そこやかしこに桐が植えられていた。
街路樹のほとんどは桐だった。
もっとも街の景観を意識した街路樹という概念ではなく、
道ばたに植えた方が伐採やその後の輸送が簡単だという配慮だろう。
最近では、河南省近辺で桐を見かけることはほとんどない。
桐に代わってポプラが植えられている。
要は、ポプラの方がカネになるということだろう。
かつて日本の桐材輸入業者は、誰もが口々にこう言っていた。
「10年後、中国から桐材は無くなる」
それから20年が経ち、彼らは未だに言っている。
「10年しないうちに、中国から桐材は無くなる」
僕は、生来のオポチュニストということもあってか、その説をとらない。
彼らは、まだ幻想をみてるんだろう。
バブル期に、40フィートコンテナでピン板を 1000m3 以上、
毎週のように輸入していた過去の夢を。
その意味では、もう中国には桐材は無い。
けれど、今は日本国内の桐材消費量は往時の10分の1以下だろうし、
僕ら箱屋が使う量なんて高が知れている。
こっちがキャッシュで買う以上、必ずピン板を作製する業者は存在し続ける。
今回、河南省商丘で高速を降り、一般道で安徽省亳州へ向かった。
あいかわらず街路樹はポプラばかりだったけど、
亳州に近づくにつれ、ポプラに交じって
桐もチラホラ目につくようになっていった。
ちょうど開花時期だったから紫色の花が美しく、ひと目でそれと判別できた。
日本の桐の花はもう少し藤色がかって鮮やかな気もするけど、
あっちは埃っぽいからくすんで見えたのかもしれない。
先ほど桐材輸入業者から電話があり、
僕の訪中の成果と感想を訊ねられた。
僕は包み隠さず、虚心坦懐に情報を提供した。
彼も今月末、訪中するらしい。
狭い桐業界、材料屋も箱屋も一蓮托生だ。
悲観論はもういい。
桐がポプラに取って代わるその日はもうこないかもしれないが、
それでも前を向いて歩いていきたい。
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