ちょっと実験的な感じで書いてみた第三者視点の小話。
仕事終わりに駅前の珈琲店に寄って帰るのが密かな楽しみだ。珈琲豆の色をした重厚な扉をひらくと、カウンターのいつもの席に腰を下ろし、奥にいるマスターにブレンドを注文する。髭の奥の口がもごもごと動いて注文を確認すると、そのまま手元にあるミルを挽きはじめた。ゆったりとしたジャズに溶け込む珈琲を挽く音と焙煎された芳醇な香りが一日の終わりを運んできてくれる気がする。しばし至福の一時を感じながら、さり気なさを装って店の奥のテーブル席に目をむけると、
(いた。彼女だ。)
肩で切りそろえらえた赤みがかった茶髪が印象的なその女性は、たまにこの店で見かける常連の一人だった。この店自慢のブレンド珈琲のようなキリッとした表情で分厚い専門書や書類に目を通しているところを見ると、この近くの大学の学生なのかもしれない。
はじめてこの店で彼女を見た時、白皙の肌と樺色の髪、そして日本人離れした美貌に一瞬で目が惹きつけられた。それ以来、この店で彼女に会えるのが自分の密かな楽しみとなっていた。
運ばれてきた珈琲をブラックのまま口に運ぶと深いコクが口いっぱいに広がる。大好きな珈琲と心地よいジャズ、そして美女、そんな最高の空間に一日の疲れも吹き飛ぶ様な気がした。チラリと再び奥の彼女に目をやると、今日は珍しく頬杖をつきながら、店の外を眺めていた。
(何かあったのかな?)
いつも店で見ている理知的な表情とは違い、どことなくそわそわした様子に心配になるが、とても声をかける勇気など出るはずもなく、黙ってカップの珈琲を口に運ぶ。
しばらく後、店の大きな柱時計がボーン、ボーンと時を告げ始めた。きっちり七度、仕事を全うしたことに満足したように柱時計が沈黙した頃、窓の外を見ていた彼女がふいに微笑んだ。
(あんな表情するんだ…)
思わず目を奪われる。とその時、店の扉がやや強引に開けられた。
「志保」
「こっちよ」
性急に入ってきた男に、小さく手を振ったのは彼女。
「ごめんな。遅くなった」
「ギリギリ、ロスタイムってところかしら」
悪戯っぽく微笑むその顔は、いつものブラック珈琲どころかミルクコーヒーの様に甘く柔らかい。
(……ああ、そうか)
がっくりと肩を落とすと手元のカップに残った珈琲を飲み干す。少し冷めた珈琲はなんだかいつもよりほろ苦く感じた。
最初は拍手小話にしようかと思ったんですが、ちょっとわかりにくいかなあと、ということでこっちに上げてみました。
志保さんがいつもは研究の合間に珈琲を飲みに行ってる喫茶店の常連客視点、のつもりです。いつも仕事の息抜きがてらに来てる店の珈琲が美味しいと言ったら、工藤が「オレも飲んでみたい」と言いだしたので、デートの待合わせに使ってみた、というシチュエーションだったり。
仕事終わりに駅前の珈琲店に寄って帰るのが密かな楽しみだ。珈琲豆の色をした重厚な扉をひらくと、カウンターのいつもの席に腰を下ろし、奥にいるマスターにブレンドを注文する。髭の奥の口がもごもごと動いて注文を確認すると、そのまま手元にあるミルを挽きはじめた。ゆったりとしたジャズに溶け込む珈琲を挽く音と焙煎された芳醇な香りが一日の終わりを運んできてくれる気がする。しばし至福の一時を感じながら、さり気なさを装って店の奥のテーブル席に目をむけると、
(いた。彼女だ。)
肩で切りそろえらえた赤みがかった茶髪が印象的なその女性は、たまにこの店で見かける常連の一人だった。この店自慢のブレンド珈琲のようなキリッとした表情で分厚い専門書や書類に目を通しているところを見ると、この近くの大学の学生なのかもしれない。
はじめてこの店で彼女を見た時、白皙の肌と樺色の髪、そして日本人離れした美貌に一瞬で目が惹きつけられた。それ以来、この店で彼女に会えるのが自分の密かな楽しみとなっていた。
運ばれてきた珈琲をブラックのまま口に運ぶと深いコクが口いっぱいに広がる。大好きな珈琲と心地よいジャズ、そして美女、そんな最高の空間に一日の疲れも吹き飛ぶ様な気がした。チラリと再び奥の彼女に目をやると、今日は珍しく頬杖をつきながら、店の外を眺めていた。
(何かあったのかな?)
いつも店で見ている理知的な表情とは違い、どことなくそわそわした様子に心配になるが、とても声をかける勇気など出るはずもなく、黙ってカップの珈琲を口に運ぶ。
しばらく後、店の大きな柱時計がボーン、ボーンと時を告げ始めた。きっちり七度、仕事を全うしたことに満足したように柱時計が沈黙した頃、窓の外を見ていた彼女がふいに微笑んだ。
(あんな表情するんだ…)
思わず目を奪われる。とその時、店の扉がやや強引に開けられた。
「志保」
「こっちよ」
性急に入ってきた男に、小さく手を振ったのは彼女。
「ごめんな。遅くなった」
「ギリギリ、ロスタイムってところかしら」
悪戯っぽく微笑むその顔は、いつものブラック珈琲どころかミルクコーヒーの様に甘く柔らかい。
(……ああ、そうか)
がっくりと肩を落とすと手元のカップに残った珈琲を飲み干す。少し冷めた珈琲はなんだかいつもよりほろ苦く感じた。
最初は拍手小話にしようかと思ったんですが、ちょっとわかりにくいかなあと、ということでこっちに上げてみました。
志保さんがいつもは研究の合間に珈琲を飲みに行ってる喫茶店の常連客視点、のつもりです。いつも仕事の息抜きがてらに来てる店の珈琲が美味しいと言ったら、工藤が「オレも飲んでみたい」と言いだしたので、デートの待合わせに使ってみた、というシチュエーションだったり。
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