ドラッグストアの調剤薬局で薬の出来上がるのを待ちながら、「絶望の国の幸福な若者たち」を読んでいた。20代とみられる若い女性の薬剤師から、「熱心に何の小説を読んでいるのですか?」と尋ねられた。「この本は小説ではなく社会学の本なんですよ。ところで、あなたは幸せですか」と聞いてみた。「えっ?」「薬剤師だから給料は高いし、幸せですよね」ともう一度聞いてみた。「でも、お金があれば幸せと言うわけではないですよ」と返事。
「私の教え子に有名大学の薬学部に推薦で入った生徒がいました。中国古典が大好きで、史学科で中国古典を勉強したいという生徒でした。でも、趣味と実益とは別だから、学科選びは慎重に」と伝えた。そして、彼女は薬剤師になった。そのアドバイスに、私はちょっと後悔した方がいいのか、適切なアドバイスだったのか、今でも考え込んでしまう。
「いや、関係ない話でごめんなさい」と言ってその場を後にした。
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この本を選んだ理由は、「日本の分断」--切り離される非大卒若者たち--という本を読んで、そのなかで解説された若者論が非常におもしろく、それではと読み始めたわけである。初めに読んだ「日本の分断」の本では、8人のレギュラーメンバーをもとに計量社会学的手法で日本の人々を比較検討することから始まる。
8人とは「壮年大卒男性」「壮年非大卒男性」「壮年大卒女性」「壮年非大卒女性」「若年大卒女性」「若年非大卒女性」「若年大卒男性」「若年非大卒男性」だ。要するに大卒か否か、女性か男性か、年寄か若いかの区別である。
これらの8人の違いをいろいろな角度で比較する。年収や賃金格差、婚姻状況、子供の数、配偶者学歴、生活満足度や幸福感、海外渡航数、政治関与や文化関与、ジェンダー思考や健康志向なども比較している。
一言で
「壮年大卒男性」659
20世紀型の勝ちパターン
「壮年非大卒男性」466
貢献にみあう居場所
「壮年大卒女性」222
ゆとりある生き方選び
「壮年非大卒女性」152
かつてのはじけた女子たちは、目立たない多数派に
「若年大卒女性」179 ※子供数0.91人
多様な人生選択、都市部で最多数派
「若年非大卒女性」140
不安定な足場、大切な役割 ※子供数多い
「若年大卒男性」378
絆の少ない自立層
「若年非大卒男性」322
不利な境遇、長いこの先の道のり
大卒の両親を持つ子供は大卒、大卒同士で結婚する割合が非常に多い。
世代から世代への分断、日本の格差が広がるのではなく、分断化していく。そのなかで、「若年非大卒男性」をレッグス=LEGs(Lightly Educated Guys)と名付け、彼らの生末を考えなければ日本の将来は危ういと伝える。
しかし、塾講師とすれば素直に、だから勉強しようと結論図けてしまいそうである。保護者説明会でこの本を紹介したくなってしまう。「だから、勉強、大切ですよ。早くから塾に行かせましょう」と。
さて、しわわせの国の高学歴者の絶望なのか、絶望な国の幸福なレッグスなのか。社会学がおもしろい。
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さて、「絶望の国の幸福な若者たち」なかでは、負け組とみなされる若者に焦点を当てて論じられる。年金や福祉に関しても1億円程度の損だし、大企業に入れないどころかフリーターや派遣社員のままで働き続けなければならない。家族と言う最強のインフラも構築できない。日本の没落は明白だし、二級市民として階級社会を生きなければならないかもしれない。
けれども、あの頃の社会にもどりたいのか。社畜として猛烈に働いた高度成長時代、公害にあふれた日本。バブルに浮かれた日本。家に押し込まれた専業主婦の生き方。ゲーム機器もあれば、スマホもある。誰とでも簡単に縁が結べ、縁が切れる。そんなに貧乏でもないし、友人たちの飲み食いもできる。別に(高級)車が必要なわけでもないし、(豪華な)家に住む必要もない。あの頃の若者が、夢見たものは必要ない。あるいは、あの頃夢見た、世界のだれとでもつながり、どんな知識も簡単にてにはいる道具をブルカラー職の人だけでなく小中学校生でも持てるこの国の今。絶望だろうか。
「なんとなく幸せで、何となく不安。そんな時代を僕たちは生きている。絶望の国の幸福な若者として。」でこの本は、終わる。
<主夫の作る夕食>
山芋かけごはんが好物です。
ニンジンとささみの和え物、電子レンジで簡単にできるのが嬉しい。
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<高須進学スクールの思い出>
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