泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

信頼の構造

2009-10-09 09:50:55 | 読書
 信頼とはなんだろうか?
 これが今書いている小説のテーマの一つでもあって、この本に当たりました。
 読んでみて、さすが東大出版会という感じでしょうか。やはり難しい。
 著者の学歴を眺めるだけでくらくらしてくる。
 それでも読了できたのは、中島みゆきの歌詞を引用(札つきだろと、殺し屋だろと、私にやさしくしてくれる)したりして、なんとかわかりやすく伝えようとする工夫が感じられるからです。
 僕の理解したところによると、通常使われている「信頼」には5種類もあった。この差異を自覚しないで「信頼」という言葉を使っているから、「信頼」がわかりづらくなっていたのでした。
①自然の秩序に対する期待
 激しい台風の中では、どうしても気持ちも凹みがちになる。仕事もしたくない。約束があるのに電車が動かない。いらいら。ズボンも濡れる。しかし、今日のように、雨は必ず止む。快晴が来る。あるいはどんなに悩み苦しもうと、命のレベルでは、常に私を生かそうとしてくれている。そんな自然への期待。
②能力に対する期待
 このはさみはよく切れ、長持ちする。よってこの商品を作ったメーカーなら、また買い物をしてもいい。外れは少ないだろう。
③安心
 見通しの効かない中で、この人の行動は、私の害にはならないと思える。それはその人の人格を知ってのことではなく、条件的に、一方を痛めることが互いの利益に反することだから。やくざ型コミットメントとも言う。
④信頼性
 私があなたをという方向ではなく、相手が私にとって信頼できるかどうか。信頼される側の特性。傾向。
⑤信頼
 道徳的秩序に対する期待であり、相手の意図に対する期待であり、相手の人格や実際の関係から得た知見に基づく評価。
 以上の概念整理が行われた上で、理論を正すための実験が行われ、その結果によって修正が加えられていき、さらにならばどう考えられるかが展開されるという構成になっています。
 安心と信頼の区別は参考になりました。社会的不安が増大すると、やくざが勢力を拡大する。なぜなら人々は安心したいから。その人が信じられなくても、わが身が守られるためなら、進んで鉄の掟(ボスに反発すると殺される)に加わっていく。信頼は、安心を得られる、しかし窮屈な、それ以外の関係を結ぶことのできない閉じられた世界からの離脱を可能にする。今の関係より、いい収入、充実が得られるかもしれない。それが機会コストと言われるものです。でも、また痛い目に遭うかもしれない。それは避けたい。そこで人はどうするか。賢くなるのです。相手をよく観察し、信頼に値するか判断するのです。それが社会的知性と言われる。
 人の心を理解しようとするとき、社会的環境を抜きにしては、本質を見誤るのでした。著者が「あとがき」で書いているのですが、自分がずっと考えてきたのは、北風から太陽へのアプローチの転換だったのだと。どのような社会的環境なら、人々は自ずと不信という服を脱ぐようになるのか。北風のように脱がせよう脱がせようと個人に働きかけるのではなくて。これには僕もはっとしました。特に恋愛で、僕は急いて、相手の服を脱がせよう脱がせようとばかりしてきたのではないか、と。
 近著で『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』がよく売れています。『信頼の構造』の進化版、具体化として、研究が深められているのでしょう。気になるところです。
 社会的不安、社会的不確実性は、ますます増大しているように感じます。その社会に生きて、信頼とはなんなのか。仕事の上でも愛の上でも、信頼もまた比例してますます大事なものになってきていると思います。社会がまた、信頼を高く買う時代に移りつつもあります。自民党は少なくとも、国民の信頼を得られなかった。僕らの要求と、彼らの実践に、大きな差があったということです。
 個人として、自営として、信頼されるために必要なことはなんなのか。もちろん能力に対する期待に応えることも必要です。そのための研鑽は日々怠ってはいけません。と同時に、人柄。つまり、良心があるかどうか。自分以外を共感的に理解できるか。その人のために尽くせるかどうか。約束を守り続けるまじめな人間であるかどうか。さらに冷静な目と耳でもって、情報を正しく判断し、活用する技術もいる。そのためには開かれていなければなりません。自分の中の偏見は、必ず敵対者を生んでしまうでしょう。
 他者をできるだけ信頼し、自他に対して正直であり、情報に敏感であって正確な判断ができること。それら3つの条件は、カウンセラーの必要な条件とも重なります。それは僕が、自ら必要として学んだところです。
 十分に読書し切れておらず、まとまりませんが、自らの体験学習も踏まえて、信頼についての理解を積むことはできたと思います。

山岸敏男著/東京大学出版会/1998

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