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自民、公明、国民民主の3党は20日、経済対策の内容などで合意し、2024年度補正予算案の早期成立に関し文書を交わした。この結果、少数与党の第2次石破茂内閣は補正予算案の成立という第一関門の突破にメドが立ち、次の焦点は2025年度予算案をめぐって国民民主の支持取り付けに移る。
だが、国民民主の主張しているいわゆる「103万円の壁」の撤廃やガソリン税減税などの財源問題は、12月中に行われる3党間の税制協議に事実上、先送りされた。財源問題の決着内容によっては赤字国債の発行が増えることにもつながりかねないが、今のところマーケットは国債発行の増額問題を全く織り込んでいない。市場が財源問題に関心を持ち始めれば、長期金利に上昇圧力がかかる可能性もあり、3党間の政策協議に影響が出る展開も予想される。
<補正予算の早期成立、3党間で合意>
20日にまとまった3党間の合意では、「年収103万円の壁」について、25年度税制改正で議論し、引き上げると明記。ガソリン減税に関しては旧暫定税率の廃止を含め、自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討、結論を得るとの文言が盛り込まれた。
3党間では補正予算案の早期成立を期すとの文書も交わされ、今月28日から召集される臨時国会において、3党の賛成多数で可決、成立することが確定した。
<103万円の壁引き上げは恒久減税、財源問題は26年度以降にも波及>
だが、基礎控除と所得税控除の合算額である103万円を178万円まで引き上げる国民民主の主張をそのまま容認すれば、7-8兆円の財源が必要となる。これは1回だけの給付金交付とは異なり、恒久減税になるためはっきりとした財源手当てがない場合、赤字国債の発行を継続して賄うことにつながりかねない構造的な問題が存在する。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、これまでの国内メディアからの取材に対し、予算の使い残しや税収の上振れ分で対応可能との見方を示してきた。玉木氏は22年度が11兆円、23年度が7兆円の予算使い残しがあるとし、それに税収の上振れ分を加算すれば「7兆円くらいの減税は十分にできる」と説明していた。
ただ、この手法で25年度は対応可能だとしても、26年度以降の財源はどうなるのかという問題は残る。さらにガソリン税の減税分の財源もどうするのか、という問題も別途存在する。
<財源問題に名案なし、赤字国債増発の可能性>
この日の3党間の合意では、25年度の税制改正や予算案について「政策本位の協議を続け、合意事項の実現に向け誠意をもって行動する」との文言が盛り込まれた。つまり、103万円の壁引き上げやガソリン税減税の引き上げは、12月の3党間における25年度税制改正の協議に先送りされた格好だ。
先送りしても、政府が試算している7.6兆円の「103万円の壁」の引き上げ財源をめぐって「名案」が直ちに浮かび上がるわけではないだろう。自民・公明が衆院で過半数を維持していれば、国民民主の178万円への引き上げは、直ちに却下されたに違いない。
しかし、少数与党で国民民主の賛成がなければ、内閣の死命を制する25年度予算案を成立させることができない現状では、自公側が大幅に譲歩して予算案の成立を図るしか具体的な事態打開策はない、と筆者は指摘したい。
178万円までの引き上げなのか、それ以下の妥協的な水準での決着になるのか、12月の3党間での税調メンバーによる協議の結果を見ないと着地点は見えないが、数兆円規模の財源が必要になるのは確実だ。
トランプ次期米大統領の下には、2兆ドルの歳出削減を掲げるイーロン・マスク氏が存在しているが、石破政権を支える自公両党にそのようならつ腕を振るう「大物政治家」は存在しない。とすれば、赤字国債の発行が不可避なのではないか。
<財源問題織り込んでいない市場、国債の前倒し発行の存在が心理的な支えに>
ところが、複数の市場関係者によると、円債市場の多くの参加者はこの「財源問題」をほとんど織り込んでおらず、外為市場や株式市場では話題にもなっていないという。
1つは24年度補正予算案の国費投入額がはっきりしていないため、25年度予算案まで含めた新規の国債発行額の規模が明確ではなく、国民民主の主張する政策の財源だけを切り取って問題にするほど、市場関係者の精緻な予測ができていないことがあるようだ。
また、財務省は年度間の国債発行の平準化等のため、翌年度に発行する予定の借換債の一部を前倒して発行。仮に数兆円規模の赤字国債発行になったとしても前倒し発行分で吸収され、年間にマーケットで発行される国債規模に変化が生じずに対応することができる、という国債発行の需給調整策が存在している。市場関係者の多くは、この仕組みが存在しているため、国債の需給が大崩れしないと判断しており、したがってテレビのワイドショーが注目するほどには、円債市場関係者の関心が盛り上がらないという事情がある。
だが、国債が増発されるということに変わりはなく、いずれどこかの段階で円債市場関係者の注目度が上がる可能性もある。市場は先回りする性向があり、恒久的な大規模減税で国債の増発が回避できないとみれば、どこかの段階で長期金利が反応する展開もありうる。
自公の「聖域だ」だった与党税調に国民民主が加わる今年12月の税制の議論は、久しぶりに日本の長期金利に影響を与える可能性も出てきた、と指摘したい。
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