『ラベンダーの咲く庭で』(2004年、チャールズ・ダンス監督)
思いがかなって、ようやく出会うことができました。期待を裏切らない、いや期待以上の映画でした!
★静かに進んでいくストーリー
第二次世界大戦が始まる少し前の、イギリスの海岸の村が舞台。
ジャネットとアシュラの老姉妹は、父親の残した遺産で静かに暮らしている。質素だけれど、地元の女性を家政婦として雇い、優雅な穏やかな暮らし。気高い二人だけれど、地元の人々とも交流をもち、この地にとけ込んでいるようすがうかがわれる。
そこに現れたのが、嵐の過ぎ去った朝に流れ着いたポーランド人の若い美しい青年。負傷している彼を姉妹は家に招き入れ、手厚い看護をする。青年の名前はアンドレア。英語を話すことができず、姉妹は文法書を片手にドイツ語で意思の疎通を図るが、しだいにアンドレアは片言の英語を話し理解するようになる。
彼はバイオリンの名手で、姉妹が選んだオーダーメードのスーツで村の集いにも参加するようになる。
アシュラの中に芽生えたアンドレアへの思い。それを少しはらはらしながら見守るジャネット。
やがて、美しい女流画家のオルガが現れ、アンドレアの類い希なるバイオリンの才能に驚き、世界的に有名なバイオリニストの兄の紹介するため、彼をロンドンに連れ出してしまう。残された姉妹は失意の日々を送るが、アンドレアからの手紙で、ロンドンの演奏会にデビューすることを知る。
とりたてて大きな事件が起こるわけでもない。オルガの出現は波紋を巻き起こすが、それでも静かに物語は進行する。オルガの美しさに魅入られた中年医師がアンドレアに嫉妬したりするが、それも大きなうねりにはならない。
ただ、姉妹の、とくにアシュラのせつない思いが美しい風景の中で静かに、そしてある意味、激しく進行していく…、そんなドラマだ。
★静かな暮らしに舞い降りた美しい夢?
ジャネットとアシュラの老姉妹がすてきだ。
競い合うようにアンドレアの世話をする。アンドレアは、長いこと、静かで変化のなかった姉妹の暮らしに舞い降りた美しい夢なんだろう。
姉のジャネットは冷静な知的な女性で、そう、まるで息子を世話するかのような大きな愛を表現する。
一方、妹のアシュラは、波打ち際に倒れていたアンドレアを見た瞬間に、たぶん恋に落ちたのだろう。老婦人でありながら、アンドレアを思う表情がなんともかわいらしく見えてくる。
二人の会話から、ジャネットには夫か、あるいは恋人との暮らしがあったことがわかる。「ずるい」と言うアシュラには、きっとそんなふうに誰かを愛した時間がなかったのかもしれない。あったかもしれないけれど、実らぬ思いだったのだろう。
アシュラは若い女性のように、胸をふるわせ、やきもちを焼き、そしてアンドレアに寄り添うようにかいがいしく世話をする。オルガへの嫉妬の表情にジャネットは不安を隠せない。
アンドレアが去ったあと、彼の部屋にたたずみ、そして彼のベッドにまるで幼子のように横になる彼女がせつない。
最後のシーンは、演奏会後のパーティーでアンドレアを再会した姉妹が、長い廊下を去っていく後ろ姿。支え合うようにして歩いていく後ろ姿。
人生最後の夢のような日々は終わり、またもとの静かな穏やかな暮らしが待っているのだろう。それを暗示させるように、二人の姿がふっと消えていく。
決して前と同じ日々ではないだろう。この二人、とくにアシュラは、アンドレアと過ごした短い季節をどんなふうに思い出しながら生きていくのだろうか。
★ビバ! ジュディ・デンチ and マギー・スミス
アシュラを演じるジュディ・デンチがすばらしい。老いた女性の中に芽生えた淡い恋心が、表情に、しぐさに現れて、とても自然。嫉妬の思いにかられて心の中は激しくうごめいていることを感じさせながら、決して自分を見失わない大人の潔さをも伝えてくれる。
ジャネット役のマギー・スミスは、あの『ミス・ブロディの青春』の女優さんなんですね。妹の思いを戸惑いながら見守る姿がずっと物語を引き締めている感じ。
どちらも、映画や舞台で活躍するベテラン中のベテラン。一緒に出演しているという『眺めのいい部屋』、観てみたいなあ。
アンドレアのダニエル・ブリュールは、いつかいつか、と思いながら見逃している『青い棘』に出演しているとか。これも必ず。アシュラの思いには気づかず、姉妹に優しくされて甘えるようすや、感情的になって振る舞うさまなど、いろいろな表情が魅力的な人でした。
事件も過激なストーリー展開もないけれど、心の中に不思議な渦やドキドキをもたらしてくれた映画。
年老いても、夢は舞い降りてくる。心が乾かないでいるなら、ドラマは人を見放したりはしないのかもしれない。
ステキに老いていきたいものです。
思いがかなって、ようやく出会うことができました。期待を裏切らない、いや期待以上の映画でした!
