たしかラジオで著名人がおススメしていたので、この本をよんだ。
萩尾望都の漫画は読んだことはないけど、「ポーの一族」や「トーマの心臓」などの話題作は気になっていた。けど、なぜか読む気が起こらない。その理由が今更ながらわかった。私には、文学的すぎて知的レベルが間に合ってなかったのだ。萩尾望都先生の作品は、カフカやヘッセ、三島由紀夫などの文豪たちの作品に影響を受けていると書かれてる。どうりで、私の手には負えんわ。恋愛を夢見る少女マンガとは、違うと思った。
ところで、そんな格調高い作品を描いてきた、紫綬褒章までいただいた先生が、
なぜ、今こんな告白本を書くことになったのか?ー
それは、大泉サロン(若き少女マンガ家たちが集った場所、東京の一軒家)での日々を竹宮恵子先生と対談をしてほしい、とメディアから依頼されことから始まる。しかし、萩尾望都先生は大泉サロンで過ごした2年目にはとんでもない災難に見舞われたのだ。それはとてつもない辛い日々のはじまりだった。なので、どうしても対談なんかしたくない、する気がしない。それなのに、メディアがしつこく何度も頼みにくる。そこで、しかたなく意を決して本にすることにしたと書かれている。
読んで最初の感想は正直、萩尾先生は頑固だなあ、と思った。
たしかに、竹宮先生と萩尾先生の間に確執があったと思われる。萩尾先生の傷は深く辛かっただろうと想像もできる。けど、竹宮先生も苦しかったんじゃないだろうか?
大泉時代といえば1970年。それからもう五十年も経っている。少し語り合うぐらいなら、いいのでは?と浅はかな私は思った。
しかし、先生の心はそんなに簡単なものではなかった。読み進めるにつれ、真摯な態度で漫画に取り組む萩尾望都先生の姿。漫画への深い愛。そしてアーティストとしての矜持が伝わってくる。
結果、うわべだけの対談なんか必要ない。それよりも才能同士のぶつかり合いや人のこころの闇が、正直に描き出された「一度きりの大泉の話」が本になったのだ。
実は私も大切な友達を何人も、自分の浅はかな心の態度で失ってしまった過去が思い出される。
先生はご自分の世界観を大切に、そしてなによりご自分の心を大切にしている方なんだ。単純なそのことに気がついている萩尾望都先生は、幸せとは何かを知るやっぱり知的で素敵な人なのだと思った。