大接戦とみられていた米大統領選が共和党のトランプ前大統領の大勝で終わり、マーケットの次の焦点は少数与党の下での日本の金融政策の行方に移るだろうと予測する。まずは週明け11日の首相指名選挙で比較第一党・自民党の総裁、石破茂首相が再び首相に指名されるかどうかだが、バラバラな野党の一本化が難しく、決選投票で石破氏が指名され、第2次石破茂内閣が発足する公算が大きい。
当面の関心は、11日に開催される予定の自民党と国民民主党の党首会談で、どのような合意が形成されるかだ。いわゆる「103万円の壁」を撤廃することで合意し、2024年度補正予算案に国民民主が賛成するのか、それともさらに多くの項目で合意するための協議を継続することで、25年度予算案にも国民民主が賛成すると表明するのかどうか。25年度予算案の成立にメドが立つなら、四面楚歌にも見える石破首相の前途に光が差すことにもなる。
その状況下で日銀の利上げ余地が広がるのかどうか、という問題は、多くの市場関係者が予想するほど単純な道筋ではないと指摘したい。というのも、トランプ政策の反射的効果によるドル高・円安と物価上昇圧力の高まり、綱渡りの政権運営を強いられる石破政権からの政治的なプレッシャーの強弱が織りなす「綾模様」が複雑であるためだ。以下に筆者の想定を列挙する。
<困難な野党一本化、11日に石破氏の首相指名の公算>
11日の首相指名選挙は、衆院選で自民と公明が過半数を割り込んだため、各党の多数派工作の展開次第では、立憲民主党の野田佳彦代表が首相に指名される可能性もゼロではない、という声が永田町関係者から出ていた瞬間もあった。
衆院の会派別勢力は、萩生田光一氏など無所属議員の6人が自民党の会派に入った後の段階で、自民党無所属の会197人、立憲民主党無所属149人、日本維新の会38人、国民民主党無所属クラブ28人、公明党24人、れいわ新選組9人、共産党8人、有志の会4人、参政党3人、日本保守党3人、無所属2人となっている。
だが、維新や国民は立民との党首会談などで決選投票での野田氏への投票に難色を示し、決選投票では石破氏が自公会派の票を合算してトップに立ち、首相に指名される公算が大きくなっている。
一部には、国民民主の玉木雄一郎代表を首相候補に担ぎ上げ、石破氏を首相から引きずり下ろすシナリオも画策されたようだが、石破氏に反感を強める自民党内の議員が野党とともに玉木氏に投票するという「工作」を現実に推し進める「令和の寝業師」が存在せず、石破氏が首相に指名される可能性が高まっている。
実際、自民党内の反石破コールの高まりが一部で予想されていた7日開催の自民党両院議員懇談会では、石破首相の即時退陣を求めたのは一人だけで、一部の国内メディアは石破首相の退陣論は広がりを見せていないとの見方を示していた。
<注目される自民・国民の合意内容、25年度予算案に成立のメド立つのか>
筆者は、当面の大きなポイントは11日の石破氏と玉木氏の自民・国民民主の党首会談で、どのような合意が形成され、具体的な政策実現のタイムスケジュールが示されるかだと指摘したい。
基礎控除と所得税控除の合算額である103万円の引き上げでは合意すると見らているが、国民民主の主張する178万円まで一気に引き上げるのか、それとも複数年次に分けて実施するのかという点や、今年分は年末調整で還付するという国民民主の提案が通るのかなどは、多くの国民にとって大きな関心の的になるだろう。
また、複数項目で合意した結果、24年度補正予算案に国民民主が賛成すると文書で明記するのかという点や、25年度予算編成の段階から国民民主が自公の政策協議に参加し、25年度予算案に賛成の意思を示すのかどうか、ということが大きな注目点になる。
もし、国民民主が25年度予算案に事実上、賛成すると解釈できる合意文書が交わされた場合、石破政権は25年度予算案と予算関連法案の成立する3月末ないし4月上旬まで存続が担保されることを意味すると筆者は考える。
短期的には、この部分が最も重要な政治上の合意になるため、11日の党首会談後の石破首相と玉木代表の発言には多くの関心が集まると予想される。
<自民・国民の政策協議のテーマ外となっている金融政策>
一方、このような少数与党・石破内閣の綱渡りのような政権運営の下で、日銀の金融政策が政治的な影響を受ける度合いが強くなるのか、弱くなるのか──という問題は、単純には解を導き出せない。
例えば、玉木氏が複数のインタビューで来年の春闘の結果がわかる3月末までは、日銀が利上げをするべきでないと発言したことを受け、少なくない市場関係者は3月末では利上げはできない、と判断したようだ。
だが、玉木氏が今、自民、公明と議論しつつある特定の政策をめぐる合意の形成と、それに見合った3党間の意思の確認という方式では、俎上に上った政策テーマ以外の分野の政策については互いに制約されないという前提がある。
仮に石破政権が日銀の利上げを容認したとしても、それが政策合意の範囲外であれば、玉木氏が約束違反と主張して石破内閣の不信任案に賛成することはない、ということだ。
ただ、日銀が利上げすることによって玉木氏の石破内閣への心理的な距離が遠くなり、疎遠になると石破氏が判断すれば、石破内閣の意見として利上げに関し、何らかのメッセージが伝達されることはあるのではないか。
<160円接近の円安なら、政府・与党と日銀はどのように判断するか>
その一方、トランプ氏の当選をきっかけにドル高・円安が進行し、ドル/円が160円に接近するような事態になれば、輸入物価の上昇を起点に消費者物価指数(CPI)の上昇圧力が高まり、世論が物価高に敏感に反応する展開も想定できる。
10月27日の衆院選で、自民・公明の与党が惨敗したのは「政治とカネ」の問題が大きく影響したとの声が多いが、反与党の底流には「物価高への反感があった」と指摘する選挙分析の専門家の指摘もある。
来年夏の参院選を前に、物価高への関心が高まると与党サイドが判断した場合、日銀に対して利上げによる物価抑制を求めるという衆院選前の石破首相の発言と正反対の要望を日銀に伝えるという可能性もゼロではない、と予想する。
<少数与党と日銀、化学反応の結果は未知数>
日銀は永田町からの声とは関係なく、展望リポート通りに物価や経済が進展すれば、大幅な実質マイナスとなっている政策金利の水準を調整する(すなわち利上げする)という姿勢に変わりないと繰り返すことになると予想する。
ただ、羽田孜内閣以来という少数与党の下では、いつ内閣不信任案が提起され、それが可決されても不思議ではない状況が続く。
少数与党の下での金融政策の先行きを展望することは、マーケットのBOJウォッチャーにとっても難易度の高い問題であると言えるだろう。
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