競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

よっ、横綱!15

2017年03月11日 | よっ、横綱!
 大関銀奨関と平幕市松関が土俵に上がりました。今度はすべての観客が銀奨関を応援しています。当然です。市松関は稀代のヒール力士なんだから。
 テレビモニターを見ている富士ケ峰関がぽつりと言いました。
「銀奨はスイッチを入れ直すことができるかどうかだな?」
 そうです。銀奨関は13日目この横綱富士ケ峰関に負けてから3連敗。完全に気分が萎えてます。そこからスイッチを入れ直すとなると、かなりの気合が必要になると思います。
 でも、銀奨関には横綱という目標があります。今場所横綱昇進は見送られましたが、なんとしてもここで優勝して、次の場所の足固めにしないといけません。
 この2人の本割での取組ですが、立会市松関が右肘でかち上げにきたところを銀奨関が左手でその肘を真横にはたき、そのまま寄り切って銀奨関が完勝してました。
 土俵上、市松関は蹲踞のあと、いつもの通り銀奨関を睨みつけます。それに対して銀奨関は、さっと眼を切ってしまいました。
 いよいよ時間となりました。両者見合って、手をついて、発気揚々! 残った!
 市松関はかち上げの体勢。それに対し銀奨関は、やっぱり左手でそれを振り払う体勢です。けど、市松関のそれはフェイントでした。動き出した銀奨関の左手は止まることなく、空振り。これによって銀奨関の身体はがら空きになってしまいました。これでは勝負になりません。勝負はまたもやあっけなく決まってしまいました。
 いつもの銀奨関だったら、あの程度のフェイントなら十分対応できたはずです。やはり銀奨関のスイッチは入ってなかったようです。銀奨関勝利を期待してた場内は、一斉にため息となりました。

 優勝決定戦のトーナメント戦は、いよいよ決勝戦となりました。市松関対富士泉関戦、どっちが勝っても平幕優勝で初優勝です。とくに富士泉関は、今場所新入幕に近い帰り入幕です。これで優勝したら、かなりの珍事になります。でも、観客の全員が富士泉関を応援してます。
 今場所この2人の本割での対決ですが、市松関がかち上げにきたところを富士泉関が両手で受け止めました。が、両手ともはじき飛ばされてしまい、市松関に軍配が挙がってます。
 市松関との対戦は、かち上げをどう封じるかが鍵になります。富士泉関は両肘を腋につけ、両手で顔面をガードするというボクサースタイルを考えました。でもこれだと、廻しががら空きになってしまいます。市松関がかち上げの次に廻しを狙ってきたら、楽々取られてしまいます。さあ、どうする、富士泉関?
 富士泉関は塩を取って土俵に戻ろうとしたとき、ふと眼が電光掲示板に釘付けになりました。正確にはある力士の名前に釘付けになったのです。その名は明日川関。明日川関は昨日横綱富士ケ峰関の蹴手繰りに負けてます。もしや富士泉関は、市松関に蹴手繰りを仕掛ける気? 今日、本割で赤富士関が市松関に蹴手繰りを仕掛けていたから、今日はもうその手には引っかからないと思うけど・・・
 いや、これはもしかして・・・
 ここで医務室のベッドに腰かけている富士ケ峰関がぽつりと言いました。
「頑張れ、いずみ。お前にはわしがついてるぞ。いや、わしだけじゃないぞ。朝桜も誉もお前を応援してるぞ。だから勝てよ」
 そうです。富士ケ峰関は3日ばかしそうじゃなかった日もありましたが、それ以外の朝桜関、誉関、銀奨関、明日川関、佐々丸関、そして富士泉関も、みんな毎日毎日一生懸命相撲道に励んでました。もちろん市丸関も頑張ってると思います。それは認めないといけません。でも、市丸関の相撲は相手力士を平気で傷つけてます。それは観客から見たらとっても不愉快なのです。
 相撲ファンは爽快でフェアな相撲を見たいのです。土俵に上がる力士たちも、納得のいく相撲を取りたいはずです。市松関の相撲は、それとは真逆の相撲なのです!
 市松関は土俵上でよく対戦相手を睨みつけます。ほとんどの力士はそれを無視しますが、たまーに睨み返す力士がいます。今日の富士泉関も無視してましたが、ついに我慢ならずに睨み返してしまいました。5秒、10秒、15秒・・・ 2人の睨み合いに、観客もヒートアップです。
 富士泉関が塩を取りに行ったら、汗拭きタオルを渡されました。これは制限時間いっぱいを伝える合図です。
「よーし!」
 富士泉関はそう吼えると、土俵に向かいました。

 2人が同時に蹲踞の姿勢に入りました。腰を割るタイミングも同時。けど、先に土俵に片手を付けたのは市丸関でした。一方富士泉関はなかなか手をつけません。明日川関みたいにじらしてるのです。市丸関は焦ってきたのか、つっかけるように前のめりになりますが、富士泉関はそれでも動じません。
「手をついて! 手をついて!」
 行司も焦り始めました。と、富士泉関はついに動きました。両手を同時に土俵に付けたのです。立会です!
 市松関はやっぱりかち上げをやってきました。その瞬間その肘に富士泉関の額が激突。ぶちかましです。富士泉関は明日川関戦で見せたぶちかましをやったのです。
 市松関の右腕は胸に押し付けられ、さらに鋼鉄のような富士泉関の額が胸に飛び込んできました。
「うぐぁーっ!」
 市松関は悲鳴をあげ、後方に吹っ飛びました。そして土俵の角に尻もち。そのまま土俵の下に落ちていってしまいました。富士泉関の勝利、富士泉関の優勝です! 限りなく新入幕に近い帰り入幕の富士泉関が優勝してしまったのです。場内は興奮のるつぼになりました。
 土俵の下では市松関が左手で右肘を押さえてうなってます。どうやら右肘を骨折したようです。実は市松関は今場所明日川関と対戦していて、明日川関のぶちかましにかち上げで対抗して、失神させてました。それに対して富士泉関は、1歩踏み出してからのぶちかましです。これにかち上げをやったら、当然大けがになりますよ。

 富士泉関は勝ち名乗りを受けると、支度部屋に引き返し始めました。途中からたくさんの記者がアリのように集まって富士泉関にフラッシュを浴びせます。その中を正々堂々前進して行きます。
 富士泉関が支度部屋に戻ってきました。と、そこには横綱富士ケ峰関が待ってました。2人は握手・・・、と思いきや、なんと抱き合いました。ハグです。2人は身体を離し、
「いずみ、優勝おめでとう!」
「あ、ありがとうございます。ところで、横綱、病院に行かなくていいんですか?」
「あはは、お前の祝勝会をしなくちゃいけないのに、病院なんか行ってられるかよ」
 これはジョークなのかな? 富士泉関はちょっと笑い、そしてこんなことを言いました。
「自分、今の取組で親方にしかられることをしちゃいました」
「ん、何をやったんだ?」
「市松関をじらすために、わざと立会立たなかったんですよ。親方はいつも相手と呼吸を合わせろと言ってるじゃないですか」
「あは、それか。その程度の駆け引きで怒るようだったら、わしも考えがあるよ」
「え、何をするんですか?」
「わしが葵部屋をやめる」
「あは、それはだめですよ」
 2人は思いっきり笑いました。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