先週、サークル「突撃蝶々」主催のエアコミティア合同誌、『Breaking Bread ~8人の愉快なパン焼き職人~』が届いた。テーマはパン。創作少女系の同人つながりのクリエイター=パン職人8人が再結集した、「同窓会」というコンセプトのようだ。
コピー本と聞いていたのに、32ページのボリュームに、まず驚いた。
「1人1P描けばうすい本になるね!」という話で始まったのに、みなさん暴走して、32ページになったという。 A42つ折りで8丁、きれいに製本できている。お疲れさまでした。
表紙は、山名沢湖さんのイラスト・デザイン。
コック帽をかぶったポニテの女の子は、安定のかわいらしさである。ポニテが『委員長お手をどうぞ』の図書委員長や、メロンパンに願いをかけた女の子を思い出させる。
表紙を開いた扉ページは、女の子はおらず、タイトルロゴとデザインのあしらいのみ。書体名はわからないけれど、パンのようにまるっとしたサンセリフ書体のチョイスがすばらしい。
パン繋がりで、『美味しんぼ』のハンバーガー回を思い出した。
「むぅ……どっしりした歯応え……ロゴと、表紙の女の子の歯応えが釣り合っている」と、海原雄山なら感心するところだろうか。ハンバーガーにおけるパンと同じように、漫画のタイトルロゴの役割は大きい。
まえがきは、この企画の立案者で、翻訳家・ライターの村上リコさん。英国王室・貴族、メイド・執事に関する著作が多数ある。英国エドワード王室時代のメイドの幽霊が登場する山名さんの『花ちゃんとハンナさん』では時代考証や翻訳を担当していた。
タイトルの「Breaking Bread」には、「パンをちぎる」という意味があるのだそうだ。「食卓を囲む」という意味もあるので、むかしの同人誌仲間の同窓会にもぴったりのタイトル、というわけらしい。そういえば、companyにも「(一緒に)パンを食べる」という意味があるのを、最近知った。
「tea break」も大阪弁に訳すなら「茶ァしばく」かな? 優雅なイメージが台無しだね。
冒頭は、空木朔子さんの作品。
ふわふわ系パンが好きな彼氏と、みっちりもっちり系、ハード系パンが好きな彼女。パンの好みも遠慮してしまい、自分の本音もいえない。彼氏が先日買ってきて、食べずにそのままになっている、カチンコチンに固まってしまったパンは、今の彼女の気持ちそのままである。決意して、別れを告げるつもりが、思わぬ結末に。
今回はハッピーエンドだったが、ちょっとしたことで、さっきまでの思いと全く逆のことを言ってしまう、人生にはそういうことはよくあるね。好きと嫌いは表裏一体なのだ。そうした人生の機微をわずか4pにおさめた匠の技。
片倉あおいさん「あの日食べたパンの名前を僕はまだ知らない」
パン食が禁止された社会で、禁断のパン作りに挑む物語。グルテンフリー教を信奉する一派と、日本の伝統を尊重する米食派が結託して、パン食規制法を成立させてしまったのだ。規制派は小麦粉を主とした食品全般を禁止するつもりだったが、関西粉もん文化圏、及びうどん王国香川の強硬な反対のため、パンで妥協したという。
ん? 大阪人が何かいっているぞ。
「うどん県人と一緒にせんといてや。お好み焼きの本体はキャベツで、メリケン粉はあくまでつなぎやで?」
「メリケン粉だけちゃうで!長芋の入っていないのんは邪道や!」(『じゃりン子チエ』参照)
李えるざさん「ぴろーとーく」
4コマ漫画。ベッドに腰かけ、タバコを吹かす彼氏が、「俺……ずっと思っていた事があるんだ」という。
「コッペパンのコッペって 何だろう……」
3コマめ、彼女の表情がいい。「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」って、こういう表情だろうな。
「コッペパン」といえば、私は「かわいいコックさん」の絵描き歌を思い出す。
「あんパン二つ、豆三つ、コッペパン二つ」と来たところで、亡母は「コッペパン二つも、ぜいたくだね」とツッコミを入れたものだった。「あんたのお父さんはびんぼうで、一日コッペパン一個しか食べられなかったのに!」と怒っていた。おれにいわれてもなあ。
「コッペ君」が主人公の名作がなかったっけ?と思ったら、「コペル君」だった。
山名沢湖さん「ブレッドバトル」。
パンを武器にした謎の格闘マンガ。pixivでラフを見たときから楽しみにしていた。
