堺の可能性

大阪都構想協議に、堺市の竹山市長が参加しないことを表明した。自由と自治の伝統を大切にする堺市民は、市域分割案に抵抗があるからだ、と。

この竹山市長は、元大阪府幹部で、橋下の府知事時代の腹心。いわば身内からの造反である。

まずは、堺市民といっしょに、この決断を歓迎したい。おれたちは、仲間たちの転向も裏切りも脱落も肯定してきた。そのたびに自己の限界を自己切開して、思想や運動を鍛え直してきたつもりだ。まして「敵」からこちらに折れてきたのなら、どうして歓迎せずにおられるだろうか？

すべてはみんなのために。われわれは何もいらない。

竹山市長の任期は、来年10月まで。維新の会幹事長の松井府知事は、来年の市長選で対立候補を擁立する可能性を示唆した。

「政策が一致しないなら有権者に問うのが政治家の役割だ」

そう、堺市民は大阪市長選に投票したわけではないよな。府知事選では堺市分割なんか争点になっていなかった。選挙公報にも書いてなかったよな？　堺市の選挙区民に説明があったとも聞いていない。橋下のついでに投票してもらったくせに、このバカは何をいっているんだ？　このもらい乞食は、堺市民の皆さんごめんなさい、詐欺でしたからもう一回選挙しますといっているだけではないか。

橋下市長は竹山市長をこう批判した。先の松井コメント同様、2月4日の日経朝刊より。

「少子高齢化で人口が減る中、大阪府・市と堺市がまとまってやろうという思いを堺市民に持っていただきたい。堺市は完全に乗り遅れてしまう。（竹山市長は）大阪全体という視点が欠けている」

大阪全体？　府の負債増やして市政にトンズラしたおまえに、おれたちは政治も経済も語ってほしくないんだけどな。

公共の福祉は、私権と私権の利害が衝突するときに、ただ調停概念として用いられるべきものであって、公権力の濫用を正当化するものではない。

橋下、おまえはすぐに「民意」というけれど、代議制民主主義など、おれたちは何の価値も認めていないよ。政治家でなく民衆に、政党でなく社会に開かれた民主主義でなければ何の意味もないと、おまえも思わないか？　大阪市の「民意」の大半も、おれと同意見のはずだ。橋下市長ともあろう人が、まさか知らないわけよな？　おれたちは、既成体制に寄生するだけの無能な高給取りの公務員、インチキ左翼教員を片付けたいだけさ。ゲロを片付けるモップとして選ばれただけの分際で、あまりでかい口をたたくなよ？

逆に、大阪が堺になるのなら大賛成だぜ。よき大阪が残るのは堺のほうだ。「古きよき」とはいうまい。

阪堺電車の路面電車は、お年寄りにも子どもにもやさしい。大阪が失いかけているに見える市民のコミュニティの可能性が、そこにはある。少子高齢化なんていうのなら、大阪のわれわれは堺に見習うべきだ。

「東洋のベニス」といわれた堺の近世以降の歴史は、その富と精華ゆえに、大坂・江戸・東京の政権により収奪され、翻弄されてきた。堺商人は大坂に強制移住させられ、町は衰亡の運命をたどった。鎖国政策は、海外に雄飛する自由の翼を折り、幕末の開港では尊攘派の天皇陵を盾にした反対で、神戸にその地位を譲った。第二次大戦の堺空襲は、軍事工場に従事する労働者がいることを理由に、住宅地を狙った無差別爆撃であり、大勢の貴い人命が失われた。また多くの歴史文化財も焼亡した。戦後の乱開発は、浜寺の美しい白浜松原を工場地帯に変えてしまった。
　
しかし、今も堺市民は自治と自由の伝統を守り続ける。そこにこそ、都市再生の可能性がある。

おれが堺をリスペクトしてやまないのは、初めて源氏物語の現代語訳に挑戦した与謝野晶子の存在だ。誤訳もあり、多少古くさい部分もある。しかし晶子を超える現代語訳は未だにないと断言できる。京都は伝統に、大阪はゼニに、東京は権力にすぐ屈服する。晶子だけが、あそこまで自由に、源氏を現代に移植することに成功した。原文を諳んじて暗記していて、かつ美しい現代語に移し替える能力を持ち得たのは、堺生まれの晶子ひとりだけだ。

いまも堺には、住所表記ひとつとっても、「丁目」でなく「丁」と独自のルールがある。となりの市なのに、このカルチャーギャップが面白い。

「大阪と一緒にしてほしない」と思っているのは、京都人や神戸人だけではない、ということだね。自由と自治のため、たたかえ堺市民！　大阪ものも連帯するぜ。