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なかなか勝てない馬がいる。今日もその馬が走る。
がんばれ、と声が出る。
まなざしは、ゴールの先を見つめている。

和食はなぜ美味しい 日本列島の贈りもの  巽好幸/著

2021年02月01日 14時46分01秒 | 読書・地理地震


おでん、ブリしゃぶ、松茸の土瓶蒸し…。出汁文化はどうして生まれた?ボタンエビに桜鯛、筍、鱧、鮪、鰻…。四季折々の味覚を楽しめるわけは?どんな日本酒、焼酎、ワインが合うのでしょう。わたしたち日本人は、地震や火山噴火などのとてつもない試練を日本列島から与えられてきました。そして、これからも与えられ続ける運命にあります。しかし同時に、数えきれないほどの恩恵も授かっています。その一つが「和の食」といえるでしょう。「食べものって、その背景にある自然の営みを知ると、ずっと深く味わえるのね!」マグマ学者(著者)と一二カ月の食べ歩きをした姪御さんもいっています。あなたもさあ、一風変わったグルメ散歩をご一緒にどうぞ。

==一月 おでん―出汁は山紫水明の恵み==
うま味成分については
昆布からグルタミンを池田菊苗
鰹節からイノシシ酸を小玉新太郎
椎茸からグニアル酸を国中晃が和の食材として発見
第五の味覚「UMAMI」

日本で、出汁の材料として西洋や中国のように獣肉を使う習慣が乏しい理由。
「それは、日本人の獣肉食に対する消極性ね。6世紀中ごろに百済:くだら:より仏教が伝わると、その教えにしたがって獣肉は敬遠されるようになった」
日本書記には、天武天皇が仏教の立場から陥穽(かんせい) や機槍(きそう)を使った狩猟を禁じたと書かれている。
*陥穽(かんせい) の意味

1 動物などを落ち込ませる、おとしあな。「陥穽にはまる」
2 人をおとしいれる策略。わな。「詐欺師の仕掛けた陥穽に陥る」

水の中にカルシウムが豊富に含まれていれば、臭み成分は灰汁として効果的に除去することができるので、うまいスープとなる。一方、カルシウムが少ない水だと獣臭さは取りきれない。この水の違いこそが、日本では獣肉の出汁を用いる習慣が育たなかった重要な原因。

和の出汁の成立には、軟水を用いると昆布のうま味成分を効果的に抽出できる。
「河床勾配」
「アイソスタシー:地殻均衡」

~~二月 寒鰤―日本海誕生のヒミツ~~
ハマチの「活けづくり」という代物は、死後硬直の歯ごたえで養殖魚の臭みを紛らわす「隠蔽工作」である。晩秋になると北海道沖から日本海を南下し始めるブリ。
能登半島のつけ根に位置する氷見は寒ブリのメッカ。
鯨飲馬食
海底地形図;海上保安庁海洋情報部

日本列島が大陸からの分裂がはじまったのは2,000万年前ごろである。
「日本列島が大陸から離れていった速さはどれくらい?」
速いところでは100万年で1,000km移動したのだから、年間1m。

~~三月 ボタンエビ―大きくなる日本列島~~
日本が輸入する伊勢えびの多くはオーストラリア南部のタスマニア島から輸入されてくる。

~伊豆半島の衝突と南海トラフのわん曲~
駿河湾が深い理由を一言でいえば、海溝、ここでは南海トラフが湾内に入り込んでいるからである。南海トラフはフィリピン海プレートが沈み込むことでつくられる。四国から紀伊半島にかけての沖では西南西から東北東方向に延びているが、その先で北方向へ向きを変えている。
まるで、伊豆半島やその南へ続く「伊豆・小笠原弧」を避けるかのように海溝が歪んでいるのである。ところで、伊豆半島・駿河湾でわん曲しているのは、南海トラフだけでない。列島最大級の断層である中央構造線や、九州から関東地方まで延々と続く四万十帯と呼ばれる地質帯も同様に変化しているのである。
「伊豆衝突帯」と呼ばれるこのあたりは、もともと本州の南方にあった伊豆・小笠原弧が、本州へと衝突して食い込んだ所である。その結果、南海トラフや本州の地層や断層がわん曲しているのである。
1,500万年前、西南日本がアジア大陸から分裂して回転しながら南下した。その先に、ちょうど伊豆・小笠原弧が位置していたために、衝突が始まったのである。その後はフィリピン海プレートの北上に伴ってどんどん衝突が進行し、その結果丹沢山地などがそびえ立ったのだ。
伊豆半島そのものが本州に突き刺さったのは、60万年前だと言われている。もちろんこの衝突は現在も続いている。そのためにこの地域には、活断層帯①神縄断層・国府津ー松田断層
②入山断層・藤野木ー愛川断層:が密集しているのだ。