ロングの髪をポニテにしたサン・ミッシェル・富士子の外見は、『委員長お手をどうぞ』のミッション系女学校の清楚な宗教委員長のようだ。彼女もバレー部の体育会女子だった。
対するフォション・山崎は、おかっぱ頭の風紀委員長風。富士子と山崎のカップリングは、マリみてでいえば志摩子と乃梨子のようで楽しい。
山名さんは、ダンスなど派手なアクションも多い『つぶらら』を描くために、水島新司の『ドカベン』を模写して、人体の動きの表現を研究したという。水島新司ならいくら模写しても絵柄に影響を受けないだろうという判断だったらしい。『つぶらら』以降の作品は、キャラクターにものすごく躍動感を感じる。
この作品でも、バケットをブンブンと振り回し百烈剣を繰り出す富士子の攻撃を(意味がわからない? 考えるな、感じろ!)、山崎は鮮やかにかわし、ヒュッと目つぶしを投げる。この山崎の体のひねりの美しさはどうだろう。『ドカベン』で殿馬がこんな秘打を繰り出していたような気がする。
あんパンを食べてカロリー補給する、山崎の「もっきゅもっきゅ」がいい。最後のページがエコでかわいい。
二条都さん「ふかふかのパンのベッドで寝てみたいです」
ふかふかパンのベッドに寝ていると、犬がやって来て、ご主人が寝ている部分を除いて、後はきれいに食べてしまい、切り抜きパン人形の分身ができてしまう、ナンセンスな味わいのファンタジー。とても寝相のいい人らしい。私なら転がって落ちてしまうだろう。
対向ページは、卯月千尋さんの同じテーマのイラスト。パンのベッドで眠る女の人と、彼女を眺め下ろす黒猫。女の人のほっぺも、ふかふかもちもち柔らかそうだ。ふかふかのパンに、ふかふかのベッド。何気ない日常に幸せを感じるのは、一種の才能なのだろうと思う。
村上リコさん「外出自粛ベーキング2020」
『ダウントン・アビー クッキングレシピ』(2020年6月末 ホビージャパンより発売予定)の翻訳書の監修を引き受けたのが、パンづくりのきっかけだったらしい。英国の歴史ドラマ『ダウントン・アビー』の登場人物が食べていそうなお菓子や作っていそうな料理を歴史家がまとめた本、とのこと。19世紀~20世紀に出版されたレシピを、現代のイギリスとアメリカのキッチンでも作れるように調整してあるという。この監修の仕事がきっかけで、パンづくりに取り憑かれていったという。
いろいろ勉強になる。イーストのかわりに重曹とバターミルクなどの酸を合わせてガスを発生させて膨らませる「ソーダブレッド」というパンがあるのを知った。強力粉のかわりに薄力粉を使う。強力粉やイーストが手に入りにくかった19世紀のアイルランドで広く作られたパンらしい。
ホームベーカリーの話は、山名さんのあとがき漫画にも出てくる。
けろ島さん「焼けました」
この方のイラスト、見たことがある! たしか『はたらく細胞』のファンアートだった。キャラクターに目力があり、印象に残っていた。
こういう思わぬ場所での再会はうれしい。
焼きたてのカエル型のパンを売るお姉さんと女の子は、姉妹なのだろうか。おねロリはすばらしいね。
あとがきは、トレードマークのイカ姿の山名さんの4コマ。日々手作りパンの素敵な写真をアップする友にDMで送った、「どんどんパンにハマってるね~」という自分の言葉に、「ドンパン節」を思い浮かべてしまう。英国の優雅なパン作りから、なぜか愉快な秋田民謡に。このちょっとシュールなおかしみも、山名さんの魅力だ。
「強いエンジニアはなぜダジャレをいうのか」というまとめがあった。関係ないものに共通性を見出していく才能は、エンジニアもクリエイターも共通なのかもしれない。
ささやかなブーストのお礼に、ポスカと本書の2折のミスプリントをいただいた。感謝感激。2折のおもて面で、空木朔子さん作品の1pめ、対向はけろ島さんのイラストが印刷されているのだが、表紙にあしらわれた三つ葉模様のゴースト(残像)が写り込んでしまった。イメージドラムに表紙の画像が残ってしまったのだろうか。しかしこれはこれで妖精的な何かがいたずらをしたようで、かわいらしい。カエルさんとおそろいの色だ。
かつてのオフセット印刷機はゴーストが出やすかった。
むかし、ゲームの説明書に、友達の持っているやつにはないカッコイイ模様が入っていたので、「レアものだ!」と喜んでいた小学生がいた。高校卒業後、彼はその説明書を印刷していた印刷所に、偶然就職した。「この会社で刷ったんですよね!」と説明書を持っていくと、「それたんなる汚れやで?」と先輩にいわれて、がっかりしたという。
