◆第37回「グローバル化のメリットとは?」
欧米での国際経営学のクラスで、まず一番目に学習するのが、
「なぜ、企業はグローバル化が必要なのか」、
「グローバル化してどんな得があるのか」
である。
最初に、グローバル化のメリットを見定め、
つぎに、グローバル展開できないのはなぜか、
そして、グローバル展開でのデメリット(リスク)を概観する。
1. なぜ、グローバル展開をするのか。その動機とメリットとは?
さて、企業がグローバル展開するのは、どういう理由か。これについては、次のような動機が知られている。
・いい製品や低価格で提供するグローバル企業が、日本の市場にアタックをかける。この競合会社に対して、かれらの母国で反撃したい。
・国内マーケットよりも、海外のマーケットの方が、より大きな利益が見込めることを発見する。
・規模の経済(大量生産によるコスト削減)を実現するため、より大きな顧客層のあるところへ向かいたい。
・特定のマーケット(たとえば、日本だけ)への依存率を低めたい。
・現在の顧客が海外へ行き、海外でのサービスを求めている。
・中国やASEAN諸国に対しては、グループの親会社の進出に伴い、必然的にメンバー企業が随伴するというケースは、日本企業の場合、顕著である。
・安い人件費を利用して製造コストの低減を図り、国際競争力を維持する。更に、ASEAN諸国を世界市場への輸出戦略的基地とするために海外展開する、
などである。
一般的には、企業が本格的にグローバル展開するときのメリットは以下の4つである。
☆本格的グローバル展開のメリットの
1つ目は、
・潜在的なマーケットサイズを拡大させることにより、規模の経済が達成でき、結果、コストの削減が実現する。
2つ目として、
運営コスト、R&D(研究開発)コストの削減が実現できる。これについては、たとえば、マクドナルドの場合、その海外展開によって、店舗数が増大し、設備・備品などの供給側の交渉力が増大する。つまり、コストを抑えて設備・備品などが調達できるということ。
3つ目が、
海外展開によって、自社製品のライフサイクル(導入期、成長期、成熟期、衰退期)を拡大させることができる。これは、自国のマーケットが飽和状態になったとしても、経済成長の段階が違う他国で、まだまだ自社製品の需要が見込めると判断するものだ。コカコーラ、ペプシなどの飲料だけでなく、デルやHPなどのパソコン産業は、そのために積極的に海外に進出している。
4つ目は、
バリューチェーンでの全活動のための物理的なロケーションを最適化する動きだ。バリューチェーンでの全活動とは、主要活動(内向けのロジスティックス、オペレーション、外向けのロジスティックス、マーケティング&販売およびサービス活動)と支援活動(調達、技術開発、人的資源開発および企業インフラストラクチャー)の活動を最適化しようというものだ。業績向上、コスト削減、リスク低減などを目的とする。
もちろん海外ビジネスには、光の部分であるメリットだけでなく、影の部分のリスクがつきまとう。このことは、3で扱う。
2.グローバル展開への心理的バイアスを取り除く
グローバル展開をしたいのにできない。なぜ、踏み切れないのか。先ず、その心理的なバイアス(心の傾向)を覗いてみよう。
海外の商習慣が分からない。
海外のビジネスマンの考え方が理解できない。
そもそも、海外の顧客嗜好・動向が分からない。
語学、特に、英語圏でのビジネスには英語が理解できなければ、商売にならない。
日本のマーケットだけで満足している。いまさら、別のリスクを負うことはない。
一方、世界はフラット化している。グローバルな消費者の嗜好は、一定の範囲で近づいている。
小売業を見ると、ソフトドリンク、SUSHI、ファーストフードは世界のどこにでもある。
世界の都市に、マクドナルドあり、コンビニエンス・ストアありである。
製品レベルでも、Gucciの財布、Chanelのスーツ、時計、ハンドバッグなどのブランド製品は世界をマーケットにしており、パソコン、家電のみならず、携帯、デジタルカメラ、iPod/iPadも、世界の人々に愛されている。
IT・情報化関連のビジネスも、Google、amazon.com を筆頭に、eビジネスはボーダレスの展開だ。
特に、サービス産業では、優劣が顕著である。
例えば、旅行関連、格安航空券の予約ビジネスでは、インターネットのオンライン予約が一般的になり、グローバルな対応に遅れを取る国、会社は、国際競争力を失っていく。この分野では、日本の出遅れが目立つ。
3.もちろん、グローバル展開のリスクも承知しなきゃならない。
最後にリスクについても、しっかりおさえておこう。
リスクの1つは、
・政治的・経済的リスクである。世界の国々では、日本のように、平和で安定した国ばかりであるとは限らない。世界銀行、BERI (Business Environment Risk Intelligence)などでは、カントリーリスクのランキングを見ることができる。
リスクの2つ目は、
・通貨のリスクである。
企業は、絶えず自国通貨とホスト国の通貨レートをモニターしておかねばならない。海外でビジネスをする際、わずかな為替レートの変化が、生産コストや純益に重要な影響をもたらすからである。これが、通貨リスクである。
リスクの3つ目は、
・マネジメント(経営)リスクである。
海外マーケットで経営者が遭遇する、経営上の課題とリスクのことである。つまり、文化、習慣、言語、顧客の好み、物流システムなど、ビジネスの前提が、日本国内と違ったことが海外では多い。
※写真は、Dess et al(2006), Strategic Management: creating competitive advantagesの表紙と世界地図を逆さにしたもの。
【参考文献】
グローバル展開の理由、メリットとリスク:
グローバル展開についての理由づけは、戦略マネジメント関連の書物に共通して書かれている。戦略マネジメントのテキストは、自社の競争優位や価値をいかに創っていくかがメインテーマで、企業戦略からスタートし、事業戦略の外部分析から内部分析へと進み、グローバル/国際戦略、組織論、リーダーシップ論、イノベーション論へと展開する。
☆Dess, G.G., Lumpkin, G.T. and Eisner, A.B. (2006), Strategic Management: creating competitive advantages, 3rd Version, McGrow-Hill/Irwin
☆Pitts, R.A. and Lei, D. (2006), Strategic Management: buiding and sustaining competitive advantage, 4th Edition, South-Western Pub. Co.
☆Begley, T.M. and Boyd, D.P. (2003), The Need for a Corporate Global Mind-Set, MIT Sloan Management Review, Winter, pp.25-32
☆Yip, G. (1992), Total Global Strategy: Managing for Worldwide Competitive Advantage, pp. 1-29, Prentice Hall
☆Yip, G.S. (1989), Global Strategy: In a World of Nations?, Sloan Management Review, Fall, 31(1), pp.29-40
☆Kim, W.C. and Mauborgne, R.A. (1993), Making Global Strategies Work, Sloan Management Review, Spring, pp.11-27
◎BERI (Business Environment Risk Intelligence):
http://www.beri.com/
◎Getting Started with Country Risk Analysis 4: The World Bank Database (14/06/2015 by Leonhardt van Efferink)