ドゥテルテ大統領、中国との気まぐれな蜜月
中国がフィリピンの愛情に賭けるのは危うい
2016 年 10 月 26 日 11:13 JST THE WALL STREET JOURNAL
フィリピンの典型的な政治家と言えばマッチョで、女好きで、拳銃を片手にしているイメージが強い。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領はまさにその伝統を受け継いでいる。
ドゥテルテ氏の米国に対する反感は、長年にわたってフィリピンの政治家に根付いてきたものだ。独裁政権を築いたフェルディナンド・マルコス元大統領も反米発言を頻繁に繰り返し、冷戦時代には米国からさらなる軍事支援と経済協力を引き出すためにソ連に歩み寄るそぶりまで見せていた。
ドゥテルテ氏も同じ戦法を採っているが、彼は少し不器用のようだ。先週、同氏は米国からの「決別」を宣言し、ロシアと中国に接近する姿勢を見せた。だがそれ以降は発言を少し後退させている。
彼が中国と経済協力を強化したい背景には、深い理由がある。かつてラテンアメリカで大量の銀塊を積み込んだスペインのガレオン船は、フィリピンを経由して中国まで物資を運んでいた。だが中国とフィリピンの経済関係はそれ以前にさかのぼる。文化的に見ても、フィリピンのエリート層には中華系の人が多く、ドゥテルテ氏自身も先祖には中国出身者がいたと話す。
米国は今、身動きが取れずにいる。中国の軍事力と影響力に対抗することを目的とし、米国は対アジア関係をリバランス(再均衡)させる政策を遂行してきた。その中心となるべき国が、米国に対して争う姿勢を示している。オバマ大統領は外交政策を大きく旋回しようとしたが、その支点となるはずだったのがフィリピンだ。
中国は東南アジアの国々の中でも特にフィリピンに対して高圧的な態度を取ってきた。米国が同国を支点に選んだのもこのためだ。中国海警局の船団がスカボロー礁に進出したのが2012年。南シナ海におけるこの明白な領土略奪行為は、米国の「旋回」にとって世間の注目を集める格好の事件だった。当時フィリピンの大統領だったベニグノ・アキノ3世はハーグの国際仲裁裁判所に中国を訴えた。裁判でフィリピン側が勝訴したことで、米国の旋回政策は法的根拠を背景に軍事力を展開できることとなった。
しかしオバマ大統領が任期を終えようとしている今、米国のアジア政策はぐらついている。大統領が推進してきた野心的な環太平洋連携協定(TPP)を議会で通すことができなければ、旋回政策はつまずきかねない。
外国に支配され続けたフィリピン
ただ、米国の威信が傷つけられ中国が戦術的な勝利を収めたとしても、東アジアの地政学的なせめぎ合いが結末を迎えるには程遠い。
フィリピンは独立に向けた戦いを長く続けてきた。最初はスペインの修道士やその階級社会との戦い、その後は力で支配し大衆文化で誘惑した米国からの解放を勝ち取った。「フィリピンは300年にわたってスペインの修道会に支配され、その後50年にわたってハリウッドの生活を生き抜いた」という古い冗談がある。ドゥテルテ氏は国の方針を転換しようとしているが、国民はこのまま中国と共同生活を行いたいとは考えていないだろう。
中国側もフィリピンの政治的な愛情が移ろいやすいことにそのうち気付くだろう。逆にフィリピンに言い寄るようなことをしても突き放されることになる。フィリピンのナショナリズムは経済や安全保障やその他の問題をも超越する。
そのことを一番よく知るのが他でもない米国だ。フィリピンは1990年代初頭、クラーク空軍基地とスービック湾にある米国外最大規模の海軍基地から米軍を追い払った。両基地は国内第2位の雇用主であり、同国経済に年間10億ドルの貢献をしていた。米軍を撤退させたことでフィリピンは事実上無防備になった。
中国もフィリピンで挫折を経験したことが何度かある。アキノ元大統領の前任者であるグロリア・マカパガル・アロヨ氏が政権を握っていた時代、中国は3年間にわたる年20億ドルの融資と、鉄道網を含むインフラ事業の協力を申し出た。それと引き換えにフィリピンは領土問題を抱える南シナ海で共同で資源発掘を行うことに合意した。しかしフィリピンの中国寄りの政治家たちが腐敗問題に巻き込まれたため、この合意は水の泡となった。