安山岩は、英語で「andesite」というが、これは南米アンデス山脈を特徴づける岩石、いわば「アンデス岩」という意味である。アンデスのアンを安とし、山脈を山として略して安山岩という日本語訳になったと言われている。

私たちが提唱している「大陸は海で誕生する」

初期島弧地殻(玄武岩質)⇒大陸地殻(中部地殻:安山岩質)+ 反大陸物質

ところで、伊豆・小笠原・マリアナ諸島は、伊豆半島から南に2,000kmも連なっており、この全域で大陸地殻がつくりだされつつある。そして、この大陸地殻は、フィリピン海プレートの
動きに乗って日本列島へ次々と衝突してくるのである。つまりこの衝突によって、これからも日本列島はどんどんと大きくなるはずなのだ。
日本列島が5%ほど大きくなるには、1,000万年くらいの時間はかかるのだ。

伊豆諸島青ヶ島の麦焼酎、アルコール度数35


~~四月 筍と桜鯛―瀬戸内海のなりたち~~
料理とは、理(ことわり・理屈に則って)を料(はか)る(うまく処理する)ことである。

「鳴門海峡と明石海峡はどうして潮の流れが速いの?」
その原因は海洋潮汐、つまり潮の満ち引きと地形にある。
「淡路ダム」の東西(紀伊水道と豊後水道)で海面の高さが大きく違うこととなり、その結果、明石海峡と鳴門海峡では東から西へと滝のように海水が流れ込むのだ。
少し時間が経つと、今度は豊後水道が満潮になり、そのときは紀伊水道では潮位が下がり始めている。すると豊後水道から瀬戸内海へ海水が流れ込む。

~~五月 こしび―盛り上がる紀伊半島~~
六甲山地の紫陽花の澄んだ青色は、日本一との評判だ。
紫陽花の青色は、土壌中のアルミニウムイオンが原因である。
六甲山地をつくる花崗岩には、長石というアルミニウムに富んだ鉱物がたくさん含まれている。

紀伊半島の先端潮岬は、まさに黒潮に洗われる場所であり、那智勝浦港には、すぐ沖でクロマグロを捕ることができる利点がある。

紀伊半島の中央部から南部にかけて、周囲より熱い岩帯が広く分布している。
この地域には温泉が点在し、なかには源泉温度が80℃を超えるものもある。
高温の岩体が地下に存在すると、この部分は周囲より軽くなり、その結果地盤隆起。

有馬温泉は、フィリピン海プレートから絞りだされた熱水が湧き出したもの。
紀伊半島は火山がないのに、なぜ高温なのか?
1,400万年前に起こった驚天動地の巨大火山活動に原因がある。
そのときに地表に噴出しなかったマグマは地下で固まってしまったが、それがいまだに高温を保っているのだ。この地域には「大峯・大台カルデラ」と「熊野カルデラ」が存在していた。
「大峯・大台カルデラ」の面積は1,000平方km、「熊野カルデラ」は700平方km。
世界で有数のカルデラである阿蘇や姶良でも300~400平方kmであるから、紀伊半島のカルデラがいかに超巨大なものであるかわかる。

~~六月 穴子と鰻―海底火山でのランデヴー~~
うまみは皆無だがとにかく巨大なクロアナゴやウミヘビの仲間であるマルアナゴまでもが、アナゴと称して寿司屋でだされるようになってしまった。明石のアナゴ専門店でも韓国産を使っているところもあるようだ。近畿大学では、瀬戸内海で捕れた稚魚を成育させて出荷を始めている。
伊勢湾でも養殖が行われていると聞く。

ウナギの産卵場は西マリアナ海嶺の1つ、スルガ海山である。
☆東からマリアナ海溝、伊豆・小笠原孤→マリアナ孤と西マリアナ海嶺に分離→九州・パラオ海嶺(沖の鳥島

海底からそびえたつ富士山クラスの海山の頂上付近、深さ200mあたりが産卵の場所らしい。
「親ウナギは、広い太平洋でそのスルガ海山を見つけるのは大変じゃない!?いくら高い海底火山だといってもそこまでのルート案内があるわけじゃないし・・・」
東京大学ウナギ博士:塚本勝巳教授の説はこうだ。
親ウナギは伊豆・小笠原孤に沿って形成される小笠原海流に乗って南下する。そして、熱帯域の激しい降雨の影響で塩分濃度が下がった海水に変化する所の海山を、逢い引きの場所としている。

