ライフ&キャリアの制作現場

くらし、仕事、生き方のリセット、リメイク、リスタートのヒントになるような、なるべく本音でリアルな話にしたいと思います。

148.桜が目に沁みる

2021-04-03 22:33:01 | 時代 世の中 人生いろいろ
 「おはよーございます。」と、大きな太い声。「あっ、おはようございます。」と、明るい女性の声。社員6人ほどの小さな営業所に、本社から部長がやって来て、新年度新発式が始まりました。会社の新年度方針や目標などの説明の後、全員で経営理念や社訓の唱和。その後、個別の打ち合わせが済むと、「よっし、じゃあみんなで弁当食べようかっ。」と部長の掛け声。すると、女子社員が注文した弁当の美味しさと安さをアピール。お茶の準備が整うと、電話番の社員を残して広い会議室に移動しました。会議室の外にはなごやかな笑い声も漏れ聞こえてきました。市内の桜の名所や、食べ物の名物の話などをしているようでした。
   
 私が昼食に寄った食堂は、安くてうまいと評判です。一つのテーブルに大体2名までとしているので、券売機の前に少し列ができています。壁面の大型テレビには高校野球の様子が映し出され、アナウンサーのメリハリのある声が聞こえてきます。野球を見ながら食べる人、スマホを見ながら食べている人、職場の同僚数名で一緒に食べている人たちもいますが、あまり会話は聞こえてきません。それでも、人が共に食事をするという日常が静かに流れています。
           
 桜を見に、近所の公園に足を運んでみました。芝生やベンチの上には、桜の下で弁当やお茶をしている家族連れや学生がいました。歩きながら、自転車に乗ったまま、桜の木の下で立ち止まっていました。今年は、写真を撮っている人が多い気がします。誰かに見せるためでしょうか。それとも、2年ぶりの記念でしょうか。

 昨年の春は、こうした人の動きや集まりはほとんどありませんでした。それを思うと、この1年で世の中の状況はずいぶん変わったと思います。まだまだ元に戻っていないという見方もありますが、戻りつつあるとは言えるでしょう。それに、元に戻らなくてもいい。元に戻ることは時の流れに逆行することになる。そのように考える人もいるのではないでしょうか。先行き不透明で不安定だと嘆く人もいますが、これまで常に先が見通せて安定した状況の中で生きてきた人がどれほどいるのでしょう。不安や保身も人情なら、安心したい、人と共にいたいと思うのも人情でしょう。
   
 「あれはダメだ」、「それはしてはいけない」、「こうするべきだ、こうあらねばならない」。こう言った、白黒思考、禁止や否定のメッセージ、完璧主義。私もこうしたものの広がりに一時期翻弄されそうになりました。もう緩和した方がいいと思います。人の回復力をそぐからです。「ここまでならいい」、「こうすればできる」、「こんな考えもある」。人それぞれの意見、事情、価値観の相違はあるにしても、こうした寛容で柔軟な思考や行動に重心を移した方がより健全でいられると感じています。そして、私の周りの多くの人は、多少の揺れや浮き沈みはあっても、日々働き暮らす中で新たな日常を自然と受け入れつつあるように見えます。自分や家族を守ることだけでなく、他者や周囲への気くばり、心づかいも大切という良識を、それぞれに取り戻しています。

 この1年の振り返り。今の自分を支えてくれている人への感謝。1年後への希望や目標。日々を地に足つけて生きている普通の人々の、弱さ、やさしさ、逞しさ。桜はやがて散っても、大地に根を張っていれば、また春が来れば咲く。そんなことを思いながら空を見ていると、桜が目に沁みてきました。

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