ライフ&キャリアの制作現場

くらし、仕事、生き方のリセット、リメイク、リスタートのヒントになるような、なるべく本音でリアルな話にしたいと思います。

54.嘱託Kさん70歳 

2016-09-17 14:47:50 | シニア 人生100年
 私がお世話になっている会社のある事業推進スタッフに、70歳のKさんが入ってきた。大手企業に定年まで勤めた後、公的機関で期間満了になるまで働いて、縁あって当方の嘱託として働くことになった。小柄で細身、白髪、額には深い皺があり、眼鏡の奥の目は窪んでいる。声はややかすれ気味で、あまりしゃべらない。

 Kさんの役割は、シニア層向けの講習会の準備、運営、フォロー等の補助。時々様子を見ていると、担当スタッフの指示通りに黙々と作業をこなしている。昼休み以外は休む様子もなく淡々と作業をしたり、電話でやり取りしているが、定時が来たらすっと帰る。そして、また翌日やって来て仕事をこなす。パソコン入力は遅いが、手際は悪くなさそうだ。見かけによらず押しが強いところは、年の功かもしれない。

 そんなKさんの歓迎会があった。仕事ではやや存在感の薄いKさんだが、お酒は強かった。あまり食べずに淡々と飲むのだが、きれいな飲み方だ。歓迎会ということもあり、普段より饒舌に昭和の話や現役時代の話、昔上司からよく聞かされた懐かしい冗談などもリピートしていたが、あくが抜けた話し方なので嫌みがない。むしろ、我々のような一回り二回り以上年下世代と、コミュニケーションを取ろうと努めている姿が微笑ましくもあり、時折皆の笑いを誘っていた。

 宴もたけなわの頃、酔っぱらった担当スタッフが言った。「Kさん、明日朝7時の電車すよ。駅の改札で待ち合わせすよ。大丈夫っすか?」Kさんは矍鑠として言った。「私はね、毎日10時には寝て、朝5時に起きるんです。会社に勤めだしてから、一度も約束の時間に遅れたことはありませんからね。大丈夫です。」

 中締めの挨拶でKさんは、「この歳になって歓迎していただき、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」と丁寧に頭を下げた。

 

 

 

 
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44.最後のよりどころ

2016-08-11 23:17:46 | シニア 人生100年
 再就職支援の面談をしていると、様々な事情で壁にぶつかったり、道に迷い立ち止まったままの人の話を聴く。例えば、体調を壊して離職しようやく回復しつつある40代男性、家族介護のために離職し介護が終了し自分の仕事を探し始めた50代女性、リストラされた後仕事を探し続けて数年が経過している50代男性など、再就職が困難な人の相談に乗ることが多い。

 相談に来た方に対しては、まずは日ごろの努力や苦労をねぎらい、これまでのその人のキャリアや歴史、今の心情を聴くことから始める。そして、話を聴きながらその人の考え方や適性、行動特性、意思、意欲、健康状態、生活状況、障害となる問題などをできるだけリアルに浮かび上がらせて行く。まさに「傾聴」の姿勢に徹する。「それは無理ですよ。」「もっと~するべきですよ。」などという、こちらのものさしでの評価や上から目線の無責任なアドバイスはしない。

 しかし、現実は厳しいこともある。人によっては、自分自身を客観視できていなかったり、強いこだわりやプライドが原因で自縄自縛の状態になっていたりする。挫折の連続で意欲減退が著しい人もいる。年齢やそれぞれの事情というハンディを抱えながらそのような状態で応募をしても、受け入れてくれる就職先は皆無に等しいというのが現実である。

 それでも、支援する立場としては、「最後のよりどころ」という意識を持って、その人を尊重し可能性をあきらめずにチャンスを共に探す。選択肢を広げることや方向転換することの必要性も、極力本人が気づくように働きかける。時には、寄り添いながらも背中を押すことや手を引っ張ることもある。ただし、本人が納得しないとこちらの思うようには動かない。大事な意思決定は本人がすること肝要だ。決して簡単なことではない。

