タイトルのかわいらしさからは、想像できないほど、意地の悪い会社員の女性が主人公。この物語はホラーだ、との宣伝に惑わされ、いつもは図書館利用の私もつい自腹で文藝春秋九月特別号を買った。たしかに、ちょっとホラー。
まず、主人公押尾が、会社に自分の手作りケーキをもってくる可憐な芦川さんへの「いじわる」のやり方が変わりすぎ。まったく共感出来ず。そんなことする?それ、一線こえてないか?と心がざわつく。
その共感の出来なさが斬新で受賞したのかも?
仕事ができて、残業もいとわない責任感ある押尾。彼女から見たら、芦川さんは時々仕事でミスをし、難しい仕事は断り、毎日定時退社と、ウザい存在。なのにワークライフバランスのこのご時世、上司も同僚も彼女を責めたりせず、むしろ、時々お菓子を作ってきて振る舞ってくれる彼女をアイドル的存在、癒しの人として受け入れている。それを押尾は許せない。
仕事帰り、同僚の男性二谷と飲んだ押尾は「芦川さんにいじわるしませんか」ともちかける。この時、二谷はなぜか冷たい目で笑い「いいよ」と答える。押尾はとても楽しい気分になるー。
鋭い観察眼で職場の上司や同僚を見つめる押尾はすぐに、二谷が芦川と付き合ってることを知る。が、あまり悔しさもみせず、冷静。そして二谷との楽しい飲み会デートも続けていく…
どう考えても変人同士(二谷と押尾)の方がお似合い、というか分かり合えてる描写が多いのに、二谷は、か弱くて可愛い芦川さんと付き合い続け、結婚も考えてる感じ。
それで、ふと、あの名作『嵐が丘』を思い出してしまった。
中身より外見やお金を選んだキャサリンが二谷のようではないか?
だけど変というか、見方を変えると、芦川さんは自分らしい働き方を選んで、しかも周りを味方につけてて、ある意味、一番の強者。だから、正反対の二人と上手く付き合っているつもりの二谷はどんどん壊れていく。それが一番ホラーかも。
押尾はごく普通の頭のいい人で自制的でもあるのに、変わったことを思いつき、実行してしまう。人間の分からなさ、面白さがこの本に詰まってて、一気に読めた。
たくさん書いてしまったけど、ラストはまたインパクトあります。
でも純文学なのですよね?
実家の父が月刊文藝春秋を毎月取っていまして
中学生の頃から芥川賞はその誌上で読んでいました。
これは、図書館でリクエストして待とうかと思っています。
ホラーを強調し過ぎたかもしれません。
選評では、高瀬隼子を押す作家さんが多かったと思います。私も図書館予約してたんですが、新聞広告のホラーって言葉に即反応してしまい。。
ただ主人公押尾と二谷は私から見ると、ホントやな奴なので、へえ、そんな風に思うのかあ、考えるのかあ、と面白かったです。