米国は静観し失脚を期待か
ドゥテルテ氏の政治地盤であるフィリピン南部のダバオでは、奥地を中心にイスラム反乱軍が長期にわたって活動を続けている。そのダバオから大統領まで同氏が登り詰めたことに多くの人は驚いた。しかし米国から中国へと彼が軸足を移したことは意外ではなかった。この激情型のポピュリストは反米の思いを隠そうともしなかったからだ。
米国はドゥテルテ氏の挑発に対して静観を続けるつもりのようだ。なるべく反応を示さず、彼がいなくなることを期待する。これは意外と現実的なやり方かもしれない。
ドゥテルテ氏は暗殺隊までも使い麻薬組織を徹底的に排除して国民から人気を集めた。マルコス元大統領も同じように厳しい犯罪取り締まりで支持を得たものの、超法規的殺人を正当化するなどして最終的には国民から反感を買うこととなった。
ドゥテルテ氏にひけを取らないほど派手だったジョゼフ・エストラーダ元大統領は、たばこの煙が漂うナイトクラブで閣議を行うことで知られていた。彼も国民の支持が下がり、汚職疑惑で瞬く間に失墜した。
フィリピンには果敢なメディアや独立した裁判官がいる。そしてドナルド・トランプ氏を不快に思う層が米国に存在するように、ドゥテルテ氏をよく思わないエリート層もいる。国民の間には米国に好感を持つ人も多い。中国がドゥテルテ氏に賭けるのは危うい。
(筆者のアンドリュー・ブラウンはWSJ中国担当コラムニスト)
米国はいったいアジアで何をしていたのか。煮え切らない態度は中国に南シナ海での軍事基地の建設を許してしまった。
もっと早く中国をけん制する機会はあっただろうに。ここまで中国が台頭してきて「航行の自由作戦」など形だけしか思えない。
G20杭州の際中国が米国を怒鳴りつけた事をみれば、いかに米国のアジアでの存在が薄いことがわかる。
オバマ大統領はせめてTPPを成立させて幕をとじるべきです。
フィリピンはアキノ元大統領時代に経済も向上し、不正も正してきた。それでも麻薬や賄賂など規律に反する問題は大きい。
ドゥテルテ大統領は悪を一掃し強いフィリピンにすることに固い決心がある。見返りを求めるだろう中国の支援を実際にどこまで引き出せるでしょうかね。
フィリピン大統領、問題発言の封印宣言 「神のお告げ」で
2016.10.29 Sat posted at 15:49 JST CNN
(CNN) 数々の反米発言や悪態で物議を醸しているフィリピンのドゥテルテ大統領は29日までに、「神のお告げ」があったとして今後はこれらの発言を封印すると宣言した。
日本訪問を終え、比南部ダバオの国際空港に到着した際に述べた。ドゥテルテ氏によると帰国途次の機中で「ののしるような発言を止めないのなら搭乗機を墜落させる」との声が聞こえたとし、「まさに神のお告げだった」と述べた。
これを受け、混乱を生じさせるような言動は控えることを神に誓ったと述べた。また、「神への誓いはフィリピン国民への誓い」とも続けた。同大統領は最近、神の存在を疑問視するような言動を示したこともあった。
ドゥテルテ大統領はこれまで、オバマ米大統領とローマ・カトリック教会のフランシスコ法王を「ろくでなし野郎」と罵倒(ばとう)。駐比米大使を「同性愛のろくでなし野郎」とこき下ろしたことがある。オバマ氏をののしったことで首脳会談が取り消される結果にもなっていた。
ドゥテルテ氏のダバオ国際空港での発言は集まった支持者らの喝采を受けたが、同大統領は「余り拍手しないで。(問題発言の封印宣言が)失敗するかもしれないから」とも付け加えていた。
安倍首相に何か言われたことに納得したのでしょうかね。
マナーに外れなければ批判はどんどんしても良いと思います。日本は今のところ絶対にアメリカ批判はできないですからね。
オバマ氏のアジア回帰戦略はどこで誤ったのか
大統領の政治遺産は劇的に悪化した米中関係に?
