『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・2014年福岡都市圏の学生演劇を観終えて:中

2014年12月23日 00時45分39秒 | ●演劇鑑賞

 

  悩ましき“学祭ステージの音響”

   しかし、この「九大祭」において、非常に気になったことがある。それは、「学祭」の「メインステージ」の音響の凄まじさだ。「サブステージ」は何とか我慢できたのだが……。

   演劇部の「テント小屋公演」を “吹っ飛ばす!” いや “吹っ飛ばした!” と言える音量(ボリューム)だった。「役者の声」が “聞き取りにくい” といったレベルを遥かに超えており、「演劇部」の諸君が不憫でならなかった。

    “あの「ステージ」に、あれだけのボリューム”……本当に必要だったのだろうか。正直言って、筆者は数日間、耳鳴りと軽い頭痛に襲われていた。

   そのため「学祭当日」は “一つの舞台と次の舞台の間” は、できるだけ「メインステージ」から離れ、また建物内に避難することを心がけた。

   「演劇」の合間に「朗読会」の教室に入ったところ、予定時間内にも関わらず、室内は「人っ子一人」いなかった。広い「無人の教室」は、「ステージ」からの “轟音” に圧倒されていた。

   つまりは、「中止」せざるをえなかったのだ。“あれだけ大きな音” が押し寄せて来れば、“室内も室外” と何ら変わりはない。これを企画した学生諸君も気の毒でならない。

   筆者の超超 “SEIKO” な「鼓膜」と、超超 “SENSAI” な「感性」には、とても耐えがたい轟音だった。福岡市中央区の「六本松キャンパス」時代には、 “音量の節度” は保たれていたと思う。その証拠に、“うるさい” と思ったことは一度もなかったのに……。

 

    ……来年が、チョウ心配だ――。

   囁かれる花雅美秀理氏の「九演大テント公演」からの “引退”  ……年明けに“号泣会見” か? 》 

   “老い先短い年寄りの楽しみを奪っては……ダメよ~ ダメダメ~  

   

4.『アルバート、はなして』 

   この舞台は、「ノーベル物理学賞」を受賞した「アルベルト・アインシュタイン」(※註1)を主人公にしたもの。タイトルの「はなして」には、「話して」、「放して」、そして「離して」の意味を持たせていたようだ。

   「アルバート」が生まれ育ったドイツは、二度の「世界大戦」を経験している。「第一次」(1914-1918)と「第二次」(1941-1945)がそれであり、ドイツは両大戦において「敗戦国」となった。

   本舞台は “この大戦の時代を生きた” 主人公の身辺をコンパクトにまとめ、さらりと “時代の雰囲気” を捉えたものだった。 

   主人公の「アルバート」を直接描くと言うより、両親、妹、妻という家族や周囲の人々を描くことによって、「主人公」を浮かび上がらせようとするもの。その「手法」にマッチした舞台だった。

   「舞台美術」として、「大型の書物に擬した小道具」を「ベッド」や「椅子」にするというアイディアは、深い意味を秘めていたし、また斬新なものだ。“知識” や “学問” それに “ノーベル賞に値する学問的業績” といった “プラスの遺産” が、同時に “マイナスの遺産” をも意味すると言う “不条理性” を “暗示” していたからだ。なかなかのセンスだ。

   総勢10人からの「キャスト」は、いずれも20代から30代なのだろうか。若さと情熱溢れる溌剌とした演技に好感が持てた。

   筆者が個人的に知っている「役者」といえば、本ブログの「学生演劇の公演紹介」で述べた、「九州大学演劇部」現役生の山本貴久氏と「福岡女学園大学」OGの井ノ口美津希さん。その二人が夫婦役で登場し、期待以上の好演を見せてくれた。

       ☆

   当初はそうではなかったが、後に《毒ガス開発の父》と呼ばれた〈フリッツ〉。その役を務めた「山本」氏。「フリッツ」の開発による「毒ガス・チクロンB」は、「アウシュビッツ収容所」において、ユダヤ人の大量虐殺に用いられた。山本氏はその屈折した「役回り」を、持ち前のストイックな風貌に加え、ニヒリスティックな雰囲気を漂わせながら演じ切っていた

  その妻〈クララ〉役の「井ノ口」さん。この「クララ」も調べて判ったことだが、博士号を取得したユダヤ系ドイツ人の化学者。夫の毒ガス開発への抗議のために自殺したと言われる悲運の才女(※もっとも、自殺の理由は他にもあるようだが)。

   井ノ口さんについては、今春卒業時の公演で彼女が演出・出演を務めた『フローズン・ビーチ』が想い出される。それからほぼ9か月――。役に恵まれたこともあるだろうが、質的な変化と言えるほどの成長を感じた。卒業後にどのような “演劇活動” をしているのか。筆者はまったく知らないが、今回の「クララ」の演技から、それなりの刺激や訓練を受けていることがうかがえた。貪欲にさまざまな役に挑戦して欲しい。

             ☆

   他に印象に残った「役者」としては、何と言っても、アインシュタインの〈〉と先妻の〈ミレーバ〉、そして後妻〈エルザ〉の3役を演じた「清水ミサ」さん。先妻〈ミレーバ〉と後妻〈エルザ〉の “ボクシングファイト” 形式の “女の闘い” は、この舞台の大きな柱にもなったようだ。

   このときの歯切れのよい “台詞回し” と切れの良い “コミカルな動き” は、相当力を入れた稽古と覚悟があったことをうかがわせた。演出のうまさと併せ、この舞台を魅力あるものとした最大のシーンではなかっただろうか。

   あとはやはり、〈父・ヘルマン〉役の「君島史哉」氏に、演出を務めた〈アドルフ〉役の「垣内大」氏。いわゆる “安心して観ていられる役者” だ。  

        ☆

   ただ気になったのは、〈アドルフ〉が、実は「アドルフ・ヒットラー」であったという設定は、「フィクション」(舞台)とはいえ、“歴史観” として、また当世盛んに議論されている “歴史認識” における “視点” として、微妙な問題だ。

   「アドルフ・ヒットラー」という、かなり詳細にその生涯が把握されている「歴史上の人物」の “生涯の一部” を、たとえ「想像力に基づく創作」にしても、またそれが “ごく一部” ではあっても、アレンジする作業は危険が伴う。

   何と言っても「ヒットラー」は、 “人類史上最悪のホロコースト” の張本人であり、疑う余地なくその「生涯の歩みの詳細」や「評価」が絶対視されている。慎重の上にも慎重であって欲しい。

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 ※註1:アルベルト・アインシュタイン(: Albert Einstein、1879.3.14-1955.4.18) /ドイツ生まれのユダヤ人理論物理学者。「アルバート」という表記は「英語」表記であり、一般的な表記としては、彼の生国「ドイツ」の「アルベルト」を採用しています。ナチスの迫害を受けてドイツを出国した後は、イタリア、スイスそして米国と渡り、そこで生涯を終えました。

 ※註2:ブログ開始は、2009年4月。今年で7年目となります。