ヒルネボウ

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萌芽落花ノート 27 朝の約束

2025-01-22 23:59:38 | 

   萌芽落花ノート

   27 朝の約束

ガラス・ケースを粉砕しかけて君は夢精に目覚める。

あいつの残したタバコを吸う。

憧れていたオトナの味だ。

ピンポンパンのお姉さんに似ていた君はオルガン弾きになれなかった。

乾いた瞳を擡げて呻く。

「先生、懺悔したいんです」

沈黙が静寂を追っ払う。

「あいつを先生に殺させてしまいました」

白墨を五本だけ並べたみたいな先生の指はぽきぽき折れて教室の隅に転がっていった。

生徒たちは藁半紙をくしゃくしゃにしてからじんわりと丸めた。

英語の予習がまだだった。

「あいつを殺したのは私だったのかもしれない」

時間に溶け込んで気軽になった君の言葉を私は笑った。

「私たち、もうオトナだからね」

あいつとの約束があった。

優しい朝の約束。

「私たちはただ心地よいだけの風に化けるからね」

約束だけは守りたい。

(終)

 


(書評)『モーラとわたし』 著者 おーなり由子

2025-01-22 00:39:23 | 評論

   (書評)

   『モーラとわたし』

   著者 おーなり由子

私にも「モーラ」のような何かが見えていた時期がある。

モーラは

おとうさんと

おかあさんには

みえない

 

だから ごはんのとき

モーラが

となりに すわっても

きがつかないの

(『モーラとわたし』)

私に見えていたのは変な物体だった。それに名前はない。それは縛られているのか、手足がないみたいで、ある部屋の天井から50センチほど下、一本の縄か何かで吊るされていた。人間のようだが、よくわからない。よく見ないからだ。見たくなかった。それが生きているのかどうかも、わからない。

それは、私がある部屋に独りでいる時、必ず現われるのだった。独りでいる時にしか現れなかった。私は、本当は、それがいないということを、ちゃんと知っていた。しかし、怯えた。

色は黄色だった。

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(終)