(第8章 占領)
40.連合国の統治
昭和20年9月2日降伏文書に調印した日本は、連合国軍に占拠され統治されることになった。
この連合国軍の最高指揮官に任命されたダグラス・マッカーサー元帥は、ハリー・S・トルーマン第33代米大統領から巨大な権限を与えられ、日本を統治していくのである。
<トルーマン米国第33代大統領>
40.7.日本の分割統治計画
昭和20年(1945年)8月16日、アメリカでは、日米開戦当初より日本占領計画を検討してきたJWPC(統合戦争計画委員会)が「日本および日本領土の最終的占領」と題する計画案を完成させた。
この計画案では、第二次世界大戦で日本と交戦したアメリカのほかイギリス、ソ連、中国の連合国が、日本を分割して管理するという案が示されていた。
具体的にはソ連が北海道・東北地方、アメリカが関東・信越・東海・北陸・近畿地方、中国が四国地方、イギリスが中国・九州地方をそれぞれ管理下に置き、さらに東京は上記の4ヵ国が、大阪地区はアメリカ・中国が共同統治するものとされた。
同じく8月16日には、ソ連首相のスターリンが、アメリカ大統領トルーマンに書簡を送り、日本の北海道の北半分の分割占領を要求する。
だが、トルーマンはこれに対し、「北海道、本州、四国、九州から成る日本列島の日本軍隊の降伏は、すべてマッカーサー将軍に対して行なうよう、私の意図ですでに手配が進められている」と返答し、スターリンの要求をはねのけた。
要求書簡を受け取ってから48時間後のことであった。
これにより、前記のJWPCの計画も意味を失い、トルーマンの手に渡るまでもなく、事実上、廃案となって消滅するのである。
但し、中国・四国は連合国軍最高司令官総司令部の下でイギリス連邦占領軍が1946年~1952年の間、統治している。
<イギリス連邦占領軍>
第二次世界大戦における日本の敗戦に伴い、日本を占領するために駐留したイギリス軍、オーストラリア軍、ニュージーランド軍、イギリス領インド軍から成るイギリス連邦の占領軍であり、終戦から約半年後の昭和21年(1946年)2月から日本進駐を開始した。
それまでは、中国地方および四国地方の占領任務は、米軍が昭和20年年9月より同地に進駐していた。
その後、昭和27年(1952年)に日本国との平和条約が締結されると日本の占領任務は終了し、イギリス連邦占領軍は昭和30年(1955年)に解散した。
40.8.「極東諮問委員会付託条項」(SWNCC 65/7) 1945年8月21日
極東諮問委員会(Far Eastern Advisory Commission)提案
昭和20年(1945年)8月21日、米国国務・陸・海軍三省調整委員会(SWNCC)は対日占機関として、「極東諮問委員会」の設置案(SWNCC65/7)を作成し、米政府案として、正式に英・ソ・中の各政府に送付した。
この案では、極東諮問委員会は、日本による降伏文書の履行に関する政策の立案に関して、関係諸政府に勧告を行う「諮問機関」であると規定されていた(軍事作戦の遂行や領土の調整にかかわる問題を除く)。
この本部はワシントンに置き、順次極東地域の連合国を委員会に追加でき、委員会の任務終了は、米・英・中・ソのうち一か国が希望したとき、とされた。
しかしこれに関して、米国主導であることや単なる諮問機関に過ぎないことに対する批判、また対日管理機構は東京に設置すべきだとの主張がみられた。
さらに、ソ連は極東諮問委員会への不参加を明確にし、予定されていた10月23日の発足会議は1週間延期された。
結局、この対日占領管理機構に関する問題は、12月のモスクワ外相会議に持ち越された。
極東委員会( Far Eastern Commission)の設置
昭和20年(1945年)12月27日のモスクワ外相会議の結果、日本占領管理機構としてワシントンに極東委員会が、東京には対日理事会が設置されることとなった。
極東委員会は日本占領管理に関する連合国の最高政策決定機関となり、GHQもその決定に従うことになった。
とくに憲法改正問題に関して米国政府は、極東委員会の合意なくしてGHQに対する指令を発することができなくなった。
40.9.連合国最高司令官の権限に関するマッカーサーへの通達
昭和20年(1945年)8月14日、マッカーサーは連合国最高司令官に任命された。
昭和20年9月2日戦艦ミズーリ号でマッカーサーは、ポツダム宣言で示された「降伏条件」を前提とする日本降伏文書に調印した。
しかし、マッカーサーは、自分の占領政策が降伏条件に縛られることを嫌い、自由裁量をトルーマン大統領に直訴した。
トルーマン大統領はこれに答え9月6日、連合国最高司令官の権限に関する指令(JCS1380/6 =SWNCC181/2)がトルーマン大統領から統合参謀本部を通じて送付された。
この指令は、日本占領に関するマッカーサーの権限は絶対的で広範なものであることを規定し、日本の管理は日本政府を通して行うという間接統治方式を示したが、必要があれば直接、実力の行使を含む措置を執り得るとした。
さらに、ポツダム宣言が双務的な拘束力をもたないとし、日本との関係は無条件降伏が基礎となっていると明記した。
すなわち、ポツダム宣言第6項以降に書かれている、ポツダム宣言受諾条件を反故しても構わない、としたのである。
この指令により、マッカーサーに日本占領に対する強力な権限が与えられた。
