萌芽落花ノート
24 怠惰な冬
冬は、僕のいる所からずっと遠くへ行ってしまった。
瞬間、僕を叱咤するのは冬のはずだった
ぬくぬく、おこたの中で、僕は嘘泣きをした。
テレビの音の籠った部屋で、ことこと、薬缶がストーブに口説かれて耳元に熱い息を吐きかける。喉のあたりは、ひりひり、焼けつくようで、水を一杯と思うけれど、胃袋はぱんぱんで、何も受け付けてくれない。いっそのこと、何もかも吐きだしてしまいたかったが、洗面所に立つには部屋がおとなし過ぎた。
窓を開けると、いい風。いい風以上には吹かないのだ。
多すぎるものを誰かに施したいと思ったが、これは誰かに恵まれたものだ。一人には多すぎても十人には少ない。
そんなこんなで、一番うまい手は、締め付ける丹前を脱ぎ捨てて、雪道へ逃げ出すことなのだ。
予定が決まった。
すると、ぼんやりしてきて、ぼんやりしていることだけは、はっきりしていて、冬が僕を引きずり出さないのなら、僕が自分を引きずり出そうと、思ったり考えたりするわけだが……
よいしょっ。
とか何とか、声にならない。
だったら、最初から眠ってしまえばよかったんだ。
そうそう。
お休み。
これでいい。
これでいい。
これが冬なのだ。
(終)