ダーリン三浦の愛の花園

音楽や映画など徒然なるままに書いてゆきます。

明日のためにその370-日本の悲劇

2019年08月14日 | 邦画
届かね母の愛。

世間では、子供の虐待のニュースが相変わらずメディアを賑わせている。
子供にとって、母親とは特別の存在ではなかろうか。
自分の体を痛めて、生んだ子供。親子の中での母親と子供の絆は深いと思うのだが。
今回紹介する映画は「日本の悲劇」親子の絆の思い違いを描いた作品である。
ストーリーを紹介しておこう。

熱海の旅館で女中として働く母、春子は、戦争未亡人である。
春子には娘一人、息子一人の二人の子供がいた。
彼女は、その二人の子供を養い、立派な大人にするため、あらゆる商売に身を染める。
しかし二人の子供からは、みっともなく、だらしのない母親として見られて、子供達は母親に冷たくあたる。
そんなおり、大学の医学部を卒業した息子が、金持ちの老夫婦の養子になると言う。
開業医になるには、うってつけの条件なので、母親にその理解を求めようとするのだが.........

映画は終戦当時の実写映像と、母親のカットバックを中心に成り立っている。
この手法は、映画を限りなくカオスの世界へ押し流していく。
終戦直後の日本人全体の不安感が、そこには描かれている。
そして、母春子のヤミ屋等、手段を択ばず働く姿。
いかに彼女が、血のにじむ思いで子供達だけのために、労働に時間を費やしてきたかが、十分理解できる。
しかし、実際の現場を見ていない子供達には、その苦労が、実感として感じられない。
ここのところが、観ていてとても悲しい気持ちになる。
母親の愛は「無償の愛」である。子供たちに見返りを求めるなどありえない。
私は、私なりにそれを痛感しているので、この映画の子供二人については、全くもって怒りすら感じてしまった。
春子は、息子は立派な医者に、娘は良家の花嫁になってもらうのが一番の夢である。
そのためには、手段を択ばずお金を作り、必要とあらば、それを全て子供達のために使ってしまう。
自分のために使うお金など、彼女にはないのだ。
やがて息子は養子縁組に応じ、裕福な老夫婦の養子になってしまう。
追い打ちをかけるように、娘は通っていた英語塾の老教師と駆け落ちをして、母に書置きも残さず消えてしまう。
全てを失った春子。
ラスト春子は最悪の人生の選択をしてしまう。
万里一空であった春子、彼女の人生はいったいなんだったのだろうか。

親子関係に疲れた人などは、この映画を観て、もう一度「家族」の在り方を含め考えたらどうだろうか。
観ていない方には、観ることを是非お勧めする。

1953年、日本製作、モノクロ、116分、監督:木下惠介