■鳩山一郎、石橋湛山、田中角栄……。今こそ聞きたい、日本の「自立」を追求した政治家たちの言葉
ハーバー・ビジネス・オンライン(扶桑社)2019.07.26
https://hbol.jp/197871
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・トランプ安保破棄発言こそ対米自立の好機
6月のG20直前、Bloombergが「トランプ大統領は日本との安保条約を密かに破棄すべく熟考中」と配信した。(参照:Bloomberg)
菅義偉官房長官が慌ててトランプ発言を否定したが、その直後にトランプ大統領は「日本が攻撃されれば、アメリカは第三次世界大戦を戦い猛烈な犠牲を払うことになるが、日本はアメリカが攻撃されているのをソニーのテレビで見物するだけだ」と発言した。
トランプ大統領の日米安保条約破棄発言は、決して気まぐれや思いつきではない。
同種の発言は3年前の大統領選当時にもあったし、欧州各国にも「アメリカに頼むなら応分の負担をしろ」と言明している。
『月刊日本』8月号では、こうしたトランプ大統領の「日米安保条約破棄」発言を奇貨として、我が国は自国の安全をどう確保すべきか、虚心坦懐に考えるチャンスだとして、「トランプ安保破棄発言 対米自立の好機」という特集を組んでいる。
今回はその中から、戦後の日米安保体制の中にあって、日本の自立を追求した政治家について論じた同誌編集部の論考を紹介したい。
・モノマネされる安倍総理
「先ほどアメリカのトランプ大統領と電話で会談をしました。私たちの思いは一致しました」
これは安倍晋三総理の言葉ではない。東北出身のお笑い芸人・サンドウィッチマンの伊達みきおさんが、テレビ番組で披露した安倍総理のモノマネである。
伊達さん扮する安倍総理は、どんな話題を振られても「先ほどトランプ大統領に電話しました」としか応じない。
新元号や景気回復など、直接アメリカと関係のないことを聞かれても、トランプの話しかしないのだ。
司会者から「すぐトランプに電話するやん」とツッコミが入り、番組は笑いの渦に包まれた。
「沖縄タイムス」はこのモノマネに注目し、安倍総理の対米従属ぶりを連想させる「爽快な風刺」と指摘した。
しかし、伊達さんに安倍総理を揶揄する意図はなかったのではないか。
単に安倍総理の特徴を忠実にマネしているだけのように見える。
番組の観覧客や視聴者たちも、モノマネが風刺として優れていたから笑ったわけではあるまい。
日頃マスコミに出てくる安倍総理の特徴をうまく捉えているから面白かったというだけだろう。
逆に言えば、国民の間にも、安倍政権を支持しているかどうかはともかく、安倍総理がトランプ大統領べったりという印象が広がっているということである。
安倍総理はトランプ政権が誕生して以来、トランプ大統領に徹底的に媚を売ってきた。
安倍総理がトランプ大統領の前で見せる顔は、有権者に愛想を振りまく政治家の顔に似ている。
政治家は票のためなら土下座もいとわない。
安倍総理の振る舞いにはそれに近いものがある。
事実、戦後の日本では、アメリカから支持を得た政権は長期政権を築いてきた。
安倍総理もそのことをよく理解しているから、国民よりもアメリカの意向を重視するのだろう。
戦後の日本はアメリカと同盟関係にあるため、どうしてもアメリカの行動に引きずられてしまう。
それは安倍政権に限った話ではない。
しかしそうした中でも、日本の自立を追求した政治家たちがいたことも忘れてはならない。
以下では、その中でも、特に現代的に価値があると思われる政治家たちの言葉を見ていきたい。
まず、鳩山一郎である。
鳩山は第一次鳩山内閣における施政方針演説で、次のように述べた。
「今日わが国の最大の課題は、すみやかにわが国の自主独立を完成いたし、独立国家の国民としての自覚を高め、わが国の自立再建を達成することにあると信じております。このため、政府は、まず、外交においては、世界平和の確保と各国との共存共栄を目標とし、広く国民の理解と支持とによる積極的な自主平和外交を展開しようとするものであります。(中略)変転する国際情勢のもとにあつて、わが国の自主独立の実をあげるためにも、国力の許す範囲において、みずからの手によつてみずからの国を守るべき態勢を一日も早く樹立することは、国家として当然の責務であろうと存ずるのであります。従つて、防衛問題に関する政府の基本方針は、国力相応の自衛力を充実整備して、すみやかに自主防衛態勢を確立することによつて駐留軍の早期撤退を期するにあります。」(1955年1月22日「施政方針演説」)
これはのちに自民党の党是へつながっていく。
自主防衛態勢の確立や駐留軍の早期撤退といった議論は、現在から見ると実に隔世の感がある。
次に石橋湛山の外交戦略を見てみよう。
