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偽ドラえもんの「漱石さん」~夏目漱石『こころ』批判4/7

2020-11-04 10:10:58 | 評論

   偽ドラえもんの「漱石さん」

       ~夏目漱石『こころ』批判4/7

                            

ルーシー 考えてほしいんだけど… 世の中に悪い人のほうが多いの、

それともいい人のほう? 

チャーリー ダレが言えるのさ? ダレがよくてダレが悪いかってことを

ダレが言えるってのさ? 

ルーシー 私よ!! 

(チャールズ・M・シュルツ『ピーナッツ』1973.10.25)

 

  • 偽ドラえもんの捏造

『こころ』の感想には、怪しげなものが少なくない。

 

たしか後に発表する『こゝろ』では他人の迷惑を考えずわがまま勝手にふるまう高等遊民たちに対する、漱石さんの意見を語っていたよ。

(『ドラえもんの学習シリーズ ドラえもんの国語おもしろ攻略 読書感想文が書ける』)

 

語っているのは偽ドラえもん。

「たしか」は「後に」ではなく、「語っていたよ」に係る。遠い。

「たしか」には、「自分の記憶によれば」(『広辞苑』「たしか」)という含意がある。偽ドラえもんは無責任だろう。記憶に頼らず、再読すべきだ。

「後に発表する」は無視。

「他人の迷惑を考えず」は意味不明。〈「他人の迷惑」になるかもしれないなどとは「考えず」〉と補ってみよう。この場合、考えない理由がわからない。知能が低いのなら、そういう人を責めるのは酷だ。考えるゆとりがないのなら、情状酌量の余地がある。

「他人の迷惑を考えず」は、〈「他人の迷惑」になるとわかっていながら〉などでないと、次に続かない。

「わがまま勝手にふるまう」人は悪い人だ。しかし、ある人のふるまいが他人から見て「わがまま勝手」のように思えたとしても、当人にはその人なりの事情があるのかもしれない。そうした事情を考慮しようとしない人は「わがまま勝手」だ。

ジャイアンだって、のび太やスネ夫の言動を「わがまま勝手」と感じるから怒るのだろう。

キャンディーズは「わがままで意地悪だけど好きなの」(『年下の男の子』)と歌っていたよ。

「高等遊民」とは、今でいう〈ニート〉の一種。「高等遊民」という言葉は『こころ』に出てこない。偽ドラえもんは、『こころ』を『彼岸過迄』(夏目漱石)と混同しているらしい。

「漱石さん」と、「さん」付けはなれなれしい。

「漱石さんの意見」を偽ドラえもんは引用してくれない。

「漱石さん」が作中で「意見」や何かを語るなんて、ありえない。

 

  • 文豪伝説の拡散

どんな分野でも、偽ドラえもんタイプの人はいることだろう。彼らは、有名人の名声を利用し、ガラクタ同然の自分の人生観や倫理観などを美化しようとする。お墨付き。水戸黄門の印籠。虎の威を借る狐。我田引水。「わがまま勝手」にこじつける。ところが、有名人の仕事そのものには敬意を払わない。偽ドラえもんの場合、『こころ』を再読しない。

『こころ』は意味不明なので、こじつけがやりやすい。だから、狡い偽ドラえもんどもに重宝がられてきた。〈『こころ』は名作であり、その著者は文豪である〉といった伝説は、偽ドラえもんどもによって拡散されたものに違いない。

この種の軽薄才子がいなければ、『こころ』はとっくの昔に忘れられていたはずだ。たまに思い出されるとしても、『浮雲』(二葉亭四迷)のような古臭い失敗した青春小説と同じようなものとして読まれていたことだろう。

ちなみに、文豪伝説を捏造したのは、この種の軽薄才子ではない。夏目宗徒だ。彼らは、『こころ』が意味不明であることを知っている。知っていながら、『こころ』を聖典として崇めてきた。〈そこらの凡人には理解できまいが、我々には感得できる〉と脂下がるわけだ。

多くの宗教の信者は、自分にはよく理解できないからこそ、開祖の残した言葉を高尚なものとして有難がるようだ。夏目宗徒もその類だ。

 

  • 音読・精読・速読

読み方に三種あるとしよう。音読と精読と速読だ。意味不明の言葉を鵜呑みにして有難がる人を〈音読派〉と呼ぼう。その反対に、意味不明の言葉を警戒して疑い続ける人を〈精読派〉と呼ぼう。そして、何も信じようとせず、しかし、何も疑おうとせず、何もかも弁えていたみたいに装う軽薄才子を〈速読派〉と呼ぼう。

 

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ミットソン:『いろはきいろ』#051~088

  http://park20.wakwak.com/~iroha/mittoson/index.html

志村太郎『『こころ』の読めない部分』(文芸社)

志村太郎『『こころ』の意味は朦朧として』(文芸社)

(終)


 



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