100円均一ショップ「ザ・ダイソー(以下、ダイソー)」を展開する同社の商品点数は、約5万点。毎月約300~500種類の新商品が出るという。圧倒的な品数をそろえているだけあって売れ筋も多岐にわたるが、最近ではユニークなイベントグッズのヒットが目立つ。昨年でいうと、ワールドカップの時期には水なしで落とせるフェイスペイント「ミラクルペイント」が、ハロウィンの時期にはリアルな血のりやつけ歯などの仮装グッズが飛ぶように売れたという。
こうしたイベントグッズの中でも、一部の層に熱く支持され大ヒットとなったアイテムが、「激しく光る棒」だ。名前も激しいが、売れ方も激しい。一度に何十本という大量購入も珍しくないシロモノなのだ。
商品名から察しがつくかもしれないが、これはコンサートやライブで観客が振るペンライトである。昔から使われている定番グッズだが、昨今のアイドルブームや声優のアイドル化などに伴いイベントが増える中、需要がアップ。今、アイドル系のイベントではマストアイテムとなっているそうだ。
「オタクの方々に人気を得ています。イベントに参加する前にダイソーで追加購入するというニーズが高い」と、同社広報室の日下寛子氏は話す。同商品は2013年11月から8色展開で販売を始めたが、まずはコンサート会場やイベント会場に近い店舗で先行販売をして動向を調査した。すると、開催当日に販売数が伸びる傾向がみられたという。
断トツで売り上げているのは、やはりイベント数の多いエリアに立地する秋葉原店。都内にある店舗の中でも売り場面積の狭い同店だが、自動ドアの入口すぐ右側に同商品全色と関連商品がズラッと並んでおり、その需要の高さがうかがえる。
「ひとりで30本くらい買っていかれるお客様もいらっしゃいますよ」(同店のスタッフさん)。
筆者は、CoCoや永作博美がいたribbonなど1990年代前半アイドルには少々詳しいが、AKB48は初代の中心メンバーしかわからない。中高生の頃は中野の「まんだらけ」に通うくらい漫画が好きだったが、「アイドルマスター」や「ラブライブ!」など最近の人気アニメ事情は、育児に追われノーチェックだ。つまり、この手の世界は、本来、割と好きなのだが、今やすっかり時代遅れのおばさんである。
なぜにそんなオトナ買いを!?
そもそもなんで激しく光る必要が!?
脳内に飛び交ったおばさんの疑問は、取材を進めるうちに明らかになっていった。
まず、一般に売られているペンライトには、主に2種類ある。ひとつは、電池式で価格は安くて500円くらいのもの。色や明るさが切り替えられるものは、2000~3000円が相場のようだ。もうひとつは、夜釣りや防災グッズとしても使われるケミカルライトやサイリウムと呼ばれる商品。折ると2種類の液体が混ざり、その化学反応で発光するタイプのものだ。価格相場は100~200円といったところか。「激しく光る棒」は、後者だ。従来品(「太い光る棒」や「極太光る棒」)より強く発光するのが特徴である。
ライブでペンライトを使う動機は、応援したいという気持ちのほか、目立ちたい、テンションを上げたいというニーズもあり、高輝度の商品が求められる傾向にある。同商品も、オタ芸(ペンライトを使った、アイドルを応援するためのパフォーマンス)を見たバイヤーが、「従来品では照度が足りない」というネット上の口コミをキャッチしたことから、メーカーとの開発がスタートしたという。
発光時間の長さに比例して価格も上がるため、持久力のある商品は照度を抑えたものが多い。そんな中、同商品は、発光時間が短いものの(オレンジが10分、そのほかは20分)、「100円で輝度の高さを楽しめる」と、コスパのよさで支持を集めている。ちなみに、断トツ人気はやはり輝度の高いオレンジだそう。