マッカーサーはこの指令が公表されることを望み、国務・陸・海軍三省調整委員会(SWNCC)はこれを承認したが、トルーマンの認可と公表前にその内容を英ソ中各国政府に知らせることをその条件とした。
掲出資料には、トルーマンが9月17日付けでこれを承認したサインが見られる。
DEPARTMENT OF STATE
WASHINGTON
September 13, 1945
TOP SECRET
MEMORANDUM FOR THE PRESIDENT
Subject: Authority of the Supreme Commander for the Allied Powers.
General MacArthur has sent the following message to the Joint Chiefs of Staff: "It would have a most beneficial and salutary effect if the instructions and powers of the Supreme Commander contained in your WX 60333 were published. Is there any objection?" A copy of the message in reference is attached hereto. The Joint Chiefs of Staff will transmit to General MacArthur a reply determined by the State-War-Navy Coordinating Committee.
The State-War-Navy Coordinating Committee on August 12 approved publication of the message in reference on the understanding (1) that Presidential approval of their decision be obtained by the Acting Secretary of State and (2) that the Governments of the U.S.S.R., the United Kingdom and China be informed of the contents of the message prior to its publication.
If you approve publication of the message, the Department of State will inform the respective Embassies and the Joint Chiefs of Staff will inform General MacArthur that there is no objection to publication.
Enclosure:
SWNCC 181/2
Appendix.
Dean Acheson
Acting Secretary
国務省
ワシントン
1945 年 9 月 13 日
極秘
大統領宛メモ
件名: 連合国最高司令官の権限
マッカーサー元帥は統合参謀本部に次のメッセージを送った。
「貴局の WX 60333 に記載されている最高司令官の指示と権限を公開すれば、非常に有益で有益な効果が得られるでしょう。異議はありませんか?」
関連するメッセージのコピーをここに添付します。
統合参謀本部は国務・陸軍・海軍調整委員会が決定した回答をマッカーサー元帥に送付します。
国務省、陸軍、海軍の調整委員会は、8月12日に、(1) 国務長官代行が大統領の承認を得ること、(2) ソ連、英国、中国の政府にメッセージの内容を事前に通知することを条件に、この件に関するメッセージの公表を承認しました。
メッセージの公表を承認された場合、国務省は各大使館に通知し、統合参謀本部はマッカーサー元帥に公表に異議がない旨を通知します。
同封物:
SWNCC 181/2
付録
ディーン・アチソン
事務次官代理
<appendix>
(Copy)
TOP SECRET
APPENDIX
Message Number 1
1. The authority of the Emperor and the Japanese Government to rule the state is subordinate to you as Supreme Commander for the Allied Powers. You will exercise your authority as you deem proper to carry out your mission. 0ur relations with Japan do not rest on a contractual basis, but on an unconditional surrender. Since your authority is supreme, you will not entertain any question on the part of the Japanese as to its scope.