コピー本と聞いていたのに、32ページのボリュームに、まず驚いた。
「1人1P描けばうすい本になるね!」という話で始まったのに、みなさん暴走して、32ページになったという。 A42つ折りで8丁、きれいに製本できている。お疲れさまでした。
表紙は、山名沢湖さんのイラスト・デザイン。
コック帽をかぶったポニテの女の子は、安定のかわいらしさである。ポニテが『委員長お手をどうぞ』の図書委員長や、メロンパンに願いをかけた女の子を思い出させる。
表紙を開いた扉ページは、女の子はおらず、タイトルロゴとデザインのあしらいのみ。書体名はわからないけれど、パンのようにまるっとしたサンセリフ書体のチョイスがすばらしい。
パン繋がりで、『美味しんぼ』のハンバーガー回を思い出した。
「むぅ……どっしりした歯応え……ロゴと、表紙の女の子の歯応えが釣り合っている」と、海原雄山なら感心するところだろうか。ハンバーガーにおけるパンと同じように、漫画のタイトルロゴの役割は大きい。
まえがきは、この企画の立案者で、翻訳家・ライターの村上リコさん。英国王室・貴族、メイド・執事に関する著作が多数ある。英国エドワード王室時代のメイドの幽霊が登場する山名さんの『花ちゃんとハンナさん』では時代考証や翻訳を担当していた。
タイトルの「Breaking Bread」には、「パンをちぎる」という意味があるのだそうだ。「食卓を囲む」という意味もあるので、むかしの同人誌仲間の同窓会にもぴったりのタイトル、というわけらしい。そういえば、companyにも「(一緒に)パンを食べる」という意味があるのを、最近知った。
「tea break」も大阪弁に訳すなら「茶ァしばく」かな? 優雅なイメージが台無しだね。
冒頭は、空木朔子さんの作品。
ふわふわ系パンが好きな彼氏と、みっちりもっちり系、ハード系パンが好きな彼女。パンの好みも遠慮してしまい、自分の本音もいえない。彼氏が先日買ってきて、食べずにそのままになっている、カチンコチンに固まってしまったパンは、今の彼女の気持ちそのままである。決意して、別れを告げるつもりが、思わぬ結末に。
今回はハッピーエンドだったが、ちょっとしたことで、さっきまでの思いと全く逆のことを言ってしまう、人生にはそういうことはよくあるね。好きと嫌いは表裏一体なのだ。そうした人生の機微をわずか4pにおさめた匠の技。
片倉あおいさん「あの日食べたパンの名前を僕はまだ知らない」
パン食が禁止された社会で、禁断のパン作りに挑む物語。グルテンフリー教を信奉する一派と、日本の伝統を尊重する米食派が結託して、パン食規制法を成立させてしまったのだ。規制派は小麦粉を主とした食品全般を禁止するつもりだったが、関西粉もん文化圏、及びうどん王国香川の強硬な反対のため、パンで妥協したという。
ん? 大阪人が何かいっているぞ。
「うどん県人と一緒にせんといてや。お好み焼きの本体はキャベツで、メリケン粉はあくまでつなぎやで?」
「メリケン粉だけちゃうで!長芋の入っていないのんは邪道や!」(『じゃりン子チエ』参照)
李えるざさん「ぴろーとーく」
4コマ漫画。ベッドに腰かけ、タバコを吹かす彼氏が、「俺……ずっと思っていた事があるんだ」という。
「コッペパンのコッペって 何だろう……」
3コマめ、彼女の表情がいい。「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」って、こういう表情だろうな。
「コッペパン」といえば、私は「かわいいコックさん」の絵描き歌を思い出す。
「あんパン二つ、豆三つ、コッペパン二つ」と来たところで、亡母は「コッペパン二つも、ぜいたくだね」とツッコミを入れたものだった。「あんたのお父さんはびんぼうで、一日コッペパン一個しか食べられなかったのに!」と怒っていた。おれにいわれてもなあ。
「コッペ君」が主人公の名作がなかったっけ?と思ったら、「コペル君」だった。
山名沢湖さん「ブレッドバトル」。
パンを武器にした謎の格闘マンガ。pixivでラフを見たときから楽しみにしていた。
ロングの髪をポニテにしたサン・ミッシェル・富士子の外見は、『委員長お手をどうぞ』のミッション系女学校の清楚な宗教委員長のようだ。彼女もバレー部の体育会女子だった。
