京都で開催された第11回日本禁煙学会学術総会に参加するため
1日早く出発し、11月3日(金)にかねてからの念願であった
兵庫県小野市の浄土寺を訪れることができました。
浄土寺は、山号を極楽山と称し
重源(1121-1206)が東大寺再興の際に拠点とした七別所の一つで「播磨別所」と呼ばれ
その所在地は当時の地名にして播磨国大部荘(おおべのしょう)といい、東大寺領でした。
開山は重源で、創建当時の姿を残す浄土堂(阿弥陀堂)には
快慶作の阿弥陀三尊像が安置されています。
重源や快慶が活躍した時代は、政の実権が貴族から武士へと移行する大転換期で
私が歴史に興味を持ち、日本史を専攻するきっかけとなった時代でした。
神戸電鉄小野駅かららんらんバスに乗車し、浄土寺バス停で降りると
道路を挟んだ向かい側が広い駐車場になっていて、浄土堂の瓦屋根が見えます。
道路を渡って駐車場に入ると、参道入り口には巨大な看板があって
その反対側(写真の自動販売機のある場所)に公衆トイレがありました。
トイレに寄ろうと近づいたところ、トイレの入り口前に丸椅子が並べられ
上部が取り除かれている1斗缶が置かれていました。
壁には"Smoking Area”を表す紙が貼られています。
この時利用者は誰もいませんでしたが、ここは座ってタバコが吸える場所とされているようです。
もし、ここで1人でもタバコを吸っている人がいたら
私は前を通ってトイレに行くことができません。
トイレだけでなく、自動販売機で飲み物を買うこともできないでしょう。
しかも棟を同じくする場所には、ベンチが置かれて休憩所としても提供されているようです。
上の写真右手にはレストランが併設されていて、出入口の扉は喫煙所を向いています。
軒下のスペースでタバコを吸う人がいたら、ベンチが置かれている場所はもちろん
風向きによってはレストランにも臭いが流れていくことでしょう。
東大寺復興に深く関わる歴史遺産を有する小野市を訪れ
念願かなって浄土寺に来てみたら、すぐに受動喫煙に遭ってしまったというのでは
あまりに残念であると感じました。
(追記)地図を作ってみました。赤丸が灰皿の置かれていた場所です。
この喫煙所の管理者がわからなかったので、11月13日に、小野市に対し
担当部署と健康課で協議のうえ回答をもらえるよう、以下の概略で要望書を郵送しました。
(要望書)
11月3日に、念願の浄土寺参拝が叶いました。
風光明媚で自然環境豊かな土地に恵まれた小野市は
800年以上の年月を経て現在に伝わる重源上人と仏師快慶の遺跡として知られる
浄土寺という財産を有しています。
自然環境とともに貴重な文化財を守られてきた市と市民の皆さんにお礼を申し上げます。
ただ、浄土寺前公衆トイレの入り口に灰皿が置かれ
壁に沿って椅子まで用意された喫煙所があり、大変残念に思いました。
その場所で喫煙された場合、公衆トイレの利用時はもちろん
屋根つきの休憩スペースに用意されているベンチ利用時に受動喫煙に曝されるばかりか
風向きによっては併設されているレストランへタバコの煙や臭いが侵入すると考えられます。
トイレや休憩スペース・レストランは子供や妊婦、疾病を抱えた方
私のような受動喫煙症患者(別紙)も利用します。
すべての人の健康と命を受動喫煙の被害から守り、貴重な文化財を火災から守るために
灰皿の撤去と禁煙区域の指定を要望します。
1、健康増進法第25条を実行し、貴市は、灰皿が置かれている場所の所有者・管理者等に対し
受動喫煙の害を周知し、指導を行って灰皿を撤去してください。
今日、受動喫煙による健康被害は医学的・科学的にも立証されており
屋外であっても安全な閾値はありません。
2、貴市が定めている小野市火災予防条例第23条(3)を鑑み
火災予防の観点から浄土寺周辺に火気を近づけるべきではありません。
浄土寺に伝わる貴重な文化財を後世に残せるよう、浄土寺境内だけでなく
駐車場等を含めた付近一帯を禁煙区域として指定し、喫煙を禁止してください。