2016 年 9 月 2 日 14:32 JST THE WALL STREET JOURNAL
だが、オバマ氏はこの野心的な約束を遂行できず、自らの外交政策上のレガシーに大きな疑問を残した。この結果、同氏の後任となる大統領は、世界で最もダイナミックな地域であるアジアの安定維持のため、はるかに困難な仕事を抱えることになる。
オバマ氏が自らのリバランスの目標を完全に説明したことは一度もなかった。このため、同盟国の中には米国がどの程度踏み込んでアジア問題に関与するのか、誤った解釈をする国もあった。一方で、中国のような国は、この戦略が米国の介入主義だとして警戒した。
オバマ氏は、一部の疑念を和らげるため、リバランスは安全保障に関連する事柄だけではないと常に主張してきた。中国・杭州で来週(2016年9月4日)開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(杭州サミット)で、オバマ氏は「強くて持続可能で、バランスの取れた世界の経済成長」を改めて訴えるだろう、とホワイトハウスは言う。だが、前四半期の米国の経済成長は1.1%というわずかな伸び率にとどまっている。力強い改革モデルを提示するために、オバマ氏ができることはほとんどなにもない。これは自由貿易に対する同氏の熱意の欠如も一因だ。
リバランスの柱の一つである環太平洋経済連携協定(TPP)は、オバマ氏の唯一の世界的な貿易協定だ。だが、その批准のための手続きは米議会で止まってしまっており、大統領候補のヒラリー・クリントンとドナルド・トランプ両氏はいずれもTPPに反対を表明している。オバマ氏は中国に対してバランスをとる方策として、TPPが米国の地政学上の立場にとっていかに重要かを何年にもわたって主張していた。そのオバマ氏がTPPの議会承認を得られないことは、米国の信頼性にとって打撃となる。自由貿易を嫌うことで悪名高い日本でさえ、今秋にはTPPを批准する構えだ。米国は最大の貿易相手国の一部との歩調を乱すことになる。
オバマ氏はG20を機に、ホスト役である中国の習近平国家主席と会談する。TPPが失敗する見通しになっていることを間違いなく喜んでいる人物だ。世界で最も強力な2つの国、つまり米中の指導者の最後の会談についてホワイトハウスは平然と、両首脳は「広範囲な世界的、地域的な問題と、二国間問題を話し合う」と述べている。ワシントンと北京が相違点を調整し、世界の将来を一緒に形成していくだろうとの強い希望が消え去って久しい。習氏はすでに、米国の次期大統領について考えを巡らせている公算が大きく、その好戦的な姿勢は、オバマ氏の任期が終わりに近づくにつれて増してきた。
オバマ氏は、米中関係の劇的な悪化を主導したとして記憶される可能性が十分ある。長年のハイレベルの首脳会談にもかかわらず、ワシントンと北京は角を突き合わせている。中国が地域的な優位性を主張しようとしているためだ。中国は韓国など米国の同盟国を標的にしている。北朝鮮が続けている核・ミサイル開発プログラムに対する自衛策として新型米国製ミサイル防衛システムを導入すると韓国政府が発表した後の動きだ。
中国は日本にも圧力を加え続けている。東シナ海で日本が管理する係争中の諸島(尖閣諸島)近くの水域に挑発的に侵入しているのだ。台湾を批判する中国のレトリック(言い回し)も、独立志向の強い民主進歩党が権力の座に復帰して以降、強くなった。
ラオスでは、オバマ氏は米国ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議と東アジア首脳会議(EAS)に出席するが、そこでは同氏と中国の危うい関係が極めて鮮明になるだろう。南シナ海は世界で最も危険な発火点の一つとなった。2016年7月12日、ハーグの国際仲裁裁判所は南シナ海の大半の水域に領有権を持つとする中国の主張を退けた。これに対し中国は、同裁判所には裁判の管轄権が一切ないと反発し、紛争水域にある人工島の軍事化を続けている。