対するフォション・山崎は、おかっぱ頭の風紀委員長風。富士子と山崎のカップリングは、マリみてでいえば志摩子と乃梨子のようで楽しい。
山名さんは、ダンスなど派手なアクションも多い『つぶらら』を描くために、水島新司の『ドカベン』を模写して、人体の動きの表現を研究したという。水島新司ならいくら模写しても絵柄に影響を受けないだろうという判断だったらしい。『つぶらら』以降の作品は、キャラクターにものすごく躍動感を感じる。
この作品でも、バケットをブンブンと振り回し百烈剣を繰り出す富士子の攻撃を(意味がわからない? 考えるな、感じろ!)、山崎は鮮やかにかわし、ヒュッと目つぶしを投げる。この山崎の体のひねりの美しさはどうだろう。『ドカベン』で殿馬がこんな秘打を繰り出していたような気がする。
あんパンを食べてカロリー補給する、山崎の「もっきゅもっきゅ」がいい。最後のページがエコでかわいい。
二条都さん「ふかふかのパンのベッドで寝てみたいです」
ふかふかパンのベッドに寝ていると、犬がやって来て、ご主人が寝ている部分を除いて、後はきれいに食べてしまい、切り抜きパン人形の分身ができてしまう、ナンセンスな味わいのファンタジー。とても寝相のいい人らしい。私なら転がって落ちてしまうだろう。
対向ページは、卯月千尋さんの同じテーマのイラスト。パンのベッドで眠る女の人と、彼女を眺め下ろす黒猫。女の人のほっぺも、ふかふかもちもち柔らかそうだ。ふかふかのパンに、ふかふかのベッド。何気ない日常に幸せを感じるのは、一種の才能なのだろうと思う。
村上リコさん「外出自粛ベーキング2020」
『ダウントン・アビー クッキングレシピ』(2020年6月末 ホビージャパンより発売予定)の翻訳書の監修を引き受けたのが、パンづくりのきっかけだったらしい。英国の歴史ドラマ『ダウントン・アビー』の登場人物が食べていそうなお菓子や作っていそうな料理を歴史家がまとめた本、とのこと。19世紀~20世紀に出版されたレシピを、現代のイギリスとアメリカのキッチンでも作れるように調整してあるという。この監修の仕事がきっかけで、パンづくりに取り憑かれていったという。
いろいろ勉強になる。イーストのかわりに重曹とバターミルクなどの酸を合わせてガスを発生させて膨らませる「ソーダブレッド」というパンがあるのを知った。強力粉のかわりに薄力粉を使う。強力粉やイーストが手に入りにくかった19世紀のアイルランドで広く作られたパンらしい。
ホームベーカリーの話は、山名さんのあとがき漫画にも出てくる。
けろ島さん「焼けました」
この方のイラスト、見たことがある! たしか『はたらく細胞』のファンアートだった。キャラクターに目力があり、印象に残っていた。
こういう思わぬ場所での再会はうれしい。
焼きたてのカエル型のパンを売るお姉さんと女の子は、姉妹なのだろうか。おねロリはすばらしいね。
あとがきは、トレードマークのイカ姿の山名さんの4コマ。日々手作りパンの素敵な写真をアップする友にDMで送った、「どんどんパンにハマってるね~」という自分の言葉に、「ドンパン節」を思い浮かべてしまう。英国の優雅なパン作りから、なぜか愉快な秋田民謡に。このちょっとシュールなおかしみも、山名さんの魅力だ。
「強いエンジニアはなぜダジャレをいうのか」というまとめがあった。関係ないものに共通性を見出していく才能は、エンジニアもクリエイターも共通なのかもしれない。
ささやかなブーストのお礼に、ポスカと本書の2折のミスプリントをいただいた。感謝感激。2折のおもて面で、空木朔子さん作品の1pめ、対向はけろ島さんのイラストが印刷されているのだが、表紙にあしらわれた三つ葉模様のゴースト(残像)が写り込んでしまった。イメージドラムに表紙の画像が残ってしまったのだろうか。しかしこれはこれで妖精的な何かがいたずらをしたようで、かわいらしい。カエルさんとおそろいの色だ。
かつてのオフセット印刷機はゴーストが出やすかった。
むかし、ゲームの説明書に、友達の持っているやつにはないカッコイイ模様が入っていたので、「レアものだ!」と喜んでいた小学生がいた。高校卒業後、彼はその説明書を印刷していた印刷所に、偶然就職した。「この会社で刷ったんですよね!」と説明書を持っていくと、「それたんなる汚れやで?」と先輩にいわれて、がっかりしたという。