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来年夏の参院選、与党過半数割れはあるか 織り込めない市場は大変動も

2024-12-25 14:21:47 | 政治

 2024年の日本の政治は、自民党総裁選における石破茂氏の当選と直後の衆院選で自民・公明の過半数割れが起きるという大きな変化が生じた。年が明けて25年は夏に参院選が行われる。現在は過半数を維持する自民・公明がもし、過半数割れとなれば、日本の政治情勢は一段と混迷の度を深めるだろう。

 だが、多くの市場関係者は、夏の参院選後に日本の政治がどのように変化するのかほとんど織り込んでいない。筆者は自民・公明の過半数割れの可能性がかなりあると予想する。そこで何が起きるのか──。いくつかのシナリオを考えてみた。

 

 <前哨戦の都議選、自民に裏金問題の暗雲>

 まず、参院選の前哨戦となる都議選は、6月から7月に選挙が行われる予定。現有議席(総定数127)は自民30、都民ファーストの会27、公明23、共産19、立民14などとなっているが、今年7月の都知事選で2位になった石丸伸二氏が新党を立ち上げるとみられており、議席数は大きく変動する可能性がある。

 そこに都議会自民党会派の裏金問題が浮上。25日付朝日新聞朝刊は、会派事務局が政治資金収支報告書に記載しなかった収入の総額が直近の5年間で3000万円前後に上る疑いがあり、東京地検特捜部が立件の可否を検討していると報道した。

 裏金問題が立件されたり、都議会自民党の多くの議員が裏金問題に関与していることが明らかになれば、今年10月の衆院選と同様に自民党への逆風が吹く可能性が高まる。

 

 <来年の参院選、7月20日投開票の報道>

 このような中で行われる参院選の投開票日をめぐっては、様々な観測が交錯しているが、20日付読売新聞朝刊は、政府・与党が25年の通常国会の召集日を1月24日とする方向で調整に入り、会期延長がなければ、参院選の日程は「7月3日公示、20日投開票」が有力となる、と伝えた。

 参院の現有勢力は、自民が113、公明が27の計140と過半数の125を上回っている。このうち来年の選挙で改選されるのは、自民が52、公明が14の計66。非改選は自民が61、公明が13の計74で、両党で合わせて15議席減の51議席になっても過半数は維持できる。

 

 <衆院選の流れ継続なら、苦戦必至の自民>

 10月の衆院選前は、改選議席の少ない自民・公明が過半数割れする可能性は低いとみられていた。ところが、衆院選での与党惨敗で参院選をめぐる情勢は急変した。

 読売新聞の試算によると、衆院選の得票数から参院選の比例区の獲得議席は自民14、立民11、公明6、国民6、維新5、共産3、れいわ3となる。前回22年の参院選では自民18、維新8、立民7、公明6、共産3、国民3、れいわ2だった。

 また、参院選の結果を左右する1人区32選挙区の勝敗は、野党の一本化が成立すれば、与党が15、野党が17となり、前回の自民28勝4敗から様変わりした結果となる。

 野党の一本化には高いハードルが存在するが、足元で30-40%台で推移する石破内閣の支持率を前提にすれば、参院選での与党過半数割れの可能性は、足元で上昇してきたのではないか。

 

 <トランプ関税と株価、賃上げが自民の逆風になる可能性>

 23日の当欄「トランプ関税の影響受ける来年の春闘、無防備なら石破政権や日銀利上げにも影響」で指摘したように、トランプ次期米大統領が対メキシコの関税を25%に引き上げた場合、日本の自動車メーカーのメキシコから米国への年間77万台の自動車輸出に大きな影響が発生する可能性がある。

 その結果、自動車株の下落や自動車各社の賃上げ率の抑制などで、石破政権が目指す24年並みの25年賃上げ達成が難しくなり、賃金が上がらない中で物価だけが上がる実態に世論の関心が集中すれば、参院選を前に石破内閣と自民党の支持率が一段と低下し、参院選に大きな逆風となる展開が予想されると指摘したい。

 23日にも言及したが、石破内閣はトランプ次期米政権の「関税引き上げ」という戦術に対する具体的な対応策が今のところなく、このままでは1月中下旬以降に金融市場が動揺する懸念がある。

 

 <物価高に不満の世論、感度が鈍い政府・与党>

 そもそも石破首相と自民党幹部は、10月の衆院選での自民大敗の原因分析が不十分ではないか、と筆者の目には映る。確かに裏金問題が主な争点になり、自民党の選挙態勢が後手を踏んだことが影響したのは間違いないが、それだけでは28議席へと4倍増を果たした国民民主の躍進を説明できない。

 いわゆる「103万円の壁」を強調し、178万円への大幅な引き上げを主張した国民民主に支持が集まった背景には、物価高で手取りの所得が目減りしているという金融資産をあまり保有していない階層の支持を集めたことがある、と強調したい。

 つまり、物価高に不満を持つ階層が与党ではなく、国民民主など野党を支持し、多くの既存メディアの想定を超えた与党の議席減を生んだとみるべきだ。

 

 <参院選で野党多数になっても、立民中心の政権が難しい理由>

 だが、筆者は参院選で仮に与党が過半数割れとなっても、立民を中心とした野党政権が発足する可能性は低いと予想する。立民と国民、維新との安全保障やエネルギー政策などでの距離が大きく、最終的には自民、公明、維新、国民の4党連立か、自民、公明の少数与党を維新、国民が個別政策で支持する「令和版多数派」の形成に落ち着く可能性が高いと予想する。

 その際に石破氏が首相を退くのか、それとも政権を維持するのかは、その時の自民党内のパワーバランス次第だろう。

 

 <不透明感増す日本の政治情勢、織り込めないマーケットに弱点>

 いずれにしても、参院は半数改選のシステムで選挙を行うため、いったん過半数割れを発生させるとその解消には相当の時間がかかる。それを短期間で解消するには、連立の組み替えか政界再編しかないが、ドラスチックな変化を回避するなら「令和版多数派」の形成で凌ぐしかないだろう。

 日本の政治構造が大きく変化する際に、マーケットが事前に織り込めないなら、事後に大きな価格変動があると予想するのが合理的だ。

 25年は日本の政治情勢と金融・資本市場が同時に大きく動く局面がある、と予想する。


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