2. Control of Japan shall be exercised through the Japanese Government to the extent that such an arrangement produces satisfactory results. This does not prejudice your right to act directly if required. You may enforce the orders issued by you by the employment of such measures as you deem necessary, including the use of force.
3. The statement of intentions contained in the Potsdam Declaration will be given full effect. It will not be given effect, however, because we consider ourselves bound in a contractual relationship with Japan as a result of that document. It will be respected and given effect because the Potsdam Declaration forms a part of our policy stated in good faith with relation to Japan and with relation to peace and security in the Far East.
1. 天皇及び日本政府の国家統治の権限は、連合国最高司令官としての貴官に従属する。
貴官は、貴官の使命を実行するため貴官が適当と認めるところに従つて貴官の権限を行使する。
われわれと日本との関係は、契約的基礎の上に立つているのではなく、無条件降伏を基礎とするものである。
貴官の権限は最高であるから、貴官は、その範囲に関しては日本側からのいかなる異論をも受け付けない。
2. 日本の管理は、日本政府を通じて行われるが、これは、このような措置が満足な成果を挙げる限度内においてである。
このことは、必要があれば直接に行動する貴官の権利を妨げるものではない。
貴官は、実力の行使を含む貴官が必要と認めるような措置を執ることによつて、貴官の発した命令を強制することができる。
3. ポツダム宣言に含まれている意向の声明は、完全に実行される。
しかし、それは、われわれがその文書の結果として日本との契約的関係に拘束されていると考えるからではない。
それは、ポツダム宣言が、日本に関して、又極東における平和及び安全に関して、誠意をもつて示されているわれわれの政策の一部をなすものであるから、尊重され且つ実行されるのである。
この指令は、9月6日付けの「連合国最高司令官の権限に関するマッカーサーへの通達」(JCS1380/6=SWNCC181/2)とともに、のちにマッカーサーが憲法改正問題を処理する権限を有するとの論拠とされた。
日本は条件付きで降伏したはずが、トルーマン大統領は「日本は無条件降伏だ」との主張を突然始めたのである。
日本軍は完全武装解除した後だから、もはや何も抵抗できなかった。
この米国側のだまし討ちを隠すために、GHQは「ポツダム宣言受諾=無条件降伏」という洗脳を始めたと思われる。
40.10.その他
40.10.1.SWNCC極東小委員会「日本の統治体制の改革」 1945年10月8日
1945(昭和20)年10月8日付けで国務・陸・海軍三省調整委員会(SWNCC)の下部組織である極東小委員会がまとめた資料。
これをもとに翌年1月7日付けの日本の憲法改正に関する米国政府の公式方針「日本の統治体制の改革」(SWNCC228)が作成される。
本文書は、日本に統治体制を変革する十分な機会を与えるべきだが、自主的に変革し得なかった場合には、最高司令官が日本側に憲法を改正するよう示唆すべきだとしている。
具体的には、日本国民が天皇制を維持すると決めた場合に天皇は一切の重要事項につき内閣の助言に基づいてのみ行うことや、日本国民及び日本の管轄権のもとにあるすべての人に基本的市民権を保障すること等の9項目の原則を盛り込んだ憲法の制定が必要であるとしている。
40.10.2.統合参謀本部「日本占領及び管理のための連合国最高司令官に対する降伏後における初期基本的指令」(JCS1380/15=SWNCC52/7) 1945年11月1日
1945(昭和20)年11月1日に国務・陸・海軍三省調整委員会(SWNCC)が承認し、3日に統合参謀本部が承認した日本占領に関するマッカーサーへの正式指令(JCS1380/15=SWNCC52/7)。
米国政府の対日政策である「降伏後における米国の初期対日方針」(SWNCC150/4)が基礎となり、公職追放や経済改革面が補充された。
この指令によって、統合参謀本部との事前協議が必要とされた天皇制の存廃問題を除き、マッカーサーは、占領目的を達成するために必要な一切の活動についての権限を与えられ、占領目的を確実に達成するために必要な場合に限って「最終手段」として直接的な行動をとり得るとされた。
だが同時に、極力日本政府の主導性を尊重すべきことも明記されていた。
<続く>