 最近は、柔軟性と粘り、そしてプロ意識を持って支援対象者に向き合うように努めている。

 

 
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41.講座運営アシスタントSさん

2016-08-06 00:14:40 | シニア 人生100年
 今私が定期的に講師をさせていただいている行政関連講座の運営アシスタントSさんは、年金生活者だ。この講座は、県内各地で定期的に開催されるので、その都度Sさんは運営本部から自宅に送られてきた資料等を、キャリーバッグに詰めて電車に乗り自宅近隣の会場まで運んでくれる。そして、簡単な会場設営と受付、後片付けなどを手伝ってくれる。それが、Sさんのアルバイトだ。

 Sさんのアシスタントとしての受講者対応は、特別愛想がよい訳でもなければ、手際がよい訳でもない。若干ぶっきら棒な言い方をすることもあるし、受付のハンコを押すのもあまり速くはない。講座開始の際の注意事項の説明や講師紹介も、何度も同じ事を話している割には滑舌がよくない。講座中は、毎回同じ話を聴いているから仕方ないのだが、たまに居眠りする。終わってから近所の日帰り温泉に行く日やプールの監視員のアルバイトを掛け持ちしている日には、私も片づけを手伝って早めに帰るよう促される。

 Sさんは、一言で言うと、麦藁帽子の似合うどこか気のいい田舎のおじちゃんの雰囲気がある。そのせいか、受講者からのクレームなどは無い。受講者も見るからに年長者のアシスタントに愛想など求めないのかもしれないが、どこか憎めないところもある。

 今、別件で55歳以上の方の再就職を支援する講座の講師をさせてもらうことがある。中高年の再就職のポイントは、やはり自分より年少者から一緒に働きたいと思ってもらうことだ。媚びる必要もないが、肩肘張る必要もない。仕事は精一杯やって、自然体で謙虚なコミュニケーションを心がけることが必要と思う。なるべく相手の目を見て話すとか、返事するとか、自ら挨拶をすることから始めればよいだろう。やってみれば難しいことではない。
 
 Sさんになぜ年金もらいながら働くのか尋ねてみた。「今一人暮らしじゃから、家にいても退屈でボケるといかんから。」
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27.働くシニアの本音のひとつ

2016-06-25 15:09:56 | シニア 人生100年
先日、仕事のお付き合いのある60代男性お二人と飲む機会があった。お二人とも、ある企業や機関に再就職して、相談窓口で働いている。定年退職先からの紹介で再就職した訳ではなく、早期退職後にいくつかの仕事を経て今の仕事に就いている。もともと、肩書や会社の看板がなくても仕事ができる方々なので、これまでも縁や信用を生かして自力で就職先を決めている。

 お二人とも、今までの再就職先でも与えられた仕事や役割を一生懸命やってこられた。勿論、自分自身やご家族のためだろうし、まだ元気でじっとしていられない性質なのだろうが、何か人の役に立ちたいという気持ちも強く持っている。人生の少し先輩だが、とっつきにくかったり、上から目線であったりすることがなく、一緒に仕事がしやすいタイプである。

 
 そんなお二人も、時々腹立たしいことがあるという。それは、自分たちへの配慮がない時だという。特別な配慮を求めているのではなく、同じ職場で働く者同士の、普通の気配りやコミュニケーションがあればよいということらしい。自分たちをうまく使ってもらった方が嬉しいし、お役にも立ちますよ、とのこと。余計な遠慮や、逆に一方的な命令や否定、それくらいわかってるだろうというような曖昧な指示は、ストレスになるという。人生経験を積み、酸いも甘いもかみ分けてきた先輩方も、一緒に働く一人として尊重されたいというプライドがあるのだろう。

 確かに、退職後も前職の看板や肩書を背負い高慢な態度を取る者や、頑固過ぎるシニアもいる。働くシニアの側も受け入れてもらう姿勢が必要だが、受け入れる側も寛容であることと、人生の先輩として頼ってみることも必要かと思う。そのためにも、日頃のコミュニケーションが大切。挨拶をしよう、声を掛け合おう、目を見て話そう。年齢関係なく、職場ではあたりまえのこと。