3、喫煙によって発生するタバコ煙・タバコ臭は、小野市環境基本条例第2条(3)に該当し
公害と定義されると考えられます。
貴市は、同条例第9条ならびに11条を実行し
公害を発生させる行為が行われている灰皿を撤去してください。
以上
回答期日は11月末日としましたが、遅れること5日
12月5日付で小野市から回答があり、本日手元に届きましたので、概略をご紹介します。
(回答)
このたびは、遠方から浄土寺にお越しいただき、誠にありがとうございます。
ご指摘の灰皿設置の場所ですが、兵庫県条例(受動喫煙の防止等に関する条例)の対象外となる
空間であったため、これまでは灰皿を設置しておりました。
しかしながら、施設の出入口付近における喫煙場所については
建物内への煙の流入、また、出入口を通行する者の受動喫煙が起こりうるため
喫煙場所を施設の出入口から極力離す必要があると考えます。
したがいまして、このたび、ご指摘のとおり当該場所に設置している灰皿を
撤去することといたしましたので、ご報告させていただきます。
回答文は、地域振興部観光交流推進課と市民福祉部健康課の連名によるもので
市長印が押印され、市長の礼状も添えられていました。
皆が利用する場所であることを考えれば、たとえそれが屋外に近い場所であっても
その一角に灰皿を置き、椅子を並べて喫煙所にするだけの理由がありません。
灰皿が撤去されれば、誰もが安心して休憩スペースで休むことができ
レストランでもタバコの煙や臭いの侵入を気にせずに食事ができるようになります。
浄土寺の魅力は、やはりなんといっても西日が射し込む浄土堂に身を置くと
この世にありながら阿弥陀様のご来迎を拝するかのような空間を体験できることです。
皆さん、800年前に造られたこの世の極楽浄土、浄土寺をぜひお訪ねください。
ただ、残念なことに、回答書には2の要望に対する回答がなく
不備があると考えますので、再度小野市に問い合わせを行う予定です。
その回答は、後日改めて掲載します。
一人一人が自分の出来る範囲で行動を起こすことによって、少しずつ変化が起きるのだと思います。
吉本さんもそのお一人ですよね。
浄土寺前公衆トイレ入り口の灰皿撤去も、これまでに同意見が小野市に寄せられていて、たまたま私の要望が駄目押しになっただけかもしれません。
また、2020年に向けて、各地で受動喫煙対策の意識が高まっている好機でもあるので、積極的に要望をした方が効果があると感じています。
タバコ問題は、自覚の有無や喫煙する・しないにかかわらず、タバコによって収益を得ている会社以外、誰もが被害者です。
私の場合、タバコによって自分が健康被害を受けただけでなく、家族のコミュニケーションを破壊され、父の命を奪われました。
祖母の脳卒中も、兄弟の胎内死も、父の喫煙の影響が強く働いたことは否めません。
タバコが引き起こす苦しみや悲しみを多く経験し、見てきた私にとって、同じように悲しみ、苦しむ人をもうこれ以上出したくないという気持ちしかありません。
言葉で表現するなら小野市に投稿して動かしたということですが、禁煙に関する研究や見識の高さ、ご自身の経験からくる説得力があるのだと思います。
なんとかしてこのような良い活動を、拡散したいですね。
ご質問にあるように、浄土寺公衆トイレ入り口前の灰皿は完全撤去であり、移動ではありません。
また、記事に新しく挿入した地図をご覧いただくと把握しやすいと思いますが、浄土寺境内は禁煙であり、駐車場を含んだ一帯においては、当案件で問題とした灰皿しか置かれていません。
公衆トイレ入り口前の灰皿を撤去すれば、喫煙所を新設しない限り、現時点では喫煙できる施設はなくなったわけです。
ただ、灰皿を撤去したことで、境内から出ればどこでも吸えると勘違いされる可能性を考え、要望書にある2の要望をしました。
受動喫煙被害の拡大防止と出火による文化財保護の観点から、駐車場を含んだ一帯も含めて、きちんと禁煙区域として指定することで、どこでも吸えると勘違いされることはなくなるでしょう。