古今東西 珠玉の言の葉めぐり

これまで心に響いた珠玉の言葉を写真とともに掲載します

2009年 10月号

2009-10-07 | 言の葉

薬師寺夕景(昭和58年撮影)                                          阿倍仲麻呂(698-770)奈良時代の文人、遣唐使





江戸時代、十返舎一九(1765-1831)が著した「東海道中膝栗毛」では、弥次郎兵衛・北八の二人が膝栗毛でもって東海道を旅しています。
その東海道と ほぼ平行している東名高速を、我が家の愛車 日産ウイングロード1500cc で走行しながら、ヒユゥーンと後ろに飛びさる道路標識に、
弥次さん北八さんの川渡り、海渡りの情景を思いました。




 安倍川

此のうち安倍川の川ごし 道に出むかひて「だんな衆おのぼりかな」
弥次  「ヲイきさまなんだ」
川ごし 「川ごしでござります。安くやらずに、おたのん申ます」
北八  「いくらだ」
川ごし 「きんにようの雨で水が高いから、ひとりまへ六十四文」
北八  「そいつは高い」
川ごし 「ハレ川をマアお見なさい」ト打つれて川ばたに出
弥次  「なるほど、ごうせいな水せいだ。コレおとすめへよ」
川ごし 「ナニおまい、サアそつちょヲつんむきなさろ」
ト二人をかたぐるまにのせて川へざぶざぶとはいる。
北八  「アヽなんまいだなんまいだ。目がまはるよふだ」
川ごし 「しつかりわしが頭へとつつきなさろ。アヽコレ、
     そんなにわしが目をふさがつしゃるな。向ふが見へない」
弥次  「なるほど深いは。コレおとして下さるな」
川ごし 「アニおとすもんかへ」
弥次  「それでもひょっと、おとしたらどふする」
川ごし 「ハレおとした所が、たかでおまいは、流れてしまうぶんのことだ」
弥次  「エエ流れてたまるものか。イヤもうきたぞ。ヤレヤレ御くらう」
トかたぐるまよりおりて賃銭をやり
弥次  「ソレべつに酒手が十六文ヅヽ」
川ごし 「ヘイコレハ御きげんよふ」
ト川ごしはすぐに川上の浅いほうを渡ってかへる
北八  「アレ弥次さん見ねへ。
     おいらをば深い所を渡して、六十四文ヅヽふんだくりやアがった」

   川ごしの肩車にてわれわれを 深いところへひきまはしたり






 大井川

岡部のしゆくのやど引まちうけて「お泊まりでございますか」
弥次  「イヤわつちら けふ、川をこさにやアならねへ」
やど引 「大井川はとまりました」
北八  「なむさん。川がつかへやしたか」
やど引 「さやうでございます。さきへお出になさっても、お大名が五ツかしら、嶋田と藤枝に、
     お泊まりでございますから、あなた方のおやどはござりませぬ。まづ岡部へお泊まりなさいませ」
弥次  「そんなら、そふしよふか」
北八  「おめへなにやだ」
やど引 「相良屋と申ます。すぐにお供いたしませう」
ト打ちつれていそぎゆくほどに、はやくも大寺かわらのさか道うちこへて、岡部のしゅくにいたりければ、

  豆腐なるおかべの宿につきてげりあしに出来たる豆をつぶして

先この駅にやどをとりて、川のあくまでしばらく旅の疲れをぞやすめける






 天龍川

此のはなしのうちに、程なく天龍にいたる。
此の川は信州諏訪の湖水より出、東の瀬を大天龍、
西を小天龍といふ、舟わたしの大河なり。

  水上は雲より出て鱗ほどなみのさかまく天龍の川

舟よりあがりて建場の町にいたる。此所は江戸へも六十里、
京都へも六十里にて、ふりわけの所なれば、中の町といへるよし





弥次さん北八さんは、名古屋 熱田神宮の近くの 宮の渡し から桑名まで、海上七里を船で渡った。
船上では一騒ぎあったのだが、ブログの品格上、抜粋を載せます。
現在は、東名 豊田ジャンクションから東名阪道 四日市ジャンクションまで、海上をも巨大ブリッジで繋いで、伊勢湾岸道が走っています。




湾岸桑名 出口


此わたし船 七里の海上、一人まへ四十五文ヅヽ、其外駄荷のりものみなそれぞれに賃銭をはらひ、船にのる。・・・
 
  おのづから祈らずとても神ゐます宮のわたしは浪風もなし

かく祝しければ、乗合みな皆いさみたち、やがて船を乗出して、順風に帆をあげ、海上をはしること矢のごとく、
されど浪たひらかなれば、船中思ひおもひの雑談に、あごのかけがねもはづるるばかり、高声に笑ひののしり行く
ほどに、あきなひ舟、いくそうとなく漕ぎちがひて「酒のまつせんかいな。名物かばやきの焼きたて、団子よいかな・・」
・・・・・・・・・・・・
のり合 「きたぞ、きたぞ。小便にこそぬれたれ、舟はつヽがなく桑名へきた。めでたいめでたい」
トみなみなこれよりあがりて此しゆくに喜びの酒くみかはしぬ





*今回掲載のテキストはすべて著作権が切れています。
*主な参考資料
  小学館 新編日本古典文学全集「東海道中膝栗毛」
  シャープ電子辞書「パピルス」
  NEXCO中日本「サービスエリアガイド」

                                          著作・制作 KY企画

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