ダーリン三浦の愛の花園

音楽や映画など徒然なるままに書いてゆきます。

明日のためにその221-きみはいい子

2016年03月08日 | 邦画
許すまじ幼児虐待。

「幼児虐待」
最近では、珍しくなくなってきた大変悲しい事件である。
愛すべき自身の子供を虐待し、最悪の場合は死に至らしめる。
これほど荒んだ事は、世間にあってはならない。
しかし、状況は好転せず、毎日にのように幼児虐待のニュースはメディアを賑わせている。
本日紹介する映画は、この「幼児虐待」をテーマとした「きみはいい子」である。
ストーリーを紹介しておこう。

水木雅美は、夫が海外に単身赴任していて、娘あやねと二人暮らし。
彼女は、娘を愛することができず、娘がそそうをしてしまうと直ぐ娘に暴力を振るう。
娘は体中に叩かれた痣がある、悲惨な状態だ。
また、桜ヶ丘小学校の新任教師、岡野はわがまま放題に暴れる小学生を、なかなか抑えることのできない状況に置かれ、毎日疲弊している。
そして、水木、岡野と同じ町に住む、少し耄碌した老婆佐々木あきこは、毎日自宅の前を通り、自分に挨拶してくれる障害児に愛おしさを持っていた。
物語は、三者三様に進み、一向にらちの開かない状況に苦悶する、雅美、岡野だったが......

物語は、上記のストーリーどおり、三人それぞれの立場から進行してゆく。
印象的だったのは、水木雅美を演じた尾野真千子より、そのママ友、大宮陽子を演じた池脇千鶴だ。
自身も過去に親からの虐待を受けたが、今は二人の子供を忙しく育てながらも、豪快な笑いを絶やさない良い主婦を好演している。
虐待をしている、雅美も、実は幼児期に親から虐待を受けていた。
腕に残る、煙草が原因とおぼしき火傷の跡だ。
だから彼女は、それがトラウマになって、自分の娘を愛せず、つい虐待に走ってしまう。
しかし、同じ虐待を幼児期に受けたにも係わらず、自分を守ってくれた環境に育った陽子は、自分の子供に愛情を注ぐ。
「環境は人を育てる」昔見たソ連の映画(タイトルは失念してしまったが)に、このような台詞があった。
まさにそのとおりである。環境こそが、人間を育てるに一番重要なものなのだ。
その環境が違っていたために、雅美と陽子では、自分の子供に対する接し方が違う。
「自分で痛みを知って、他人を愛することを知る」このことは、人間が幼い時期に一番重要なファクターであろう。
このシークエンスで、一番強烈だったのは、あやねが陽子に「うちの子になれば、おもちゃも遊び放題だよ。うちの子になる?」と聞くシーンだ。
あやねは陽子の問いに迷うことなく、母親雅美に抱きつき、陽子に対して「いいえ」と言う返事を表す態度をとる。あれほど、母親に虐待されているのに、それでも母親に愛を求める姿は見るに耐えないほど辛いシーンだった。
一方、新任教師岡野は、自身反抗期の小学生にどのように接して良いか、その答えがなかなか見つからない。
演じたのは高良健吾。朝の連続テレビ小説「ひまわり」や大河ドラマ「花燃ゆ」で売り出し中の若手俳優だ。
私は彼の演技にはちょっと不満が残った、喜怒哀楽の変化をもう少し上手く表現できたらよかった。
彼の登場シークエンスで、驚いたのは現在の小学校での生徒の呼び方だ。
映画の内容がそのまま本当であれば、私にとっては驚きだ。
教師が小学生の生徒に対して、全て「さん」付けで呼んでいる。
私達の小学生時代は、教師が生徒を呼ぶとき、男性教員なら誰もが「呼び捨て」だった。女性教員であれば、男性には「くん」女性には「さん」の敬称で呼んでいたが。
「呼び捨て」はまんざら悪い行為ではない。以前もこのブログに書いたが、呼び捨てすることにより、他人との距離は縮まる場合がある。
そして、三つ目のストーリー展開に出演する、障害児を演じた加部亜門、彼が上手かった。
この映画製作時に、彼は11歳、その歳にしてはとても難しい役を好演していて感心させられた。
この三つ目のストーリーは、この映画で唯一ニュートラルな展開だ。
無垢の象徴であるかのような、障害児弘也と独居老人のあきこ。人はしかるべしと映画は語っているように思われた。
そして、ラストの桜の花びらが舞い散るシークエンスには「希望」と言うメッセージがしっかり表現されていた。
監督は前年度キネ旬邦画第一位を獲得した、呉美保。その受賞作「そこのみにて光輝く」は既に私は観ているが、内容があまりに暗いため、ブログには投稿しなかった。
今回紹介した本作について、若干難を言えば、三つの視点から綴られるストーリーには、それぞれの登場人物が同じ町に住んでいる以外に、しっかりした共通点があるが、それについての説明が多少不足していると言えよう。
しかし、作品の作りはよく出来ており、十分にお勧めできる作品だ。
興味を持たれた方は、是非、観ることをお勧めする。

2014年日本製作、カラー、121分、2015年日本公開、監督:呉美保


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