著者:ハリー・クリフ
訳者:熊谷玲美
発行:柏書房 2023
原書名:How to Make an Apple Pie from Scratch
物質が何からできているかを、原子から始めてどんどん細かくその構成物質をたどっていく話。電子の発見、陽子の発見、中性子の発見、それらが核融合反応で元素を形成していくことが、発見者のストーリーを交え詳しく語られている。恒星内の核融合反応では鉄までしか生成できないということは他の書でも書かれているが、酸素、炭素、窒素などの生成過程が詳細に書かれているのをはじめてみた。話は、さらにクォーク、ニュートリノ、ヒッグス粒子など素粒子の標準モデルの話が分かりやすく展開され興味が尽きない。クォークの色というのは、強い力の作用にかかわるもので、電磁気力では+と‐しかないが、強い力では3種類(赤、緑、青)あり、それぞれの作用の説明にはなんだか少しわかったような気になった。
著者はCERNのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)でLHCbでの実験に携わる研究者で、LHCの話が全編を通じて語られている。加速器をどんどん大型にすることは、構成物資をさらにその構成物質が何かを求めていく要素還元主義に基づいているが、要素還元主義パラダイムは間違いであるという物理学者の話が出てくる。短い距離で起こっていることは、長い距離で起こっていることにとって重要でないというのである。「ニュートンは惑星の動きを解明するために、クォークについて知っている必要はなかった。」というある物理学者の言葉でそれが説明されていた。それでは、物質が何でできているのかをどう説明して行けばよいのか、還元主義に代わるパラダイムはどのようなものなのか、の話があればなおよかった。
そのほか、本書には、ガモフらによるビッグバン理論、湯川博士の中間子、スーパーカミオカンデ、ヒッグス粒子発見、重力波検出など様々な話が理解しやすく(あるいは理解したと錯覚しやすく)語られており、大変面白かった。
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