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日銀の利上げパス、市場は手探りの円高・株安 ドル145円は分岐点

2024-08-01 15:36:37 | 経済

 1日の東京市場は円高・株安が進行した。日銀の利上げを織り込んだ値動きとみられているが、日銀がどのようなペースでどこまで利上げしていくのか、市場は手探りのようだ。同時並行的に進みそうな米連邦準備理事会(FRB)の利下げを横目に見つつ、市場は日銀の本音を確認していくプロセスに入る。

 政府・日銀にとっても、久しぶりの利上げモードでマーケットがどのように反応するのか活用可能なデータはあまりないはずだ。急激で大幅な円高の進行は望んでいないとみられ、その意味で多くの輸出企業の想定レートである145円を抜けて円高になるのかどうかが当面のポイントになる可能性がある。

 

 <1日遅れの株安反応>

 1日の日経平均株価は前日比975円49銭安の3万8126円33銭で取引を終えた。前日の大引け後に行われた植田和男・日銀総裁の会見で、経済・物価の動きが展望リポート(経済・物価情勢の展望)で示した見通しに沿って推移すれば、次の利上げを検討すると明言したことにドル/円が円高で反応し、株式市場も1日遅れで日銀の利上げ継続を織り込みに行ったかたちとなった。

 日銀の利上げパスに関しては、きのう(7月31日)の当欄で指摘したとおり、経済データがこのまま展望リポートに沿ってオントラックで進めば、どこかの時点で政策金利が0.75%までは上がっている可能性があると筆者は考える。

 

 <タカ派イメージの日銀、市場は高をくくっていた可能性>

 ただ、9月の米利下げが有力視されている中で、多くの市場関係者は米利下げと逆方向の日銀利上げが継続してできるのか疑っているというのが実態ではないか。市場が織り込んいる次の利上げ幅は、今年12月時点で0.15-0.16%程度にとどまっている。つまり、31日の植田総裁の発言だけでは、具体的な利上げパスについて市場は明確なイメージを描き切れていないということだ。

 それでも1日の市場で円高・株安が進行したのは、31日の会見での植田総裁の発言が市場の想定を超えて「タカ派」とみられたからだ。これまで超緩和政策を長期間継続し、あえて「ビハインド・ザ・カーブ」を容認してきたとも見られてきた日銀が、利上げ発表の当日の総裁会見で次の利上げについて踏み込んで発言しないだろうと高をくくっていたとも言える。

 マーケットから見れば、日銀のタカ派姿勢はある種のサプライズと映ったのだろう。ただ、情報が少なすぎて具体的な日銀の利上げパスを想定している市場参加者は少ないという現実もある。

 

 <重要性高まる日銀からの情報発信と分析能力>

 したがって今後は、利上げに向かって日銀が何を考えてどのように対応するのかを分析する「BOJウォッチャー」の機能が市場で今まで以上に重宝されることになると予想する。

 そのBOJウォッチャーが注目する日銀正副総裁、審議委員の講演や会見での情報発信が、これまで以上に注目されることになるだろう。そこでは、次の利上げ検討の要件になる経済データが展望リポートの見通しに沿ってオントラックで進むということの具体的な意味や、利上げペースのイメージ、利上げの最終到達点(ターミナルレート)の水準などに関し、どのようなメッセージが出てくるのかが大きな注目点になるだろう。

 

 <急速な円高は副作用も>

 一方、政府・日銀にとっても久しぶりの利上げ局面で、日銀の利上げをめぐり市場がどのように反応するのかを事前に予測するのはかなり難易度が高いと思われる。

 特にドル/円は、日米金利差の大きさを材料に円キャリートレードが活発化し、円売りのポジションが積み上がっており、このポジション解消が本格化すると急速な円高が進みやすくなる。足元で起きた148円台までのドル安・円高は、円売りポジションの解消による動きとみられ、テンポが速かったことが特徴だ。

 もし、海外勢が円売りポジションの解消を一段と進めれば、150円近辺でのもみあいとなっているドル/円が円高方向に再び振れる展開も十分にありうる。

 その際、多くの輸出企業の想定為替レートになっている145円を突破して140円も割り込むような円高が進行すれば、今度は急速な円高という現象が企業マインドに悪影響を及ぼすという「副作用」にも配慮しなければいけなくなる。

 その意味で当面、円高がどこでいったん終息するのかというポイントは市場参加者だけでなく、日本の当局にとっても重要性が増していると考える。

 1日のドル/円を見ると、148円台から切り返して150円台に乗せており、新NISA(少額投資非課税制度)などを含めた個人投資家のドル買い需要がコンスタントに出ている可能性をうかがわせている。

 日銀の利上げパスをめぐる市場の織り込みを推し量る上で、ドル/円が145円を割り込んでドル安・円高になるのかどうかが、短期的な目安になるのではないかと予想している。


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