シニシズムを気取って、とくに感慨はない、などと嘯いた。
けど、ここ数日、ある瞬間瞬間に、
サリンジャーの幻影みたいなものが僕の脳裏に明滅している。
僕がサリンジャーの存在を知ったのは、高校生のころだった。
まだ青くて、なぜか切なくて、どうしようもなく気まぐれで、少し背伸びをしてて、中途半端に反社会的で、
その実、何一つ自己完結できていなかった。
PROMISED LAND ~ 約束の地 浜田 省吾 価格:¥ 3,059(税込) 発売日:1999-09-08 |
そんなハンパな高校生が、1枚の LP レコードを手に入れた。
浜田省吾の『 PROMISED LAND ~ 約束の地 』というアルバムだった。
このアルバムのエンディングに、「僕と彼女と週末に」という楽曲がセットされている。
この曲の間奏で、浜省が以下の文章を朗読している。
週末に 僕は彼女とドライブに出かけた
遠く街を逃れて 浜辺に寝転んで
彼女の作ったサンドイッチを食べ ビールを飲み
水平線や夜空を眺めて 僕らはいろんな話をした
彼女は 彼女の勤めてる会社の嫌な上役のことや
先週読んだサリンジャーの短編小説のことを話し
僕は 今度買おうと思ってる新車のことや
二人の将来のことを話した
そして誰もいない静かな海を二人で泳いだ
あくる日 僕は吐き気がして目が覚めた
彼女も気分が悪いと言い始めた
それで僕らは朝食を取らず 浜辺を歩くことにした
そして そこでとても奇妙な情景に出会った
数え切れないほどの魚が 波打ち際に打ち上げられていたのだ
『 Promised Land 』は、浜省が自らピークのひとつと認めているアルバムで、
影のあるプロテストソングとゴキゲンなアメリカン・ポップロック、切ないラヴバラードが
絶妙のバランスで散りばめられている。
当時 ティーンの僕にとっては、臓腑を鷲づかみされる思いがした。
ともかく、浜省のこの朗読でサリンジャーを知り、
野崎孝氏訳の『ライ麦畑でつかまえて』を夢中になって、何度も読んだ。
『 Promised Land 』も、『ライ麦畑でつかまえて』も、
当時の僕にとっては精神の許容範囲を超えていて、青白い炎のみを Soul に残しただけだったけど、
その炎は、か細いながら、今でも僕の中で燃え続けているような気がする。