 
 

 
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19.がんばってますね

2016-06-12 23:04:21 | シニア 人生100年
 最近、二人の女性の働く姿を目にした。一人は、JR特急電車内。もう一人は、たまに行く小さな居酒屋。お二人とも、御歳80歳近いだろう。

 Aさんは、車内清掃係。走行中の車内を何度か往復して乗客に声をかけ、不要になった物やごみを袋に回収してまわる。慣れてないのか、作業着はだぶついているし、電車が揺れると足元がふらつく。でも、ごみを渡すと小さな声で「ありがとうございました。」と言う。車両を移るときは、乗客の方を振り返ってお辞儀をする。小柄だが眼鏡をかけ、ドラマの温和なおばあちゃん役の雰囲気もある。

 Bさんは、居酒屋で注文を取ったり運んだりする係。家族経営の店主のお母さんだろうか。瓶ビールを注文すると、店主が栓を抜いてから、一本づつ持ってくる。足取りが弱弱しく、歩幅を小さくしてゆっくり座敷まで運んでくる。テーブルに手を着いて、よっこらしょという感じで向きを変え、厨房に戻ったかと思うとカウンターの片隅でお通しの盛り付けをちょびちょびやっていたりする。やせていて、耳も少し遠い様子。注文は二つまでは覚えられる。志村けんのコントに出てきそうな雰囲気もある。何か大病からのリハビリか、認知症予防のため店を手伝っているのかもしれない。

 お二人とも、よく雑誌に出てくるような、セカンドライフを満喫しているシニアのイメージからは遠い。何か働かざるを得ない事情があるのか、好んで働いているのかはわからないが、人を相手にする現場で働いていることは事実。

 これからも、このようながんばる高齢者が増えるだろう。社会としては、高齢者が働ける場を作って行くことと、寛容であることが大切だと思う。一方、高齢者の方々も、自尊心を持って職場や社会に受け入れられるよう、できるだけ努めることが必要ではないかと思う。

 締めのおにぎりは、Bさんがカウンターの隅で握っていた。絶妙な塩加減?だった。
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11.パワフルMさん

2016-05-31 18:29:43 | シニア 人生100年
「まだまだやりたいことがあるのよ!今、上を説得して、準備してるんだけど。これだけは、何としてもやりたいのよ。いろんな人が働ける場所を作りたいの。地域貢献だと思うしね。」 Mさん(50代女性)はウーロン茶を飲みながら熱く語った。先日、ある講座の関係者で会食した時のことである。Mさんは小さな事業会社の部長職。営業、庶務、社員教育など何でもこなす。本人もやらずにはいられない質らしい。今の会社にスカウトされて10年余。

 そんなMさんのキャリアは、決して順風満帆ではなかった。家業の手伝いをしたり後始末をしたり、人がやりたがらないけど誰かがやらねばならない大事な仕事に携わったり、筋が通らなければ上司とも喧嘩したり、勤務先が買収されてリストラされたり、働き過ぎて体を壊したり、挫折や苦労も多かったとのこと。Mさんは言った。「こうして今までやってこれたのも、自分を待っててくれるお客さんや、信頼してくれる取引先があったからなのよ。」「だから、自分ががんばって終わりじゃなくて、後に続いてくれる人を育てたいのよ。」「今、仕事を辞めて探してもなかなか見つからない人が多いでしょ。そういう人達の〝自分探し″でもいいから、働ける場所を作りたいのよ。」力説された。

 話に圧倒されながら、Mさんのライフワークは「人づくり」と思った。苦労や挫折を乗り越え、転機を物にできる次世代を育てたいのだろう。そんなMさんにも、最近ちょっと気になることがあるという。「ジェネレーション・ギャップ」の感覚だそう。部下や若手をリードしたり、見守ったり、厳しいアドバイスもしてきたけれど、それだけで良かったのだろうかと思うらしい。
 
 Mさんは今、人の話を傾聴し、寄り添いながらコミュニケーションを深めて行く技法を学び、仕事の現場でもその実践を意識している。
 
 
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