忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)。
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ふたつのピース

2023年06月18日 | 忍之日記
少し前に、父に会ってきた。

高齢者施設はどこもコロナ対策が厳重で、父がお世話になっているところも
面会は月に1度だけ、人数はふたりまで、時間は10分のみに限定されている。
時間が合わなかったりメンバーが埋まっていたり、
父への複雑な想いもあって、気がつけば10ヶ月が経っていた。
5類に移行したタイミングで同時に面会できる人数が3人に増えたことも後押しした。

昨夏、私が新型コロナウィルスに感染したのと数日差で父も発熱し
念のためにと連れていった病院でそのまま入院となった。
その日の夜には重症化し、「あっという間に肺が真っ白になった」とのことで
急遽重症患者を診ることのできる病院へと救急車で運ばれた。
ICUに入って数日後、挿管のための承諾書にサインを求められ
「ご家族は念のため覚悟してください」との説明を受けた。
私自身も高熱にうなされている真っ最中だったこともあり、
あまりにも早い展開に頭も気持ちも追いつかず混乱するばかりだった。
今振り返ると、あの状況こそをカオスと呼ぶのだと思う。

ICUでの治療は約2週間続いた。
挿管は長期になると様々な二次トラブルを引き起こすため
最長でも10日ぐらいまでしか出来ないらしい。
そこまで待って回復の兆しがなければ...と言われていたギリギリで父は回復した。
回復傾向に入ってからの展開も早く、数日で一般病棟に移ることになり、
意識不明期間中に落ちた脚力を取り戻すため、歩行訓練も開始された。
ナースの気遣いもあり、リハビリセンターから母に電話もあったそうで、
声は思いの外元気だったらしく、皆がほっと胸を撫で下ろした。

しかし、昨夏はまだ医療逼迫が深刻で、特に重症患者を診る病院は
病床が空くのを待つ患者が多かったために、一般病棟に移ってから数日後、
最初に連れて行った近所の病院へと戻ることになった。
近い方が面会も楽だろうと、家族も転院を歓迎していたのだが
数日前まで元気に会話していたはずの父は、転院後から急速に衰えていった。
ICUから回復後すぐさまリハビリを始めた先の病院と違い
まずは体力の回復を最優先してからのリハビリで良いだろうとの判断らしかった。
若かりし頃にヘビースモーカーだった父は危機的状況からは脱したものの
肺の機能が回復せず、今も酸素吸入をしている。
慣れないチューブを嫌がり、乱暴に引き抜いてしまうのを防ぐために
必要に応じて安定剤なども使ってなるべく長く眠らせ、肺機能を回復させる方針をとったのだった。
それが正解だったのかは、今となってはもう分からないが
面会に行った家族の撮った動画からも、表情が無くなっていくのが目に見えてわかった。
月によっては全く話さない時もあり、空を見つめてぼんやりしているだけのこともあった。
言われるままに手を振り、孫の名前を復唱させられる姿をどう受け止めれば良いのか
その気持ちを確かめるために「来月見舞いに行かせて欲しい」と伝えて、その日が来た。

車椅子を押されて面会室に入ってきた父は、動画で見ていた通りふた回りほど体が小さくなっていた。
血色はそれほど悪くない。
表情はほとんどなく、目だけが時折周囲の動きを追っている。
「おうちに帰りたいでしょ?」と聞く姉の言葉にも反応は薄く
「この人は誰かわかる?」と一緒に行っていた孫娘を指差されても、誰なのか分からないようだった。
姉が「じゃあこの人は?」と私を指差して聞くと
父はゆっくりと私の方を見据え「●●●●」と私の名前を口にした。
肺がやられていて随分と掠れた小さな声ではあったが、間違いなく私の名前を言った。
その瞬間、驚くほど自然に涙が溢れた。
「わかったじゃん、えらいえらい」と近寄り、父の顔に自分の顔を近づけた。
父の手を持ち上げ、二人でピースをした写真を撮ってもらった。
写真の私は、涙目ながら良い笑顔をしていた。
父はやはり無表情だったが、それでもいい。











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4 コメント

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お父さん (U)
2023-06-19 20:14:49
お会いできてよかったですね。
お父さんも嬉しかったと思います。

私の父も2年ちょっと前に倒れ、危篤状態になったのですが、
今は寝たきりながらも意識があり、介護施設で生活しております。
コロナ禍でずっと面会できなかったのですが、
先日ようやく会うことができました。

仕事に真面目で寡黙で、
休みの日はずっと夫婦で庭いじりするような性格だったので、
実家に帰って母一人が庭いじりしている姿を見ると寂しく思います。

昔、定年を迎えて退屈そうな父にDSLLをプレゼントしたことがあるのですが、
そのDSを開いて起動すると、画質の低いカメラで撮影した私と父の写真が出てきます。
実家に帰ってDSを見ると、元気だった頃の父を思い出して懐かしくなります。

ちなみにそのDSにはDS版ドクターマリオをダウンロードしていたのですが、
ゲームに全く興味のなかった父が10年ぐらい、
室内にいる時は黙々とプレイし続けていました。
常にレベル20スタートで、当たり前のようにクリアしていたほどです。(笑)

もうあと何度会えるかわかりませんが、長生きして欲しいものです。
返信する
Uさん ()
2023-06-20 16:43:19
こんにちは。

コロナで面会がままならないのは本当に困りますね。

Uさんとお父様は、うちよりは良好な関係だったのだろうなと
少し羨ましく思いながら読みました(笑)
DSのエピソードはうちでいえば母に近いです。
母にはDSも3DSもプレゼントしたので。

不思議なもので、小さくなった父を目の前にして、
よろよろとか細い声で私の名前を口にされると
ほとんど反射的に「長生きしてほしい」と感じてしまったんですよね。
Uさんのお父様も健やかであることを祈ります。
返信する
Unknown (Unknown)
2023-06-23 11:50:49
沁みました。ありがとうございます。
返信する
Unknownさん ()
2023-06-23 16:42:15
こんにちは。

いえいえ、こちらこそ個人的な日記でしたのに
目を通してくださってありがとうございます。
お声をかけていただけただけで、温かな気持ちになります。
返信する

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