★静かに進んでいくストーリー
第二次世界大戦が始まる少し前の、イギリスの海岸の村が舞台。
ジャネットとアシュラの老姉妹は、父親の残した遺産で静かに暮らしている。質素だけれど、地元の女性を家政婦として雇い、優雅な穏やかな暮らし。気高い二人だけれど、地元の人々とも交流をもち、この地にとけ込んでいるようすがうかがわれる。
そこに現れたのが、嵐の過ぎ去った朝に流れ着いたポーランド人の若い美しい青年。負傷している彼を姉妹は家に招き入れ、手厚い看護をする。青年の名前はアンドレア。英語を話すことができず、姉妹は文法書を片手にドイツ語で意思の疎通を図るが、しだいにアンドレアは片言の英語を話し理解するようになる。
彼はバイオリンの名手で、姉妹が選んだオーダーメードのスーツで村の集いにも参加するようになる。
アシュラの中に芽生えたアンドレアへの思い。それを少しはらはらしながら見守るジャネット。
やがて、美しい女流画家のオルガが現れ、アンドレアの類い希なるバイオリンの才能に驚き、世界的に有名なバイオリニストの兄の紹介するため、彼をロンドンに連れ出してしまう。残された姉妹は失意の日々を送るが、アンドレアからの手紙で、ロンドンの演奏会にデビューすることを知る。
とりたてて大きな事件が起こるわけでもない。オルガの出現は波紋を巻き起こすが、それでも静かに物語は進行する。オルガの美しさに魅入られた中年医師がアンドレアに嫉妬したりするが、それも大きなうねりにはならない。
ただ、姉妹の、とくにアシュラのせつない思いが美しい風景の中で静かに、そしてある意味、激しく進行していく…、そんなドラマだ。
★静かな暮らしに舞い降りた美しい夢?
ジャネットとアシュラの老姉妹がすてきだ。
競い合うようにアンドレアの世話をする。アンドレアは、長いこと、静かで変化のなかった姉妹の暮らしに舞い降りた美しい夢なんだろう。
姉のジャネットは冷静な知的な女性で、そう、まるで息子を世話するかのような大きな愛を表現する。
一方、妹のアシュラは、波打ち際に倒れていたアンドレアを見た瞬間に、たぶん恋に落ちたのだろう。老婦人でありながら、アンドレアを思う表情がなんともかわいらしく見えてくる。
二人の会話から、ジャネットには夫か、あるいは恋人との暮らしがあったことがわかる。「ずるい」と言うアシュラには、きっとそんなふうに誰かを愛した時間がなかったのかもしれない。あったかもしれないけれど、実らぬ思いだったのだろう。
アシュラは若い女性のように、胸をふるわせ、やきもちを焼き、そしてアンドレアに寄り添うようにかいがいしく世話をする。オルガへの嫉妬の表情にジャネットは不安を隠せない。
アンドレアが去ったあと、彼の部屋にたたずみ、そして彼のベッドにまるで幼子のように横になる彼女がせつない。
最後のシーンは、演奏会後のパーティーでアンドレアを再会した姉妹が、長い廊下を去っていく後ろ姿。支え合うようにして歩いていく後ろ姿。
人生最後の夢のような日々は終わり、またもとの静かな穏やかな暮らしが待っているのだろう。それを暗示させるように、二人の姿がふっと消えていく。
決して前と同じ日々ではないだろう。この二人、とくにアシュラは、アンドレアと過ごした短い季節をどんなふうに思い出しながら生きていくのだろうか。
★ビバ! ジュディ・デンチ and マギー・スミス
アシュラを演じるジュディ・デンチがすばらしい。老いた女性の中に芽生えた淡い恋心が、表情に、しぐさに現れて、とても自然。嫉妬の思いにかられて心の中は激しくうごめいていることを感じさせながら、決して自分を見失わない大人の潔さをも伝えてくれる。
ジャネット役のマギー・スミスは、あの『ミス・ブロディの青春』の女優さんなんですね。妹の思いを戸惑いながら見守る姿がずっと物語を引き締めている感じ。
どちらも、映画や舞台で活躍するベテラン中のベテラン。一緒に出演しているという『眺めのいい部屋』、観てみたいなあ。
アンドレアのダニエル・ブリュールは、いつかいつか、と思いながら見逃している『青い棘』に出演しているとか。これも必ず。アシュラの思いには気づかず、姉妹に優しくされて甘えるようすや、感情的になって振る舞うさまなど、いろいろな表情が魅力的な人でした。
事件も過激なストーリー展開もないけれど、心の中に不思議な渦やドキドキをもたらしてくれた映画。
年老いても、夢は舞い降りてくる。心が乾かないでいるなら、ドラマは人を見放したりはしないのかもしれない。
ステキに老いていきたいものです。