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『空が青いから白をえらんだのです』(新潮文庫)に次ぐ第二詩集。書いたのは、奈良少年刑務所の受刑者たち。
10人のグループで自作の詩を朗読することで、固く閉ざしていた心の扉がぱたぱたと開いていく。
詩の力ももちろんありますが、心を開いてもいい人たちによって育まれた場の力もある。
ほんの少しケアで、少年たちは驚くべき変化を見せる。生まれつきの凶悪犯罪者などいないと痛感させられる。
犯罪はすべて後天的。ある種の障害や病気のように先天的ではない。
だから改善の余地がある。刑務所の存在意義がある。
被害者からすれば、加害者に手厚い教育なんて不要だ、いつまでも懲らしめておけ、と言いたくもなる。
でも、一番の再犯防止は、その人がしあわせになること。
どうあがいても、もがいても、努力しても、しあわせになれなかった人たちが集められる場所が刑務所なのでした。
違法薬物に、嘘の充足を見出さざるを得なかった人たちもいます。
「ダメ。ゼッタイ」という標語があります。
でも、一度でも手を出してしまったら、どうなるのでしょう?
「俺ってもうダメ、ゼッタイ」と思い、思わされ、自暴自棄になる。再犯を繰り返す。
だから本当は、「きょう一日、がんばろう」。
この標語なら、みんなで共有できます。
一つだけ、詩を紹介します。
言葉
「いいんだよ」
「がんばったね」
「よくやった」
この言葉が ほしい
この言葉が ボクを幸せにする
「お前はアカン」
「でき悪い」
「お前はいらない」
この言葉は いらない
この言葉は ボクを不幸にする
嫌な言葉を言われると 自信をなくし
自分自身が嫌になる
好きな言葉を言われたくて 行動し
ボクは ボクを見失う
一つ一つの言葉が ボクを造る
一つ一つの言葉が ボクを壊す (46~47頁)
巻末に、編者で詩の教室を続けてきた寮美千子さんの解説と、見守り続けた二人の教官の「子どもを追い詰めない育て方」があります。
どの言葉も、私にはすとんすとんと落ちました。「虐待は高い理想から生まれる」という教官の言葉は忘れがたいものです。
寮さんは、詩の教室を開く12のポイントを挙げていますが、一番目は「互いに競いあったり、批判しあったりする場所ではないことを明確にする」です。
「安心、安全な『人・場所・時間』を確保する」の中身。
この第一条件すら、どうでしょう、貴重なものになってきているのではないでしょうか。
カウンセラー訓練の中で、必要最低限の条件として学んだのもこれ。
野外の猫たちと関わり続け、確認しようとしているのもこの技術なのかもしれません。
安心、安全な人、場所、時間は、もっと増やすことができる。
もっと増やすことができれば、「世界はもっと美しくなる」。
もっと美しくなる気づきが、大きな失敗をした少年たちの詩に詰まっている。
詩・受刑者/編・寮美千子/ロクリン社/2016
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