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トランプ氏の関税爆弾、巨額な打撃はメキシコ生産の日系自動車か 迫られる日本政府の対応

2024-11-26 10:58:06 | 経済

 来年1月20日の就任式を前に、トランプ次期米大統領の関税引き上げという爆弾が市場で炸裂した。メキシコとカナダからの全ての輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課すとに25日(米東部時間)に自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿。26日の日経平均株価は一時、前日比760円08銭安の3万8020円08銭まで売り込まれた。

 市場の一部は中国を対象にした10%の追加関税の負担に注目しているが、筆者はメキシコを対象にした25%の関税実施が日本の自動車メーカーにとって、大きな打撃になると指摘したい。トヨタや日産など日本メーカー4社はメキシコにある生産拠点から米国向けに自動車を輸出しており、2023年は77万台を超える規模だった。日本政府はトランプ次期米政権との交渉に向け、メキシコ経由での対米輸出の自動車にかかる関税引き上げについて、別の交渉カードを駆使して引き下げる努力をする必要がある。

 

 <日系メーカー4社、23年はメキシコから米国に77万台輸出>

 トランプ氏はメキシコとカナダからの輸入品に対する25%への関税引き上げを、1月20日の大統領就任初日に行うことも表明。両国がフェンタニルなどの麻薬や不法移民の米国への流入を取り締まるまで関税を維持するとした。

 26日の日経平均株価は午前の取引で安値から戻したものの、トランプ氏の打ち出した関税引き上げのインパクトの全容について測りかねているのが実態だ。

 中でも筆者が指摘したいのは、日本の自動車メーカーへの大きな打撃の可能性であり、特にメキシコ経由での対米自動車輸出の存在が非常に大きいことへの懸念だ。

 メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)のデータをまとめた日本貿易振興機構(JETRO)のまとめによると、2023年に日本メーカー4社がメキシコで生産した自動車は123万5521台にのぼる。2020年7月に発効した「米国・メキシコ・カナダ協定」(USМCA)でメキシコからの自動車輸出が他地域からの輸出に比べて有利であることに着目し、日本メーカーや部品メーカーの製造拠点が強化された。

 23年の日系メーカー4社からの対米輸出はメキシコでの生産の60%に当たる77万台強。これは日本からの対米輸出台数の148万5000台に次ぐ規模となっている。

 メキシコから米国への輸出台数(2023年)をメーカー別にみると、日産が約26万8000台、トヨタが約22万8000台、ホンダが約13万8000台、マツダが約10万9000台となっている。

 

 <25%の関税で輸出ストップへ、日本政府は早急にトランプ次期政権スタッフと接触すべき>

 25%の関税が課せられると、事実上、輸出はストップすることになり自動車メーカー4社は大きな打撃を受けることになる。民間企業の対応では、予想されるマイナスの衝撃を緩和することはほぼ不可能で、日本政府の対応が不可欠となる。

 日本政府は、メキシコで生産された日本メーカーの自動車輸出にかかる関税の引き上げ幅を極力引き下げるべく、トランプ次期政権の枢要なスタッフとの接触を始め、打開の道を探るべきだ。トランプ大統領とそのスタッフは、高関税の実施を目的としているのではなく、関税引き上げを手段として別の優先項目における利益の獲得を目指していることが多い。

 したがって日本政府は、別の分野で米国に切るカードを用意し、メキシコで生産する日本メーカーの自動車への関税に関し、柔軟な対応を引き出す「取引」を持ちかけるべきだ。

 

 <迫れる優先すべき交渉順位の設定、製造業の国内回帰を急ぐべき>

 また、トランプ関税による日本経済への打撃に関し、第三国経由の影響も含め、どの分野での影響が大きいのか早急に試算し、どの分野を最も優先的に守るべきなのか、守れないときは補助金で対応できるのかなどを整理し、交渉の優先順位を早急に確立するべきだ。

 さらに中期的には製造業の国内回帰を促進する政策をできる限り迅速に構築し、対中関税の引き上げなどに対応する道を国内企業に示す必要がある。

 トランプ氏が打ち出した関税引き上げは、日本の産業政策の抜本的な見直しを迫っている。


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