この地域では、中国がG20を主催した後に、ますます挑発的な動きに出ると予想している向きが少なくない。中国は恐らく、南シナ海のスカボロー礁で岩礁を埋め立て、基地を建設する可能性があるという。スカボロー礁は、中国が2012年にフィリピンから力づくでもぎ取ったものだ。オバマ氏は繰り返し中国の行動を非難したが、中国の基地建設のペースが弱まることはなかった。それは南シナ海でのバランス・オブ・パワー(勢力均衡)を変化させた。
高貴な意図は別にして、大統領というものは結果によって判断される。オバマ氏は米国の繁栄に対するアジアの重要性を認識し、パートナーシップを深めようと努力した大統領として称賛されるべきだが、他方でアジアは今や過去数十年間よりもさらに不安定化している。米国の注意散漫か、あるいは弱さを感じ取った中国は、長年抱いていた不満に基づいて行動に出るほどに大胆になった。米国は海軍による「航行の自由」作戦など、軍事力の誇示によって中国の動きに対応するよう余儀なくされているが、それは外交の失敗を認めていることを意味する。
オバマ氏が後継の次期大統領に残すアジア政策の選択肢は少なくなるだろう。アジアでは偶発的ないし計画的な紛争のリスクが高まっているし、TPPを履行できないことで米国のアジアへの影響力は減じるだろう。クリントン氏もトランプ氏も、中国が南シナ海でやったことを元に戻せないだろうし、使用可能な核戦力の保有に近づいた北朝鮮に直面するだろう。フィリピンの気まぐれな新指導者のロドリゴ・ドゥテルテ氏を真似る国が増えるかもしれない。彼はけんか腰の一方で、北京との密接な関係を追求したがっており、その間で大きく揺れている。
米国の次期大統領が中国の行動を抑制できず、北京との関係を揺るがすリスクをとるのに消極的で、もっと強いメッセージを送れないならば、オバマ氏の大統領としてのレガシーは皮肉なものになるだろう。同氏はアジアを重視すると言いながら、米国の立場を弱体化させたことになるのだから。
(マイケル・オースリン氏はアメリカン・エンタープライズ研究所の常駐研究員。著書「The End of the Asian Century(アジアの世紀の終えん)」がエール大学出版局から来年出版される)
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<参考>
来日中のフィリピン大統領(アキノ氏)、中国をナチスにたとえる
2015年06月03日 17:09 発信地:東京 AFP
【6月3日 AFP】来日中のフィリピンのベニグノ・アキノ(Benigno Aquino)大統領は3日、都内で行った講演で、中国をナチス・ドイツ(Nazi)になぞらえ、世界各国は中国に対し宥和政策をとり続けることはできないとの見解をほのめかした。
中国は、南シナ海(South China Sea)の国際水域において大型軍用機が離着陸できる滑走路の建設を含む埋め立て計画を急ピッチで進めており、各国から懸念の声が上がっている。
都内で開かれた国際交流会議「アジアの未来(Future of Asia)」に出席したアキノ大統領は、中国の脅威とそれを抑制する米国の役割に関する質問を受け、「真空状態が生じて、例えば超大国の米国が『わが国は関心がない』と言えば、他国の野望に歯止めがかからなくなる」と回答。
さらに、「私は歴史学を学んだアマチュアにすぎないが、ここで思い出すのは、ナチス・ドイツが各国の出方を慎重にうかがっていたことと、それに対する欧米諸国の反応だ」と述べ、第2次世界大戦(World War II)勃発の前年にナチス・ドイツがチェコスロバキア・ズデーテン(Sudetenland)地方を併合した際、「誰もやめろと言わなかった」と指摘した。(c)AFP