ウナギは海水の塩分濃度でデートスポットを認識している。ところが、エルニーニョとよばれる南太平洋東部海域の異常高温現象が起きると、海面からの蒸発がさかんになり、積乱雲が大量に発生し降雨量が増える。つまり、「低塩分海域」が東の方へ移動するのである。その結果、マリアナ付近の低塩分海域は小さくなり、南へと移動することになる。ウナギの産卵場は南へ移動しつつある可能性が高い。
すると、フィリピン沖でミンダナオ海流に乗って南下するのが多くなって、日本へ向かうのが減ってしまうのだ。

「あ、そういえば、アナゴはどこで産卵するの?やっぱりマリアナ?」
実はこの謎が解けたのは2012年のことである。
それは、九州南東部からパラオ島まで南北に連なる海山列(九州・パラオ海嶺)の沖の鳥島近海である。

伊豆・小笠原孤と九州・パラオ海嶺の2つの海底火山に挟まれた所は「四国海盆」と呼ばれる。
異変が起こり始めたのは、2,500万年前。
古伊豆・小笠原・マリアナ孤が東西に裂け始めたのである。

~~七月 鱧と昆布―地球大変動と生き物たち~~
ハモ・・・3,500本の骨をもつ魚

~~八月 ぐじと鯖―沈み続ける若狭湾~~

~~九月 蕎麦と鮑―火山の恵み~~
「やっぱり新蕎麦は違うね~」と、わけのわからないことを言っていた。
その店は新蕎麦の頃以外はうまい蕎麦を出していないということになる。
南半球にあり、日本とは季節が逆転しているタスマニアからも良質なものが輸入されている。

麺類のコシとはもっちりとした噛み応えのことであり、これは小麦や大麦に含まれるタンパク質の一部が水と反応してつくるグルテンが原因である。
しかし、ソバにはこのタンパク質は含まれない。もしもコシのある蕎麦を提供するというなら、それは大方がつなぎ粉でつくったものに違いない。

「グルテンねぇ。じゃあ、どうしてウドンには塩を入れるのかしら?」
塩を入れることでグルテンの構造が引き締まり、生地の弾力性が増すからである。
茹でるとグルテンが壊れやすくなるので、あらかじめしっかりした構造にしておくのだ。

パスタの原料となるヂュラム小麦はグルテンとなるたんぱく質が多く含まれているので、生地つくりの過程で塩を入れなくともコシがでる。茹でるときに塩を入れるのは日本特有の事情だ。それは、日本が軟水の国であることに由来する。グルテンは硬水で茹でると壊れないが、軟水では破壊される。そこで擬似硬水とするために塩を加えるのだ。

ソバの生育にはやせた土地でも育つ。
やせた土地とは、生育に必要な成分、リン酸、カリウム、窒素などの成分に乏しいということ。
火山灰からなる土壌では、土壌中のアルミニウムとリン酸が強く結合して、植物はリン酸を取り込めない状況になる。つまり、火山地域でソバの栽培がさかんに行われたと考えられる。

隠岐や竹島、それに韓国済州島では良質のアワビが捕れる。
アワビの餌は藻類である。

「えっ、隠岐の島も済州島も火山島なの?
だって列島の火山は、海溝に並走するようにできてるって・・・なのに、こんなに海溝から離れた海の中に、どうして火山ができるの?」

東日本火山帯
西日本火山帯
これらの島だけでなく、日本列島の背後には広大な火山地帯が広がっている。
「背弧域火山」
これらの火山の下には、沈み込んだ太平洋プレートが、600~700kmの深さのところに横たわっていることがわかってきたのである。マントルをつくる鉱物は、深さ670kmを境に大きく密度を変化させるのである。そのためにプレートはこの境界である上部マントルと下部マントルを突破することができずに、その深さあたりに漂うのである。

~~ 一〇月 松茸と栗―列島の背骨、花崗岩~~
国内では年間100トンも収穫できない松茸は、中国、朝鮮半島、北米、さらにはトルコや北欧からも輸入されている。これらは当然ながら鮮度が落ちる。そのうえ防疫の観点から、土をきれいに落とすために戦場されているのである。これでは香りがなくなってしまっても仕方がない。
中には香りを補うために、松茸のエッセンスを振りかけて店頭に並べられる輸入ものもあるという。松茸の香りの源は、日本人科学者が抽出に成功した「マツタケオール」とよばれるアルコールの一種である。

そうではない。松茸衰退の最大の原因の1つは、林の富栄養化である。
松茸は、貧栄養で乾燥した花崗岩質の土質を好む。したがって、葉や枝が地表に落ちて腐葉土ができ上がると松茸の生育には向かなくなるのである。かつて里の人々は林に入り、落葉を肥料に使い、枝打ちをして燃料にしていた。しかし化学肥料が普及し、燃料も多様化すると、林は風通しも日当たりも悪くなり、腐葉土が厚く地表をおおってしまったのである。

