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ドル/円が155円近辺で高止まりしている。いわゆる「トランプトレード」でドル指数が高水準で推移しているだけでなく、ロシアとウクライナをめぐる地政学リスクの高まりでドル調達の意欲が高まっており、今後、年越えのドル資金調達圧力の高まりで一段とドルが買われやすくなり、ドル/円も年末に向けてじり高になるとの観測が市場で高まっている。
ただ、来年1月20日の米大統領就任式以降、トランプ氏が持論の「ドル安礼賛」を強く主張するなら、ドル高・円安の水準からドル安・円高の方向へ一気に急降下するリスクを懸念する見方もある。「トランプ政権2.0」の特徴とも言うべき不確実性の高さが象徴的に現実化するのがドル/円相場かもしれず、旅客機にたとえれば乱気流に備えた「シートベルト着用」のウォーニングが出てもおかしくない状況がやってくるだろうと予想する。
<米利下げペースの鈍化観測、材料視されたボウマン理事の発言>
足元のドル/円は、ドル高・円安に向かいやすい材料がそろっている。トランプ氏の次期大統領就任が決まり、トランプ政権が遂行しようとしている政策の効果を見越して、ドル高・株高・長期金利上昇の「トランプトレード」が顕在化しているのは、11月19日の当欄で指摘した通りだ。
そこに米連邦準備理事会(FRB)の利下げペースが鈍化するのではないかとの思惑が浮上。これもドル買い・円売りの材料となっている。トランプ氏の大統領1期目にFRB理事に指名されたボウマン氏は20日、「2023年初頭からインフレ率の低下にはかなりの進展が見られたが、ここ数カ月は停滞しているようだ。私は政策金利の引き下げを慎重に進め、終着点までの距離をより良く見極めたい」と述べた。
CMEフェドウオッチによると、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%ポイントの利下げが決定される確率は1週間前の82.5%から52%へと低下した。
<米英長距離ミサイル、ウクライナからロシア領に発射>
さらにドル買い要因として意識されだしたのが、ロシアとウクライナをめぐる軍事的な緊張の高まりだ。米欧の複数のメディアは20日、ウクライナ軍が英国製の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」を使用して、初めてロシア領内を攻撃したと報じた。
ウクライナ軍は19日に米国供与の地対地ミサイル「ATACMS」をロシア領内に発射したとされ、ロシアのプーチン大統領が同日、核兵器の使用条件の緩和につながる核ドクトリン(核抑止力の国家政策指針)の改定を公表。国際金融市場では、地政学リスクの高まりが意識され、ドルが対主要通貨に対して買われやすくなっている。
<年越えのドル資金調達、水準切り上がり観測>
複数の市場関係者によると、ドル調達を急ぐ市場心理が刺激されつつあり、年末越えのドル資金の調達コストが上昇するだろうとの観測が台頭しているという。今のところ、年末越え資金の調達は2カ月物となっており、目立って金利が上がっているわけではないが、これが1カ月物での調達になると、金利水準が急速に上がり出す可能性が高まっているという。
世界の主要な銀行が競って年末越えのドル資金を調達しようとすれば、ドルの相対的な不足が意識され、ドル/円にはドル高・円安の圧力が一段とかかりやすくなる。
<ドル安志向のトランプ氏、発言次第でドル急降下のリスク>
ただ、この流れには要注意な落とし穴が待ち受けているリスクがある。それがトランプ氏のドル安を促す発言だ。米国の貿易赤字削減を政策の優先項目として挙げているトランプ氏にとって、輸入が増えて輸出にとって障害の多いドル高は「害悪」であり、その逆の現象を生み出しやすいドル安を志向する独自の見方を変えていない。
マーケットの一部は、トランプトレードだけを材料にしたドル高・円安には限界があるとの根強い予測が存在するほか、1期目の就任式直後に起きた現象などを参考にドル高からドル安に転じやすいと予想する向きも少なくない。
こうした市場の複雑な心理状況の下でトランプ氏の「ドル安歓迎」という発言が飛び出せば、たとえ短期的な現象になったとしても、大きな振れ幅でドル安・円高方向に相場が振れる可能性がありそうだ。
<市場変動率の上昇、常態化の可能性も>
だが、移民の強制送還や対中関税の大幅引き上げなど市場へのショックが大きい政策をトランプ氏が実行するなら、その反射的な効果によってドル買いの需要が強まる公算が大きく、マーケットが上下に大きく振らされるという展開も十分にあり得る。
トランプ大統領が何を最優先の政策として実行に移そうとしているのか、それがいつまでたっても判明しないようなら市場の疑心暗鬼が強まって価格変動の大きな相場が「常態化」するシナリオも現実味を帯びてくると予想する。
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