石橋は総理をやめたあと、「日中米ソ平和同盟」という壮大な構想をぶち上げた。
アメリカとソ連、中国の間にある不信感を拭い去り、地域の平和を確保するために、日米間の同盟関係を日米中ソの四か国間まで広げるべきだと主張したのだ。
「……わが国としては、社会党のように、今にわかに米国を『日中共同の敵』ときめつけるのは、従来の歴史を顧みない突飛な行動で、非常識きわまりないと言わざるをえない。日本としては、米国を仇よばわりする前に、米国とソ連、中国の間を仲介し、現在、日米二国間だけに適用されている安全保障条約を、日中米ソ四国間にまで拡げて、相互安全保障条約の方向に努力することが賢明な策である。こうしてはじめて、東洋の平和を保ちうるのみならず、世界平和をも回復できるのである。私の主張する日中米ソ四国の平和同盟というものは、以上のごとく、実はわが国にとって、ソ連および中国との関係から是非とも必要なのである。」(石橋湛山「日中米ソ平和同盟の提唱」)
最後に注目したいのが、田中角栄である。
田中角栄は新潟日報東京報道部記者だった小田敏三氏に対して、「裏安保なんだよ、日中は」と述べ、次のように続けた。
「日米安保によって日本は、国防を米国に任せ、自分たちは経済繁栄を享受できた。これからは分からん。米ソ関係が悪いと日本に軍備の強化を要求してくる。米とソ、日本とソ連の間にいる中国の数億の民が壁になったんだ。中国と組んだから軍事費はいまも一%以内なんだ。そうでなけりゃ三%ぐらいだ。米国が要求するから。米国は二等辺三角形の底辺なんだよ。」(新潟日報編『入門 田中角栄』)
この「日中裏安保論」は、池田勇人総理の秘書官だった伊藤昌哉によると、池田の持論だったという。
池田が大平正芳にこの話をしていたので、それが田中に伝わった可能性があるようだ。
小田氏によれば、アメリカから日本に対してベトナム戦争派兵への圧力が強まったときも、田中角栄は「どんな要請があっても、日本は一兵卒たりとも戦場には派遣しない」と述べた。
官僚たちが「アメリカからの強い要請がある」と強く言っても、「そういうときには、憲法9条を使えばいい」と返したという(『週刊新潮』2019年6月20日号)。
安倍総理にはぜひ角栄の爪の垢を煎じて飲んでいただきたいものだ。
・同盟に忠実であることの危険性
もとより、安倍総理が何から何までトランプの言いなりだと言うつもりはない。
たとえば、2018年7月に北村滋内閣情報官は北朝鮮のキム・ソンヘ統一戦線策略室長とベトナムで極秘裏に接触した。
これに対して、アメリカの政府高官は、日本が事前に会談のことをアメリカに伝えなかったとして不快感を示した。
トランプが板門店で金正恩と会談することを日本に事前に伝えなかったのも、その意趣返しだったのかもしれない。
とはいえ、安倍政権の北朝鮮外交には一貫性がない。
北朝鮮外交に限らずそうである。
端的に言って、場当たり的なのだ。
安倍政権はどのような国を目指し、国際社会の中でどういう役割を果たそうとしているのか、明確なヴィジョンが見えない。
これに対して、たとえばロシアのプーチン大統領は「ユーラシア共同体」という確かな構想を持っている。
これはヨーロッパとアジアの間で独自の空間を築くとする考え方だ。
この構想は、ほぼ実現したと言っていいいだろう。
また、元CIAのマイケル・ピルズベリーが『China 2049』で強調しているように、中国は「中国共産党革命100周年に当たる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」という100年計画を持っている。
その目標はいままさに達成されつつある。
場当たり的な外交はときに危険をともなう。
アメリカと中国の対立関係が強まっている現在では、なおさらそうである。
仮に米中間で軍事衝突が起こった場合、日本は日米同盟によって中国と戦争しなければならなくなる。
明確なヴィジョンがない安倍政権には、角栄のように憲法を盾にアメリカの要求を突っぱねることはできないだろう。
もちろん現在の米中に戦争の意思はない。
近い将来、米中戦争が起こるとは考えにくい。
しかし、物事には偶然というものがある。
そのことは常に想定しておかねばならない。
かのキッシンジャーは、第一次世界大戦は各国が同盟を破ったからではなく、各国が同盟を忠実に守ったために始まったと述べている。
同盟は自国の安全を確保するだけでなく、自国を危険にさらすこともあるのだ。
トランプが日米安保破棄に言及したことは、日本にとっては幸いである。
私たちは今後の日本のありかたを考えるためにも、一度立ち止まり、日米同盟のありかたについて議論すべきではないか。
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