2022.02.26(土)
https://nozomi-movie.jp/
映画『望み』を観た。
ある日突然、行方のわからない息子が被害者か加害者か、というありえないような究極の選択に巻き込まれる家族、父親と母親と妹。
本来は、たぶんもっといろいろな可能性に想像を巡らせるだろう。事情があって帰ってこられないのでは? 事件とは関係なく家出しただけなのでは? 真正面から現実に向き合うことを恐れて、安易に想像を働かせる。きっと私ならそうだ。
でも真面目な一家は、そんな回り道で自分をごまかしたりはしない、ある意味、不器用で愚かだ。
そして、父親は息子の無実を信じる。そんなことをする息子ではない、と信じる。信じようとする。
母親はひたすら息子が無事に戻ることを願う。加害者であっても・・・と思っているのか?
妹は兄の優しさをわかっていても、「犯人だったら困る」と父親に打ち明ける。
映画の宣伝に使われたコピーの文言や知名人の感想を先に読んでしまっていたので、こんな状況に置かれた「家族の絆」ってなんだろう? どちらのなりゆきになっても救いなんてあるのか? どんなふうに演出すれば「感動的な衝撃の結末」になるの? と画面を追いながら、片方で想像を巡らせていた、不真面目な観客。
描かれる事実に素直に浸れなかったのは、映画の良し悪しではなく私自身の個人的な理由によるものか?
18歳の受験生の頃に、この家族のように世間を騒がせはしなかったけれど、家族の問題でキツイ冬を過ごしたことがあった。そして、内容は異なるけれど、映画の妹がつぶやいたことと同質の思いを一瞬でも抱いた。
(その冬の重苦しさがいまだに忘れられなくて、この映画がどれほど優れていようと、役者(堤真一さんは大好きな役者です)がどれほど素晴らしい演技をしていようと、作り物に思えてしまうのだとしたら、私はこれを書くべきではないのだろう。)
その家族が20年後に亡くなるまで、そのとき抱いた思いをときどき思い出すことで、家族の思いなんてそんなものだ、という負の感情を捨てることなく暮らしていたように思う。
自分の築いた新しい家族をいとしいと感じるたびに、どこかに後戻りさせる作用が働いたような気がする。
映画のラストは、たぶんどちらに転んでも「最悪な幕切れ」だと予想したのだけれど、あれほど息子の「無事」を願った母親でさえ、「私たちは(息子に)救われたのかもしれない」と言う。それは何年もあとに到達することのできる感情じゃないかと思ってしまう。
「予想をこえる衝撃的な感動の幕切れ」とあったけれど、息子は父親の言葉を受け止めて前を見始めていた、ということがわかる。
いつも思うけれど、映画でも小説でも、結末のあとにどんな日々が続くのか、そこに思いを馳せることのできる作品は、いつまでも私の心に残る。この作品はどうだっただろう。
一方、WOWOWで再放送を見た『悪党』の第三話。
https://www.wowow.co.jp/dramaw/akutou/
加害者家族のその後の話。
出所した加害者とその姉(篠原ゆき子さんがとてもいい)が事件から15年後に会う。
弟の犯罪によって、それ以後の自分の人生がすべて台無しになった姉は、弟を許したことはない、許すことはできない、ただ、余命宣告をされた母親のために探し出して母親のもとに連れてきてほしい、と探偵事務所に依頼する。
母親との再会は果たせなかったが、姉は母親の決意を知り、それを弟にぶつける。
弟の心の中に悲しくもそびえていた壁が解け始める瞬間を私たちは目にする。
さて、この姉と弟の先にどんな日々が待っているだろう。
私はずっと想像を試みて、いまだに結論が出ない。私の興味は尽きない。
A. J. クローニンの作品は若いころに愛読したが、なかでも『地の果てまで』はドラマにもなって、今も記憶に新しい。
父親の冤罪をはらすために奔走する息子。冤罪の真相、真犯人の究明は、ミステリーとしても十分見ごたえがある。
でも今も忘れられないのは、晴れて出所した父親と息子のその後がきれいごとではなくシビアに描かれていたことだ。
幕を下ろしたあと、物語がどう続いていくのか、「めでたし めでたし」のあと、登場人物は幸せなままでいられるの?
良質な小説とドラマが、若かった私に見せてくれた人生の真実だ。
さて、映画『望み』について、確実に言えることは、あの家の前に群がったマスコミの存在への嫌悪感。
今でもああいう光景を現実に見ることができるのか、ドラマではなく現実の社会で。
ああいう愚劣な行為の末に得られたものを、私たちはテレビやネットや雑誌を通して情報として得ているのか。
物語の本質からは離れるけれど、そこは忘れずに書いておこう。
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