松茸は日本酒と同じく、列島の花崗岩からわたしたち日本人へ下されたものなのだ。
「なぜ日本列島には花崗岩が多いの?プレートが沈み込むことでできるのは玄武岩だと言っていなかった?玄武岩マグマが花崗岩に変化するの?」

日本列島のような沈み込み帯でプレートから絞りだされた水は、その上にあるマントルを融かして、二酸化ケイ素を50%程度含む玄武岩質のマグマをつくる。

==プレートはなぜ動く?==
プレートが沈み込む、または落っこちるのは、周囲のマントルよりも冷たくて重くなるからである。したがってプレートが沈み込むと、まるで垂れたテーブルクロスに重りをつけたような状態になる。するとこの部分に働く力によって地表付近のプレートにも引っ張り力が働き、海嶺でプレートが引き裂かれる。そしてその裂け目を埋めるようにマントル物質が上がってきて、マグマが発生して新たなプレートをつくるのである。

~~11月 芋焼酎とワイン―巨大カルデラとサンゴ礁~~
東京から南に1,000km、2013年11発20日、西之島で噴火がはじまった。
この島は、太平洋プレートの沈み込みでつくられた伊豆・小笠原・マリアナ弧に属する火山島で、水面下には富士山クラスの火山が潜っている。
この大陸は日本列島にくっつくのである。

蒸留酒
原材料:糖質(単発酵)
糖化作用ーーー
代表的な種類(原料)
ブランデー(ぶどう)、ラム(さとうきび)、テキーラ(竜舌蘭)

蒸留酒
原材料:でんぷん質(複発酵)
糖化作用:麦芽
代表的な種類(原料)
ウィスキー(大麦、ライ麦、コーン)・ウオッカ(ライ麦など)ジン(麦類、コーン)

蒸留酒
原材料:でんぷん質(複発酵)
糖化作用:黒麹・白麹・黄麹菌
代表的な種類(原料)::焼酎(芋、穀類)・泡盛(タイ米)

醸造酒
原材料:糖質(単発酵)
糖化作用:ーー
代表的な種類(原料)::ワイン(ぶどう)・シードル(りんご)

醸造酒
原材料:でんぷん質(複発酵)
糖化作用:麦芽
代表的な種類(原料):ビール(大麦)

太平洋のど真ん中でのサンゴ礁のでき方で大切な点は、石灰石(サンゴ礁)の下に火山が存在していることである。


「日本列島の石灰石はハワイ起源?それともポリネシア起源?」
ハワイ諸島の北西には海山が列をなして連なっており、その先はカムチャッカ半島沖へ続いている。しかたってハワイ起源ではないと想像がつく。しかし、本当にポリネシア起源の海山なのか。そこでわたしたちはポリネシアのホットスポット火山の岩石と、日本列島の石灰岩地帯にある海中溶岩の化学組成をくわしく調べてみた。同じ特性を示したのである。

これらポリネシアの海底火山は、いずれも3億年前に誕生したものであった。
この時期にポリネシア域で大規模な火山活動が起こったようである。

コニャックやアルマニャックなどのブランデーは、白ワインを蒸留したものを樽熟成させるために色と香りが移る。フランスではeau-de-vie(命の水)とよぶ。

~~12月 河豚―九州島が分裂する!?~~
無毒のフグの養殖は可能らしい。
栃木県や佐賀県では、海洋細菌の影響を受けない陸上養殖によって、無毒フグの養殖に成功している。しかし、フグが毒を蓄積するメカニズムが完全に解明されていないので、厚生労働省がフグ肝食の許可をださないのであろう。

日本列島周辺におけるフグの主要な産卵地は10ヵ所以上が確認されている。
いずれも水深が10~15mの海底で、水流が速く小石混じりの砂地である。
なかでも伊勢湾口と有明湾口はいずれも干満の差が大きく、そのため潮の流れが速く砂地の海底となる。これが大規模な産卵地となる理由である。

「別府ー島原地溝帯」
「鹿児島地溝帯」
*地面に溝状に沈降帯が存在する場所で、有名な例ではアフリカ大陸東部を縦断するアフリカ大地溝帯がある。


九州は年間1~2cmの速度で南北方向に分裂し、地溝帯は年に2~3mm沈降を続けている。
このままいくと、1万年くらいさきに九州は北島と南島に分断されてしまう。
「別府ー島原地溝帯」の拡大現象は、琉球列島の背後(大陸側)にえんえんと続く「沖縄トラフ」とよばれる沈降帯・地溝帯の延長なのである




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