への避難を余儀なくされる。
金持ちは安全を確保するため地下にシェルターを作り、
貧困層はそもそも陽の当たる場所に住むことができない。
身体に纏わりつく匂い(臭い)すら自覚できず
住めば都と言い聞かせて半地下で暮らしてきた家族にとって
夢のような豪邸住まいは居心地が良かったのだろうか。

登場人物のその後の人生を観る者それぞれに委ねる秀逸なエンディングまで
文句のつけようがない。
正直な話、「万引き家族」がパルムドールを受賞したのは納得だが
ドラマティックな作品を毛嫌いする傾向があるカンヌで
本作がパルムドールというのは意外だった。
「シェイプ・オブ・ウォーター」が作品賞を獲れたなら、
本作がオスカーを獲っても何ら不思議はない。
いや、むしろ大本命と言えるだろう。

最後にひとつ予言。
かつてギレルモ・デル・トロの「パンズラビリンス」を紹介した2007年に

ここ最近、メキシコ人監督が大活躍していることにお気づきであろうか。
「トゥモロー・ワールド」のアルフォンソ・キュアロン、本作のギレルモ・デル・トロ、
そして「バベル」「21g」のアレハンドロ・ゴンザレス・イリャニトゥ。
皆素晴らしい作品を次々に送り出している。
この3監督の作品には今後も注目していきたい。


と書いたことがある。
その後、イニャリトゥは「バードマン」「レヴェナント」で
キュアロンも「ゼログラビティ」「ROMA」で、
デルトロも「シェイプ・オブ・ウォーター」でオスカーを席巻する大活躍。
これと同じことが、そろそろ韓国を代表する3人の監督でも起こる気がする。
パク・チャヌクは近作「お嬢さん」で唯一無二の世界観をさらに極め、
キム・ジウンもシュワちゃんの主演作「ラストスタンド」でハリウッド進出を果たしている。
ポン・ジュノがオスカーを獲得することになれば
韓国勢に注目が集まって必ずこの2人も浮かび上がってくるはず。今後に期待したい。



▼ポン・ジュノの歴代監督作品を振り返る


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韓国で実際に起こった連続殺人事件をベースにしたサスペンス。
事件が迷宮入りしてしまうまでに何があったのか、
警察はどこまで追い詰めていたのかを
緊張感たっぷりに描いたポン・ジュノの出世作。
主演はソン・ガンホ。
本作が大ヒットした後にも警察の杜撰な捜査を批判した作品が多数公開され
「チェイサー」や「トガニ 幼き瞳の告発」は大ヒットとなった。
韓国映画の多くが社会の仕組み(の歪み)を変えるほどの力を持つに至ったのは
この作品がきっかけになっている。

ちらりと見える犯人の残像、取り逃がしたと気付いたときのガンホの表情、
犯人が今もどこかに潜んでいるのだと思わせる余韻まで、
全てがきっちりまとまった非の打ち所のない作品。ポン・ジュノの原点。

公開された2004年はちょうど当BLOGの開設した年でもあり
この作品に強烈に惚れ込んでから追いかけ続けて今に至る。




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「殺人の追憶」に続いて発表されたのは、まさかの怪獣映画。
アメリカに「キングコング」があるように、日本に「ゴジラ」があるように、
韓国にも代表作となるような怪物映画をと思ったのかどうかは知らないが
「グエムル」には、ポン・ジュノの怪物映画に対する強い憧れが
過去の作品で見せて来た彼ならではのエッセンスと共に散りばめられている。

深海からやって来るわけでも、空の彼方から飛来して来るわけでもなく
登場までに1時間近く引っ張るような無粋な真似もしない。
開始5分程で、当たり前のように「そこ」に居る。
蓮の花に似た形状の口を持つ巨大なムツゴロウといった風貌の怪物が
新体操の如きアクロバティックな動きをする様は何ともアンバランスで、
恐ろしいというより、むしろ愛らしくさえある。

一方、見た事もない異形の怪物を迎え撃つこちら側はと言えば、
何の変哲もない、どこにでもいる、日本で言えば磯野家のような家族。
特殊な武器など持っているはずもなく、さらわれた娘を救い出す計画も
どこか行き当たりばったりで、用意した武器も心許ない物ばかり。
戦闘機も必殺技も持たない、もちろん巨大化するわけでもない
中流家庭の一親父が怪物相手にどうやって娘を奪還するのか。

この映画は、グエムルの動きや戦闘シーンではなく、
娘のために手を取り合い奮闘する家族の姿こそが見所であり、
だからこそ、これはやはり正統派の「韓国映画」なのである。
公開時には日本の特撮のパクりだ何だと散々な叩かれようだったが私は断固支持。
若かりし頃のペ・ドゥナが愛らしい。




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兵役を終えたウォンビンの5年振りにスクリーン復帰作。
子鹿のような澄んだ瞳を持ち、純真無垢なまま大人になった
青年トジュン(ウォンビン)と、彼に対し溺愛という言葉でも足りないほどの
愛情を注いできた母親(キム・ヘジャ)との関係が
ひとつの事件を境にして大きく揺らぎ始める物語。2009年の作品。

オープニング、だだっ広い野原で疲れた表情の母親が突如踊り出す。
もうそのシーンを観ただけで
「とんでもない作品に出会ってしまった」と身震いがする。

忘れた記憶を取り戻すため、トジュンが頭をグリグリと揉んでいる。
闇で鍼灸師の真似事をしている母親は、忌まわしい記憶を消し去るツボを伝授する。
「バカ」という言葉を聞くとキレたように激昂するトジュンと
息子のことになると我を忘れ、時に法をも犯す母親との関係は
「マザコン」「子離れ出来ない母」などという言葉では到底追いつかない。
そして強過ぎる愛情は、時に人を狂気に駆り立てる。

2020年になった今でも、
冒頭からラストまでメインテーマと共に焼き付いて離れない。
生涯の10本を挙げろと言われたらこれは間違いなく選ぶ。




スノーピアサー(字幕版)
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ポン・ジュノの記念すべきハリウッド進出1作目。
原作はフランス産のコミック(バンド・デシネ)らしい。
温暖化対策に失敗し人類が死滅してしまった近未来を舞台に、
生存者を乗せたまま猛スピードで走り続ける
高性能列車「スノーピアサー」の車内で起こるドラマ。
出演はクリス・エヴァンス、ティルダ・スウィントン、オクタヴィア・スペンサー、
エド・ハリスにポン・ジュノ作品の守り神とも言える名優ソン・ガンホ。
2014年の作品。

SFとしての緻密な世界設定よりもドラマとしてのインパクトを重視し
シリアスな展開の合間にコミカルな演出を挟み込んでくる緩急の付け方は
ポン・ジュノの持ち味であり、最大の魅力。
物語を引っ張っているのは、やはりソン・ガンホ。
英語を話さず、自動翻訳機だけでその他大勢とやり取りをする設定は
苦肉の策なのかも知れないが、そのことがかえって
誰とも群れない孤高の技師ナムグン・ミンスのキャラを際立たせる結果となっている。
私的には、血まみれの争いを繰り広げた直後に
寿司屋のカウンターに座り皆で食べているシーンが良かった。
ああいう遊び心がいかにもポン・ジュノらしい。


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