飛行機への持ち込みも可能なので、遠方で開催されるコンサートにも持っていける。通販などでまとめ買いをすれば100円を切る商品もあるが、ダイソーは国内2800店舗を展開しているので(2014年3月時点)、在庫さえあれば気軽に買いに行くことができる点もよいのだろう。
また、同社は、「急造クリスマスアカ(激しく光る棒 シロ)」というツイッターアカウント(現在はつぶやき終了)を開設し、「この店舗でも販売してほしい」という消費者の声に対応しながら、販売店舗を拡大していった(最終的に全店に導入)。
さらに公式HPでは同商品の特設ページを作り、消費者が同商品を使ったオタ芸動画も掲載(下記の動画は、消費者グッチーさんによるもの)。ネットを駆使して消費者を巻き込んでいく販促も、人気に拍車がかかった要因のひとつといえる。
2014年3月には3色に加え、消費者から要望の多かったさらに明るい「激しく光る棒MAX」(オレンジ、発光時間は5分)も追加販売。発売初日に在庫がなくなる店舗も出るなど、さらにブレークした。同年6月に発売した「激しく光る長い棒」(オレンジ、15インチ、250円)も、消費者の声に応えて開発した商品だ。
ライブでは、各アイドルや曲によってテーマカラーが決まっている場合も多く、そのカラーに合わせてペンライトの色を変えるのが通例。発光時間が短いものは、途中で新たなライトを投入する「追い炊き」が必要となる場合もある。これらの理由から、ケミカルライトはまとめ買い需要が高く、同商品も大量購入がたびたび発生するようだ。
と、売れている謎が解けたので試してみよう。表袋、中袋と開けると商品が出てくる。「バルログ」(複数のライトを持つ行為)がしやすいというネット上の口コミを見たが、持ってみて納得。「トリガーグリップ」という丸い持ち手があるので持ちやすいのだ。
折った瞬間、ふわっと中の液体が混ざって発光するさまにはちょっと感動。2歳の息子も「キレイ~楽しいね~」とニッコリ。横取りしてぶんぶん振り回し始めたので慌てて取り返した(対象年齢は7歳以上です)が、筆者も非日常感にスイッチが入り、テンションが上がってしまった。MAX、オレンジ、バイオレットを試したが、確かに盛り上がるなら暖色系か。でも、寒色系の美しさも捨てがたい。
MAXはとにかく折った直後が非常に明るい。各色とも徐々に照度は落ちていくが、表示時間プラス5分くらいはもったように思う。音がない環境で試したが、無性にライブに行きたくなってしまった。ライブで振ったらもっと楽しいに違いない。
ところが、昨今、安全面を考慮してケミカルライトの使用を禁止するイベントが増えている。主催者が公式グッズを売りたいがための規制だという見方も一部にはあるが、確かに扱いには注意が必要だ。実際、2014年11月、HKT48のライブでケミカルライトが破裂して液体が飛び散るという出来事があった。今年2月以降、AKB48グループのイベントではケミカルライトの使用が禁じられている。規制の影響もあってか、最近は電池式のペンライトの使用が主流になりつつあるという。
だが、ペンライトの専門店「でらなんなん秋葉原店」のスタッフさんはこう話す。「電池タイプを持っていても、お気に入りの人のテーマカラーのケミカルライトを追加購入するお客様は多い。振りたくてライブに行かれる方も。やはり折って光らせるとテンションが高まるようです」。依然としてライブの必需品として一定の需要があるようだ。
ダイソーも、規制の影響は、「今のところはない」(日下氏)と言う。夏祭りの景品や文化祭の備品としてのまとめ買い需要もあるそうだ。仮に今後、需要に変化があっても、ダイソーなら新たなニーズに応えた新商品を売り出してくれるのではないだろうか。そんな期待をしてしまうから、人々は今日もダイソーに足を運んでしまうのかもしれない。
☆やすくて、いいものは売れますよね。つかいすてにできるから、いいかもね。